ギルドにお邪魔
ピスコさんに連れられてたどり着いたのはサソリのマークの入った看板が目立つ建物だった。
ここがギルドか。とぼーっと看板を眺める俺をピスコさんは手招くと、ギルドの扉を開いた。
「ピスコさんお帰りなさい。あら? 後ろの方は?」
扉の先に現れたカウンターには、メガネをかけた黒髪ショートのお姉さんの出迎えがあった。
切れ長の瞳、凛とした口元。そいてなにより口元のホクロがいい! 可愛いというよりも綺麗な人だ。
そして、俺を見るなりちょっぴり首をかしげるその仕草は実に可愛い。ギャップ萌えだ。美人でありながら可愛い要素も入れて来るなんてずるいくらいだ。
「おお、シャウラ。丁度いい、奥の部屋に彼を通しておくれ。あと、儂からの依頼として彼の知人を探して欲しい」
「承知しました。それではお客様、こちらへどうぞ」
ピスコさんはメガネの女性にシャウラと声をかけて指示をすると、淡々とそのシャウラさんは俺を促して歩き始めた。
その後ろを、おしりを眺めつつギルド内を見つつ付いて行く。
ちらほらと剣を持った青年や斧を持った大男等、冒険者と思わしき人もいるようで、ちらちらと俺を見ているような視線を感じる。
少し気恥ずかしい。
まあ、部外者がお偉いさんとともに入ったらそれは驚くよな。俺も働いてた時に部長が知らない人と社内を歩いてただけで査察かな?とか思ってジロジロ見てたし。
「すみませんね、突然来てくれって言われたんですよね。視線気になりますよね、大丈夫ですか?」
「あ、いえ。こちらこそ突然すみません」
「困惑されたでしょう? ピスコさん、気に入った人をその場で勧誘して来ちゃうから」
「そうなんですか。普段からあちらで?」
「はい、暇な時にあそこに座ってオーラを見てるって言ってます」
シャウラさんはピスコさんの話をしながら苦笑いを浮かべていた。
ピスコさん、暇な時にあんな事してるのな。だから椅子とか片付けないで置いて行ったのか。
「でも、ピスコさんが勧誘して来た人って凄い人ばかりで。だから、あなたが入ってくれたら嬉しいなって思います。私はここで受付をしておりますシャウラと申します。もし入られた際にはお気軽にご相談ください」
「あ、えと、その、俺は前です。こちらこそ入った時にはお願いします」
シャウラさんの何気ない自己紹介のあとに繰り出される笑顔に胸を貫かれたような衝撃を受ける。こんな人が受付にいたらこのギルドに依頼しちゃうわ。
「それでは、こちらの部屋になります」
シャウラさんはとある部屋でその歩みを止めると、部屋の扉を開いた。
部屋の中は真っ赤な絨毯、革張りのソファ、なにか良くわからない材質だけど黒くて高級そうな机といかにも高級ですというような物が並ぶ部屋に通された。
え、俺はどういう扱いなの?
「コーヒーと紅茶、どちらがお好みでしょう。淹れてきますね」
「あ、ではコーヒーで」
「かしこまりました」
シャウラさんは一礼すると、部屋から出て行ってしまった。
だだっ広い部屋にただ一人。落ち着かない。
そわそわしながらソファに座って待とうか、いや、座るのは失礼か、でも立ってると相手に気をつかわせてしまうなんて事を考えていると、ノックが三回鳴ってピスコさんが部屋に入って来た。
どうやら着替えて来たようで、小綺麗な貴族のような服に、ボサボサだった髪を後ろに束ね先ほどのボサボサの野暮ったさはなく、今見ればああ偉い人なんだろうと分かる姿になっていた。
「待たせたのう。こんな堅苦しいのはあまり好きじゃないんじゃが、儂にも立場があってのう」
「あ、いえお気になさらず」
「ありがとう。あ、とりあえず座ろうか」
「そうですね、失礼します」
ピスコさんが腰かけたのを確認すると、俺もソファに腰掛けた。
そしてすぐさまピスコさんが口を開いた。
「改めて自己紹介と君を呼んだ目的を話すとしよう。儂はピスコ。このギルド、アンタレスでギルドマスターをしておる。そしてお主を呼んだ目的についてじゃが、このギルドに勧誘したい。もちろん悪い話にはせん、お主の望みもある程度聞こう」
「……話が急すぎて申し訳ないのですが何故俺を?あそこの通り、俺以外にもいたでしょ?それこそ俺よりがたいがいい人もいたと思うし」
「いや、フィジカルだけ見れば優れた人材は掃いて捨てる程おるが、お主は特別じゃ。この部屋は防音や盗聴対策も問題ないからはっきり伝えさせてもらうがお主、光魔法を扱えるな?」
「…え、な」
「なんでって思うじゃろ? これが儂のスキル、見透かす瞳というものじゃ。眺めるだけでも相手の状態がある程度分かるし、目を合わせればより詳細に知ることが出来る。だからこそ、お主の目を見て魔法、スキルを知ってしまい、勧誘したんじゃ。非礼を詫びさせてもらおう。すまない」
ピスコさんは深く頭を下げた。
しかしだ、別にそういう事はどうでも良くて一つ気になる事をピスコさんは言っていた。
スキル?魔法じゃなくてスキル?まだ何かあるの?
ギルドの長が逃すまいとか思うくらいだ、とんでもないスキルを持ってしまってるんじゃないのだろうか。
「ちなみにスキルって?」
「しらばっくれんでもいいじゃろう。あんな凄いスキル、儂も初めて見させてもらったが」
ピスコさんは大きくため息をつくと、俺をじっと見つめた。
「お主の持ってるスキルは英雄の雛。世にも珍しい成長するスキルで、かつて女神が勇者に付与したとされるスキルじゃ」




