見透かされて、ついてって
ようやく服を購入し、俺とルナは街の風景に溶け込むことが出来た。購入したというか購入してもらったというか。
よくよく考えれば俺もルナ様もこの世界のお金を持っておらず、レイアのお礼だという好意にすっかり甘えてしまった。
これでは勇者も立派なヒモだ。
「レイアすまない、ほんとにありがとう」
「いやいや、命の恩人にこれくらい当然だよ。むしろまだお礼をしたりないくらい」
「私も、今回ばかりはお礼をさせて頂きます。嫌いですが、ありがとうございます」
「ルナはついで。ゼンだけに買っちゃうとゼンが気を使うから。というか一言多いし」
お礼くらい素直に言えばいいのに。相変わらず喧嘩腰で礼を言うルナと、売り言葉に買い言葉で喧嘩腰で返すレイア。
ありがたいのはありがたいのだが喧嘩ばっかりはちょっと疲れる。
買ってもらった手前、お灸を据えるのは止めとこうかなとためらっていたが、その気持ちは無くなったのでサクッと悪戯を決行することにする。
まあ簡単なもので喧嘩している二人の目を盗み少し離れるだけだが。
まあちょっと離れるからちょっとは反省していてくれよ。
俺はそーっとその場を後にした。
□■□
「ここはどこだ」
少し離れるだけ。そう思っていた時期が私にもありました。
でも、仕方ないじゃん。見るもの全てが新鮮で色んなものに目移りしちゃっていたらさ、その、道に迷いました。
保護者的な立場のルナもいないし、無一文だし状況的には最悪としか言えない。
大きくため息をつく。
願わくば、ルナがとんでもパワーで俺を見つけて欲しい。
「おい、そこの男。様々な色が混じったオーラが出とるのう。ちょっとこっち来なさい」
「え? 俺?」
「そう、お主じゃ」
道端で占い師のように机一つを前に起き、椅子に腰掛けているおじいさんが俺を手招きした。
白髪で髭もじゃ、魔法使いのおじいさんを想像させるようなおじいさんで怪しさ満点だ。
でもまあ、する事もないから少し話して見るか。
「金はないけどいい?」
「ほっほ、構わんよ。趣味でやってるようなもんじゃ。それよりお主、おもしろいのう。おっそろしいほど女難のオーラと受難のオーラがくっきりと出とるわい」
「え、分かる?」
「いや、もう可哀想なくらいじゃよ。消える気配はないのう。死神にでも好かれたか?はっはっは」
高笑いをされてしまったが笑い事ではない。死神ではないが神様には好かれてるっぽいんだよなあ。しかもカンスト高感度で。
それにしても消える気配がないとは、笑えない問題だ。
「じゃが、悪いオーラもすごいんじゃが、それ以上に良いオーラが濃いのう。お主、名はなんという?」
「俺?ゼンだけど」
「ほうほう、ゼンか。ゼン、お主のオーラをもう少しじっくり見せてくれんか?目を見ておくれ」
「ん? こうか?」
言われるがままおじいさんの目をじっと見つめる。
吸い込まれそうな黒い瞳。
全てを見透かされるような変な気持ちだ。
「ふむう……。成る程のう。お主、少々特殊なようじゃ。儂も長い事色々な人を見ているがお主ほどの人材は珍しい。お主がよろしければじゃが儂について来てくれんか?」
「うーん、別について行くのはいいんだが今は迷子でなあ。探している人がいるんだ。だから、悪いけど遠慮しておくよ」
「なんじゃ、それくらいなら儂のとこの若い奴に探させてやるわい。だから、どうじゃ? いや、回りくどい事はやめよう。来てくれんか?」
「どういう事? あんた一体何者なんだ?」
「申し遅れたが儂は冒険者ギルド、アンタレスのギルドマスターをやっておるピスコというものじゃ。来て欲しい理由は勧誘じゃな」
ピスコさんはお世辞にも身なりは良いというわけではなくぱっと見浮世離れしている風貌だ。ギルドマスターとか偉い立ち位置にはとてもではないが見えない。
半信半疑ではあるが、俺を見て勧誘をするという事はただ人材不足なのか、もしくは俺の力を分かっての事なのか。
もし後者であればと思うと、興味が湧いた。
「ギルドのマスター様とはな。フランクに喋りすぎたな、いや、喋りすぎましたね、すみません。勧誘を受けるかどうかはついて行った結果次第で構いませんか?」
「ああ、構わんよ。むしろ興味を持ってもらえただけでもありがたい。それではついて来ておくれ。君の連れ探しはギルドに到着したら若い者に頼むでの」
ピスコは椅子から立ち上がると、机も椅子もそのままに歩き始めた。




