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雪解けされたその心

「次、右ですね。で、そのまま真っ直ぐです」


「ん、了解」


 避難指示を出した為、レイア達を探さないとな。と思っていたのだが、ルナの探知スキルで分かりますよの一言でその問題は解決した。


 そうだよな、神様だもんな。


 という訳で、ルナの指示に従ってその背中に俺は着いていく。


「ちなみに次を右に曲がらず左に曲がると昨日泊まった部屋です。いいですか? ベッドがあります。レストしませんか?」


「しません」


「うー、つれないですねえ」


 俺のやるせない気持ちを察してかはわからないが、こうしてルナがちょいちょい小ボケを会話に挟む。


 いつも通りのルナといえばその通りなのだが、少しだけ気持ちが楽になる。


 暗い気分が紛らわされてありがたい。


 俺はいつものノリで返しつつ、女神の気遣いに感謝をしていた。


「羨ましいですわ……」


 俺の背中越しに、レイスがポツリと力なく呟いた。


 振り向くと、悔しそうな笑顔を浮かべてレイスが俺たちを見つめていた。


「わたくしには出来なかった光景ですわ。あなた達は出来ている。どこでかけ違ったのか今のわたくしにはわからないけど、反省して考えますわ。もしかしたら死ぬとしても、見つめなおしますわ」


 憑き物がとれたような表情で、レイスが自らの思いを語る。


 たくさん間違えたレイスだけど、悪い事をしてしまった理解が出来るようになったようだ。


「もっと早くに出会いたかったですわ。あなた達に。特にゼン様に」


「え? 俺?」


「ええ。愛する人の為に助けにいらしたのでしょう? 正直見破れないと思っていただけに、余裕ぶった顔をしてても本当は心底びっくりしましたわ。愛故に考え抜いて見つけたんですのよね?」


 断じて違う。そう言ってやりたかったが、考え抜いて見つけたのはその通りだっただけに返答に困る。


 愛故ではないぞ。だからルナ、そんなデレデレした顔をするんじゃない。


「えっと、考え抜いて見つけたのはその通りかな。絶対助けなきゃって思って考えていたけど愛故ではない。でも、この考え本当は外れていて欲しかったんだ」


「え? どうしてですの?」


「レイアの事を考えたらな。知ってるか? レイアってあなたの事すごく心配するくらい大好きだったんだ」


 レイスに俺の思いを伝えると、レイスはハッと驚いたような顔をしてすぐに柔らかい表情に切り替わった。


「ふふ、もう嫌われたと思うけど優しい妹で良かったですわ。それに、あなたのような心優しい人に出会えてレイアは本当に良かったですわ。こんな事言える立場じゃないけど、レイアの事お願いしますわ」


「ああ、分かった」


 今後、レイスとレイアは会えることは無くなるだろう。今のは、姉として最後に出来るお願いなのだと思う。


 諭されてすっかり悪の心は無くなったのだろう。教えてあげることが出来たのなら、ここまで変わることができるのだ。


 もう少し早く出会えていれば。もしもの話を言えばきりがないけれど心からそう思う。


 後悔は先に立たないというけれど、先に立ってくれてもいいじゃないか。


 畜生、勇者のくせになにも出来ない自分が悔しい。


「前さん、力不足に感じることはありません。あなたは最善を尽くしました。亡くなるかもしれない人を救ったのです。あなたは勇者として誇っても大丈夫です」


「でも……」


「女神が言うんです、間違い無いです」


 ルナは俺の鼻を人差し指で押しながら言った。


 こんな時だけ女神なんだもんな、ずるい。


 俺は少しだけ軽くなった心の中で、ありがとうと呟いた。


「……何も心の中で言わなくても素直に言ったらいいのに」


「なんか言ったか?」


「何もないでーす」


 ルナが何か言った気がするがはぐらかされる。


 多分どうでもいいことなのだろう。気にしないことにする。


「あ、前さんこの部屋です」


 ルナがある扉の前で立ち止まる。


 この部屋がどの部屋なのかは分からないけれど、この先にレイア達がいるんだ。


 一気に緊張感が走る。


「前さん、大丈夫ですか?」


「あ、ああ」


「そうですか? まあ、もうひと押し勇気をあげましょう」


 ルナは緊張感丸出しの俺に柔らかな笑顔を浮かべて、右手を頭の上に置いた。


 何気ない頭を撫でる行為なんだけど、その小さな手から伝わる温かさに、少しだけ心がほぐれる。


「すまない、ありがとう」


「いえいえ! 妻としては当然です!」


 つとめて、いつも通りでいてくれるルナがいてくれて本当に良かったと思う。


 俺は息を思い切り吐くと、扉に手をかけて開いた。


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