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姫様の心を救いたい

「うう……。なんで! どうしてなの!? ……分からないよ」


 ようやく見つけたレイアは、俺たちがお世話になった寝室で一人押し殺すような泣き声を漏らしていた。


 俺は部屋の前、扉を開くことも出来ずにいる。


 かれこれ二分程レイアの泣き声を聞いてるが泣き止む気配は感じられない。


 当然だろう、俺もレイアの立場だったら同じような反応をしている。むしろ発狂していない分レイアの方がましだとも思う。


 でも、このまま放ってはおけない。


 首を突っ込んだのならば、最後まで突っ込ませてもらおう。


 俺は、ぎゅっと拳を握り扉を三回叩いた。


「レイア、聞こえるか」


「……ゼン?」


 俺の問いかけに、レイアは小さな声で返す。


 とても不安げでか細く、いつもの調子は微塵も感じられない。


「その、なんだ。大丈夫か? ……いや、大丈夫じゃないよな。その、なんというか心配でさ。俺で良ければなんでも言ってくれよ」


 しどろもどろながら、自分の思いを扉越しに伝える。


 レイアの抱えている問題は計り知れないけど、俺が理解するにはレイアの思いを聞くしかない。


 聞かせてくれるだろうか。


 返事が聞こえない間が続く。これは、ダメだったんだろうか。


 もう一度問いかけてみようか。


「……うん、聞いてほしい。でも、扉は開けないで」


 もう一度口を開く前に、レイアの涙声が返ってくる。


 扉は開けてはいけないようだが少し前進。良かった。


「分かった。じゃあ、ここで聞くぞ」


「うん、ありがとう。ごめんね」


「いいさ。辛くなるの、分かるし。受け止めきれなかったんだろ」


「……うん。だって、信じられなくて。お姉様の事だけでも頭いっぱいなのに、急に王になれって言われて。もう頭がいっぱいになっちゃって。……うう」


 レイアはぽつりぽつりと思いを吐露して、最後にはまたすすり泣く声が聞こえる。


 涙が止まらないのだろう。言葉に滲み出る悲愴感に俺も言葉に詰まりそうになるが、俺が言葉に詰まってしまったら、レイアの心を救ってはあげられない。


「確かに、いろいろあったな。ありすぎなくらいだったと思う」


「私、無理だよ……。だって、一人じゃ何も出来ない……。今回もそう。ゼンがいないとダメだった。私は何も出来なかった」


「出来ない事の何が悪いんだ?」


 レイアの不安を俺は疑問で返す。


 出来ないことは出来なくて当たり前だと思う。まあ、レイアがやらなければいけない事は大役なだけに軽々しくやりますとは言えないだろう。


「レイア一人で出来なくてもいいじゃないか。俺なんて、ルナがいなければ何も出来なかったぞ。俺はルナがいなければただの人なんだよ」


 嘘はつかずにありのまま伝える。


 事実、ルナがいなければこんな大層な力を扱えてはいないただの一般人として人生を終えていた。


 それで良いとも、それが悪いとも言えないが一人ならば出来ない事でも誰かがいる事で出来る事は増える。


「レイア、自分一人で抱え込むな。イアさんもいる、ステラさんもいる、ロカさんもいる。そして、俺もいる。この先どんな困難があっても絶対助ける。レイアの問題をレイアだけに抱え込ませるなんてしない」


 説得するためにイアさん達を巻き込んでしまったが、きっとあの人たちならレイアを助けてくれるだろう。


 もちろん俺も、レイアからのSOSがあればすぐに助ける所存だ。嘘偽りない思いである。


「……ほんと? 信じて良いの?」


 扉の向こうから、恐る恐る絞り出したようなレイアの声が聞こえる。


 不安だけど信じたい。信じたいけど不安だ。そんなやきもきしたような声。


「もちろんだ」


 俺はそんなレイアの不安を払拭するべく精一杯力強く返した。


 すると、扉の向こうから緊張が解けてしまったのだろう、大きな泣き声が響いた。


 小さな子供のような大きな泣き声。先ほどまでの押し殺したような泣き方とは違い、我慢が決壊したのだろう。


 俺は泣き止むのをじっと待っていた。


 ひとしきり泣いたのか、声が収まり静寂に包まれる。


 もう一回声をかけてみようか、もう少し待とうか。


 躊躇う俺の耳に、再度涙声が届いた。


「ゼン、入って……」

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