姫の心は限界を迎える
「ルナ! ゼン! 無事だったのね!?」
扉の先にはレイア、ニック、イアさん、ステラさん、ロカさん、そして王様と王女様がいた。
俺の姿に気付くや否や、目を真っ赤にしたレイアが駆け寄ってきた。
そして後ろのレイスに気付くと、一気に顔色を暗くした。
「お姉様……。どうして……」
「レイア、本当に申し訳ないですわ。お父様もお母様も本当にすみません」
目に涙を溜めながら見つめるレイアに、レイスは頭を下げて謝罪をする。
同様に、なんとも言えない複雑な表情で見つめている王様と王女様に対してもレイスは頭を下げた。
「事情はイアから聞いた。此度の襲撃についてはレイス、お前の所業らしいな。馬鹿娘が……。私は、情けない」
王様が悲痛な表情でレイスにきつい言葉をぶつける。
レイスはそれを受け止めもう一度頭を下げた。
「お父様、申し訳ありま……」
「お前をきちんと理解してあげられなかった自分が情けないのだ。娘を馬鹿娘にしてしまって何が親か」
「……!」
王様はレイスではなく、自身に対して憤っていた。
レイスは唇を噛み、ドレスの裾を握りしめていた。
「私はお前のした事を許しはしない。お前は一生涯地下牢にて幽閉させてもらう」
「……はい。分かりましたわ」
悲痛な面持ちで、王様の口から重い罰がレイスに告げられる。
現代日本でいうところの終身刑となるのだろう。
長い目で見る死刑のようなもの、一生レイスに自由はないのだろう。
「だが、私自身も許せない。だから、責任をとって王の座から退き、レイアに王座を託す」
「お、お父様!? 悪いのはわたくしです、お父様がそんなことする必要が……」
「お前一人の責任ではないのだ。次期王女に手を掛けたという重さを知りなさい」
「……本当に、本当にごめんなさい」
レイスは涙を流して罪を反省して謝罪を述べる。
王様は自身の立場と、父親としての立場の狭間で悩んで答えを出したのだろう。
正しい、正しくないはわからないけど、あまりにも重たい話にただただその光景に胸を痛めた。
「ゼン殿、重ね重ね御礼申し上げる。抱えているのはジンだね?」
王様は視線をレイスから俺にずらし、抱えているジンを指差した。
俺は肯定し頷いた。
「あ、はい、そうです」
「ジンも同様に一生涯の幽閉とする。甘いかもしれないが、私は殺すよりも自身の罪と向き合わせる機会を持たせたいのだ。ゼン殿、理解していただけないだろうか?」
「勿論、大丈夫です」
俺としては死刑とか殺すという手段は寝覚めが悪いので、王様の提案は正直ありがたい。
願ってもないので、俺は勿論その提案に了承した。
「ありがとう。あとは、ゼン殿に恥を忍んでもう一つお願いをさせてもらっても構わないだろうか?」
「何なりと。自分に出来ることであれば」
「すまない。先程も言ったが私は王座を退く。私が王座を退いた際、レイアを信頼できる者に任せたいのだ。有事の際はレイアを助けてはもらえないだろうか」
王様は、王様からすれば下々の民である俺に頭を下げた。
不謹慎にも少し微笑んでしまいそうになる。
やっぱり親子なんだな。
こんな時なのに、思いやるのはレイスも王様もレイアの事だ。
王様は育て方を間違えたのかもしれないけど、全部間違えた訳ではないと思う。
「分かりました。お任せ下さい」
王様は、俺の返答を聞いて安心したのかホッとしたような顔を浮かべていた。
「お父様! 冗談ですよね!? お母様も何か言って!」
俺達のやり取りを聞いて取り乱したようにレイスが王様と王女様に詰め寄る。
王様は黙って首を横に振り、王女様は真剣な表情を浮かべて口を開いた。
「私はこの人の意見に着いて行くのみです。生半可な気持ちでは言えませんよ。だから、レイアも理解して」
「分からないよ……。色々ありすぎて……、私には分からない……!」
王女様の意見を聞いて、レイアは受け止められない事実の多さにパンクしたのだろう。
困惑を口にして、レイアは出入り口の扉へ駆けて行った。
「レイア様!?」
イアさんが呼び止めるが、レイアはそれを振り切って部屋を飛び出していく。
勢いよく扉が閉まり、バタンという音が鳴って、すぐにシーンと音が消えた。
「俺が探しに行くよ。みんなは待ってて」
気まずい空気の中、俺は手を挙げてレイアの探索を志願し部屋を出て行く。
返事を聞かずに出て行ったけど、多分みんな出てこないよな?
出来たらみんなには待機していて欲しいし。
腹を割ってレイアと話がしたいからな。
俺は行く宛はないものの、こっちにいそうだという直感を信じてレイア探しを始めた。




