ルナの欲にまみれた睡眠スキル
少し間に合わなかった……。すみません。
前代未聞だろう。国家転覆を図った犯罪者を捕らえた英雄が、その犯罪者を逃すというのは。
「こっちに来てください」
俺は、牢屋の扉を開け放しレイスを手招くと、ドレスの端を摘んで、レイスが駆け出す。
悪い事してなきゃちゃんと姫様なんだな。と、レイスをぼんやり見ていると、後に続いていたルナが俺の脇腹をつつく。
「私も見つめてください」
「こんな状況でもルナはルナだなあ。状況を考えろ。ほら、行くぞ」
半ば呆れつつ、ルナのおでこにデコピンをすると、イアさんの待つ扉の方へ歩いて行った。ルナはというと、嬉しそうにおでこをさすってニヤニヤしながら後を付いてきた。
やれやれ。
「さて、ここから先は絶対にレイスは喋らないでください。ここが一番の正念場です」
扉の前でレイスに注意を促すと、レイスは深妙な顔で頷いた。
よし、レイスは理解してくれたはず。次はルナだ。
「ルナ、誰かを眠らせるとかそんな力ある?」
「ふっふーん。私を誰だと思ってるんですか? 当たり前に持ってますよ。前さんを眠らせてむふふな事が出来るように、ドラゴンでも眠らせる威力があります」
やっぱり持ってたか。という予想が当たって安心した気持ちと、予想の斜め下をいく自白にげんなりする。褒めるべきか、叱るべきか悩み後者を選んだ俺は、ルナのおでこにチョップした。
「あいた! なんでチョップするんですか! バカになっちゃいます! まあ、前さんもバカップルという点では、バカかもですが」
「安心しろ、もうバカだ」
へこたれないルナを冷静にけなすが、ルナは全く反省の色を見せない。
またまた。とか嬉しそうに頬を赤く染めてるルナを見て、ほっとこうと判断した俺は、目当ての事も聞けたので扉を三回ノックしてイアさんに声をかけた。
「イアさん、お待たせしました。開けてください」
聞こえただろうか? もうちょっと大きい声で呼んだ方がいいか?
あれこれ考えてみるが、その考えも徒労に終わり、すぐさまイアさんの返事が返ってきた。
「かしこまりました。いやはや、大層お話されてたんですね。まさか、レイス様を逃してるとかありませんやね。ふふっ」
イアさんの軽口のように冗談めかした声と、かちゃりと鍵が開く音が聞こえる。
ゴゴゴとゆっくり扉が開くや否や、ルナに指示を出した。
「ルナ、イアさんを眠らせてくれ」
「了解です!」
「な、何を……! ぐっ……」
ルナは素早く扉の外へ出ると、イアさんの顔面を右手で鷲掴んだ。
なんか思ってたのと違う。なんかこう、催眠術のように目前で手をかざしてだんだんと眠らせるのかな。とか思ってたら、がっつりイアさんが苦しそうな声を漏らしてすぐさま膝から崩れていった。
「ふっ。私にかかればこんなもんです。さあ、前さん! 私を褒めてください。ご褒美ご褒美!」
「おお、偉いな。じゃあ次の仕事が待ってるぞ。レイスの状態を見れるか?」
嬉しそうに報告するルナに、続いての仕事を与える。
ルナはみるみるがっかりした顔をするが、すぐに真面目な顔に戻ってレイスを見つめた。
「レイスさん、扉の外へ出てくれませんか?」
「は、はい。えと、イアは大丈夫ですよ?」
「大丈夫です。私の手にかかれば何の心配もないです」
サムズアップして自信満々なルナを、レイスは不安そうに見つめつつ、扉の外へ立った。
「では…………」
ルナが、じいとレイスを見つめる。顔から手先からつま先から全体を観察する。
俺もレイスも一言も発さない。真剣な表情のルナを邪魔する事はしない。
緊張感が漂う数時間とも思えるような数分間。そして、ルナがようやく口を開いた。
「前さん。予想的中です」
次回投稿は3/15の予定です。




