キャッチアンドリリース
よろしくお願い申し上げます。
「ど、どうしてゼン様が?」
お、いたいた。
レイスの慌てたような声が扉の向こうから聞こえてきた。
「ちょっとお話しをしたくて」
「えー……」
ちょっと来てみた。そんな感じの軽いノリで返答すると、レイスの呆れた声が聞こえてきた。
まだ顔は見えていないが呆れて顔をしているだろう。
「むー、私もちょっとお話ししたくて。とか言って来てほしいです。鍵を開けとくので今夜来てください。大丈夫です。危険日なので」
「はいはい」
ぶーたれて、とんでもない事を口走りやがるルナ。危険日で何が大丈夫なんですかねえ。と思いつつ軽く流すと、ますます頬を膨らませていた。
だが、俺はルナをなだめることもなく、俺は鍵を鍵穴に差し込む。
「今から開けるんで、お邪魔しますね」
「え? はい?」
レイスは、理解出来てないような素っ頓狂な声を上げているが、気にせず鍵をひねる。
かちゃりと高い音が鳴り、鍵が開いたのがわかる。
俺はノブに手をかけると、扉を開けた。
先程の扉と同じようにゴゴゴと扉が鳴り開かれる。
扉の先には、口をポカンと開けているレイスが、信じられないものを見るかのように俺とルナを見つめていた。
「え? どうしてですの? どうしてゼン様とルナ様がいますの? あ、夢ですのね。頬をつねれば……痛い!」
レイスは動揺のあまり、夢と勘違いして自らの頬をつねり痛みの為頬をさする。
これで夢ではないとわかっただろう。
「夢ではありません。ちょっと来ました」
「そんな軽い感じで来れるんですのね。わたくし、もう二度とゼン様に会えないと思ってましたわ。だから、すごく嬉しく思いますわ」
レイス憔悴しているだろう、力ない感じではあるが笑顔を見せた。
「で、何故いらっしゃったんですの? こんな悪者の部屋にいらっしゃるなんて。逃げるチャンスと思って逃げますわよ? その足でソアレの元に行ってしまうかもですわ」
「本当にですか? そうなるともう一度戦う事になりますね」
「ふふっ、冗談ですわ。ソアレに会いたい気持ちはあれど、逃げる気もないですわ」
レイスはそう言ってまた笑みを浮かべる。
どうやら嘘は言ってないだろう。逃げる素振りを見せる様子はない。
「本当に変わられましたね。昼間とは別人のようだ」
「そうなんですの。なにかスッキリしたような、そんな気分ですの。コテンパンにしてやられたからですわね。ルナ様には参りましたわ」
俺がレイスの昼との違いを指摘すると、レイスは苦笑いを浮かべて頬をかいた。
「ふふん、愛の力です」
そんなレイスを見ながら、ルナは嬉しそうに鼻を鳴らす。見事なまでのドヤ顔だな。
「さて、本題に入りますが、レイス、あなたをここから出そうと思います」
「「…………は?」」
レイスとルナの声が見事にハモる。
まあそりゃそうだよな。
レイスは自分を捕らえた人間が自分を逃がそうとする意味を理解出来ないだろうし、ルナは自分が捕らえた人間を逃がそうとする意味が理解出来ないのだろう。
「理由はあります。まず、この部屋ではスキルが使えない。俺も、そしてルナも。なので、この部屋を出てルナにあなたの状態を見てもらう必要があるのです」
俺の説明を聞き、ルナが納得したように小さく頷く。
だが、レイスはまだ納得した様子ではなく頭にいくつものクエスチョンマークが浮かんでるようだ。
まあ、当然の反応だろうな。
「レイス、あなたの様子は驚くほど変化しました。先程も言いましたが昼間と今では別人です。これはあくまで仮説ですが、洗脳や催眠のスキルを使われたのではないかと疑っております」
「!? わ、わたくしが操られてたと言うんですの?」
「あくまで仮説です。だから、洗脳されてないと分かればあなたをまたここに戻します。でも、洗脳されてるのであれば、そいつを突き止めなければならない。そうしないと、またノーブル国に、レイアに危機が訪れてしまいます」
「レイアに!? そんなのダメですわ!」
仮説の説明の最中、レイアの危機に反応しレイスの顔は青ざめていく。
その表情は心から妹を心配する姉に他なかった。
「ですから、あなたの状態を確認させてください」
俺が真剣な眼差しでレイスを見つめると、レイスは慎重にだが、真っ直ぐな意思を持って頷いた。
次回投稿は3/14を予定しております。




