そして事件は幕を引く
「お騒がせしました」
王様達の所に戻り、レイアは開口一番謝罪をして地面につくほど頭を下げる。
王様は王女様と顔を見合わせると、首を横に振った。
「謝らずとも良い。先ほどミラとも話しておったのだが、レイア、君の父として言わせてもらう。レイアの心の苦しみをわかっていながら申し訳ない」
「ごめんなさい、レイア。私も国の為と思い、レイアの思いを知りながらもなにも言わず庇ってあげもしなかった。本当にごめんなさい」
王様と王女様は互いに謝罪の言葉を述べてレイアに頭を下げた。
先程の、国を任せると行った王様としての言葉ではなく、一人の親としての言葉。
その沈痛な面持ちはレイアを思いながらも自分の立場と葛藤した、そんな顔つきだった。
「お父様、お母様……。本当に、本当にごめんなさい」
レイアは涙をこぼし、腕で涙を拭う。
そんなレイアに王様と王女様はそっと近づき、我が娘を抱き寄せていた。
「終わったんですね」
親子の光景を眺めながら、いつの間にか俺の隣に来ていたルナがポツリと言った。
「そうだな。これで、ノーブルの騒動は終わりかな」
「前さん、お疲れ様でした。レイスとジンは今、地下牢の方へとロカさんによって連れて行かれています。護衛としてニコラスさんがついて行っているので問題はないかと思います。アンさんについては今イアさんが迎えに行っていますよ」
「そっか。……なあ、結末はレイアにとっては悲しいものだったけど、俺は勇者として救うことが出来たのかな?」
ルナに対して、心のわだかまりをぶつける。
口ではなんとでも言える。国を救うことが出来た。命を救うことが出来た。だから良かったんだ。
そんな事、いくらでも言える。
「前さんは、救う事が出来たと思いますよ。そうじゃなきゃ、きっとあの子の心に愛は溢れませんよ。……小癪ですけど」
「え? 最後なんて言ったんだ?」
「救うことが出来たと言ったんです。女神であるこの私が保証します。間違いないです。太鼓判です。証明の為に婚姻届に判を押して差し出しても良い覚悟です」
婚姻届に判はやりたいだけだろ。と思わずツッコミをいれそうになるものの、ぐっと堪える。
せっかくの親子の時間に全力ツッコミは無粋だ。
それに、なぜかルナはブスッとしているが女神として俺の思いを汲み取って保証してくれた。
それが嬉しくて俺はルナの頭を撫でた。
「八十点」
「え?」
「八十点ですよ、前さん。頭を撫でるのは私的に点数高いのですが、やっぱりここは『ありがとう、ルナ。なんて素敵な嫁なんだ。愛してる。今夜、ベッドでね』とかなんとか言っちゃって欲しかったです。そしたらプラス百二十点なんですけど」
なに言ってるんだこの女神は。
感謝の気持ちがすっと薄れて頭を撫でるのを止める。
ルナは、え? と言いたげな悲しそうな顔をしていたがそこは自業自得。反省しろ。
「あ、察しろって事だったんですね。反省します」
そこじゃない。
反省が斜め方向に行き着き、照れたように頭を掻く女神に対して、俺は深くため息をついた。
「ゼン殿」
「え? あ、はい」
不意に王様から名を呼ばれ、慌てて返事を返す。
レイアもすっかり泣き止んでいたが、その目は赤く、王様や王女様も同様に赤い。
でも、すっきりとした表情の三人を見て、良かった。と心から思えた。
「本当に心からお礼を言わせて欲しい。ありがとう」
「え? いやいや、王様頭を上げてください」
なんでこの人はこんなにも軽々しく頭を下げるんだろう。本当恐縮する。
慌てて頭を上げるよう言うが、中々上げてくれない。
「感謝しても足りぬのだ。下げれる頭があるのなら下げ続けたい。本当にありがとう」
「と、当然の事をしただけです」
「いえいえ、本当にルクスの言う通りです。私からも感謝したりません」
「お、王女様までやめてください!」
「私も。本当にありがとう!」
「れ、レイアまで? か、勘弁してくれ」
心から恐縮してしまう。頭を下げる王様、王女様、姫様の並びに動揺が隠せない。
イアさんが見たら卒倒してしまうんじゃなかろうか。
俺は三人に頭を上げるように懇願すると、渋々といった感じで三人とも頭を上げた。
「私たちの感謝の気持ちを込めてなにかお礼をさせて欲しい。本日は給仕に腕によりをかけた食事を提供させよう」
王様の提案を断る理由もない。王族の給仕が腕によりをかけた食事なら楽しみだしな。
「いいですね。とても楽しみです」
俺は二つ返事で快諾すると、王様は満足そうに頷いた。




