治部煮/ネームプレート/ベルリン
治部煮
鍋に出汁やら醤油やらを入れて
私は鍋を見つめることにした。
治部煮とは、その音から治部煮というそうだ。
じぶじぶじぶ。鍋に耳を傾けて鼓動を聞く。
何も主張しないその音は
だけれども料理の名前を冠するようになった。
じぶじぶじぶ。染み渡るような音。深い深い、引き込まれるようなー
たまらず私は火を止めて、器に入れてわさびを乗せた。
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ネームプレート
私は私の部屋にいるのに
私の部屋のドアプレートは掛け変わっていく
一つ前に見た「ちゅうがくせい」の文字
背伸びしたようなその字を見てから、私は部屋を出ていない
私はドアを背にして座り
掛け替える音の騒がしさ
ぱたぱたぱたぱた
私はここにいるのに
ぱたぱたぱたぱた
プレートは変わり続ける
ぱたぱたぱたぱた
私は死ぬまでに
ぱたぱたぱたぱた
ここを出られるのだろうか
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ベルリン
地図に指寄せ、唇が囁く
ベルリン。
どんな、街だろう。
歯型のついた食パンを見つめる。
ベルリン。
昼の四時。パンの向こうには薄暗いレンガ。ベルリンっ子が西から東。
ベルリン。
藍を帯び始めた空の下に鳴り響く鐘。消えない重音。響く低音。
ベルリン。
私にのしかかった空気から、地図帳に見えた一瞬の自由。
ベルリン。
どうぞ、私を攫って。
ベルリンどっかで聞き覚えあるんですよね…何かと被ってるかも…