大団円の宴会で
「ゼン、それは俺が狙ってたやつだぞ! 先輩に譲れ!」
「絶対やだね! ニックは今回活躍してないんだから俺にむしろ献上しろ!」
賑やかな、いや、賑やかすぎる食事。
遡る事十分前、王様が無礼講だといい、なにをしてもらっても構わないと言ったところからはじまる。
テーブルの上に並べられた豪華な食事の山。肉、魚、パスタ、真っ白なパン、フルーツの盛り合わせ。
所狭しと並び立てられており、皿から料理がはみ出さんばかり。
興奮して目を輝かせた俺とニックは、無礼講に甘えて料理に食らいつき、今まさに喧嘩中。
俺が持つ肉の角煮の皿をニックは寄越せと喚いている。
「くそ、活躍してないのは事実だからなんもいえない……」
ニックは肩を落として落ち込む。
やばい、言いすぎただろうか。
「す、すまな……」
「隙ありだ馬鹿め!」
「いってー!」
素直に謝ろうとした俺の頭に、ニックはチョップを食らわしてニヤニヤと笑う。
この野郎下手に出てりゃいい気になりやがって。
「……ニック、ゼン君はしたないよ」
俺たちの醜き争いをたしなめながら、マイペースにアンさんがパンをモグモグ食べる。
傍らには小さな状態のポチがいて、自分より大きな骨つき肉に飛びつくように食らっていた。
「あっはっはっは!」
「こら、ふふ。レイア、大口開けて笑って、ふふふ。みっともな……あはは。ダメね、私も我慢できませんわ」
俺とニックのやりとりを見ながら、レイアは大口を開けて笑い、王女様はそんなレイアをたしなめるかと思いきやつられて笑い出した。
「レイア様、王女様まで! 陛下、なんとか言ってください」
「あっはっは。どれ、私も参加しようかな」
「へ、陛下まで!」
慌ててイアさんがレイアと王女様を注意するべく王様を促すが、王様は注意するどころかナイフを持って腕をまくり角煮争いに参加する気満々。
さらに慌ててイアさんが王様を羽交い締めにして止める。
「陛下、フォークではいささか不利かと。ナイフの方が殺傷能力があります」
「ちょ、ちょっとステラさん、しれっとなに言ってるでありますか!」
「ジョークです。ロカさんもそう慌てなさらず」
ステラさんは王様にナイフを渡そうとし、ロカさんに全力で止められる。
だが、ステラさんはしれっとジョークとのたまって涼しい顔をしている。
わいわいと笑顔が溢れる騒がしい食事会。
ああ、救えたんだなと実感する。
そうだろう、ルナ。
端の席で、この光景を満足そうににっこり笑ってみるルナを見つめる。
ルナは、俺の視線に気付いたのか俺に微笑みかけた。
「ニック、これやるよ」
「お? 急にどうした? まあ、殊勝な心がけだな」
俺は角煮の皿をニックに渡すと、ニックは満足そうな顔をして頷く。
手ぶらになった俺はルナの元へ行くと、ルナははっとした顔でフォークにオレンジを刺すと俺に差し向けた。
「あーんがして欲しかったんですか?」
「断じて違う」
ルナのフォークを手で制して隣に座る。
すると、ルナは嬉しそうににまにまと笑った。
「なんですか、前さん。わざわざ私の隣に。恋しくなっちゃったんですか?」
「ははは、寝言は寝て言うもんだぞ」
「むう、相変わらずいけずですね」
ルナはぶーたれて、俺に食べさせるつもりだったオレンジを口に運ぶ。
いけずのつもりはないんだがなあ。
「恋しいわけではないが、ルナの隣には来たかったかな」
「ぶっ! ゴホッ! ゴホッ!!」
「おわっ! ルナ、大丈夫か!?」
急にむせるルナに、慌ててその背中をさする。
オレンジが気管支にでも入ったか? そうだとしたらしんどいよね。
「ぜ、前さん! 急になんですか、びっくりするじゃないですか!」
「い、いや、驚かせるつもりはなかったんだが」
「もう、そう言う事を言うときは前もって言ってください!」
「は、はい」
ルナの剣幕に押し切られて頷いてしまったが、前もって言う内容か?
少々疑問が残るが、うだうだ言ってもしょうがない。
「で、どうして急に私の隣に?」
「いや、今回の功労者だからな、ルナは。だから労おうと思ったわけだ」
「え?」
驚いた表情のルナに、俺はにっこり笑ってフォークにオレンジを刺してルナに向ける。
ルナは一瞬キョトンとした顔をしていたが、みるみるにやけていき、餌を垂らされた魚のように目の前のオレンジに食らいついた。




