戦いは終わり女神が諭す
「あ、ありえないですわ」
倒されたジンを見つめて、レイスは狼狽している。その空いた口は塞がらないようだ。
そりゃそうだろう。あれだけ自信満々だったのにその自信が砕かれたのだ。どこの馬の骨だか分からないような奴に。
「さて、今からあなたには二択の中から選ばせてあげます。私達と戦うか、おとなしく投降するか。どちらも結局は幽閉される事にはなると思いますが、戦うなら容赦しないですよ?」
ルナはレイスに対して慈悲のない言葉を告げる。
これだけの事をしでかしたんだ、よくて無期限の幽閉、悪くて死刑は免れないだろう。と思う。
「わ、私は、幸せになりたかった……。ただ、好きな人と結ばれたかった。ただそれだけなのに」
レイスの目からボロボロと大粒の涙が溢れ、鼻水も垂れ、見るも無惨な顔に変化している。
しゃっくりをしながらとめどなく溢れる涙を拭い、嗚咽を漏らすその姿は子供のようだった。
「あなたはやり方を間違ったんです。それはとても悪い事です。好きな人と結ばれたいと思うのは誰もが思うでしょう。ただ、その上で他人を犠牲にするなど言語道断です」
ルナは、そんなレイスの姿に慰めの言葉をかけるわけでもなく淡々と諭す。
それはまるで、母親のような悪い事をした子供に言い聞かせて上げるような物言いだった。
教えてくれなかった大人に変わって教えてあげてるのだろう。
「幸せになりたい誰かが、あなたに危害を加えようとした。あなたを殺そうとした。そんな事態になった時、あなたはどう思いますか?」
「いやでずわ」
レイスは鼻水のせいで言葉全てに濁音が入っている。聞こえづらいが、ルナの言葉に耳を傾け知ろうとしているのだろう。なぜこんな事になってしまったのかを。
「それをあなたはしてしまったのです。あろうことか、実の姉をその手にかけた。決して許されません。あなたは知りなさい、自分のした事を。見つめなさい、自分の罪を。知ろうとしなさい」
「う、うぁああああああああああああああああああああ!」
ルナに諭されてレイスは膝から崩れ泣き叫んだ。
喉が裂けんばかりの咆哮。知ってしまった故の心の痛みが胸を締めているのだろう。
「前さん、終わりましたね」
「ああ、終わったな。お疲れ様」
「え? あ……」
ねぎらいの意味を込めてルナの頭を二回程軽く撫でる。
ルナは、照れたように一気に顔を赤らめていた。
「さて、レイスとジンを捕らえておこう。えっと、スキル封じのロープ取り行こうか。それで縛れば逃げられんだろうし」
「あ、それならここに」
俺の提案に即座にルナが反応し、懐からロープを取り出す。
え? 直にいれてんの? なんで?
いや、そんな事よりなんで持ってるんだ?
「ルナ、このロープってスキル封じのロープなんだよな? なんで持ってるんだ?」
「来るべきプレイの為で……いったあ!」
せっかくねぎらったのにねぎらいの気持ちが消え失せ、変態女神の脳天にチョップを入れる。
ほんと何を言おうとしているんだこいつは。
「うう、ひどいですよ前さん。馬鹿になったらどうするんですか」
「うるさい。俺のねぎらいの気持ちを返せ。あと、縛るのはロープ持ってるんだから任せたぞ」
「うう、人使い荒いです……」
ルナは、唇をとがらせて抗議をしながらレイスとジンを縛っていく。
俺はそんなルナに、人じゃなくて女神だけどな。と心の中でツッコミをいれた。
いや、女神使い荒いってなかなか罰当たりかもしれないけど、ルナに対してはオッケーだと思う。
「よし、じゃあ結果報告だけしに行こうか。二人も捕らえたしもう大丈夫だろう」
「そうですね、行きましょうか」
レイスとジン、二人とも縛れたのを確認してルナに報告をしようと提案すると、ルナは同意し最後にもう一度ロープを締め上げていた。
俺はジンを抱え、レイスを歩かせると城の中へと入った。
心が痛いが報告をしなければならない。そこで、この件が真に終わるだろう。
だが……レイアの事を考えるとやるせなくなる。
どう説明しよう。そんな事を考えながら、城の中のレイア達を探し始めた。




