初めての共同作業
「まだ、勝てる気でいるのか? 」
「勝てる気じゃないんです。勝つんですよ」
ジンの質問に、ルナは光の剣でジンを差しながら返答する。
ルナのその声ははったりではなく、自信に満ち溢れている。
ジンのパワーアップを目の当たりにしているのにだ。ジンの素早さ、重い剣撃を受けているのに。
今、この場ではルナがすごく頼もしい。
「いつまでその減らず口が叩けるかな!」
ジンは挑発をしながら、再度突進をしかける。
一瞬で加速し、今度は俺に向かって剣をなぎ払った。
「くっ!」
光の剣で受け止めるものの、あまりの攻撃の重さに手が痺れる。
なんだよあの一撃。なんでルナはあんな無表情で受け止められてんだよ。
右手の痛みに顔を歪めながら、ジンと距離を取る。
俺は光の剣を一旦消して手を振った。
「いってー! なんでルナはそんな涼しい顔で受け止められるんだよ!」
「愛の力です」
「それはもういい!」
痛みのあまりにルナに対して疑問をぶつけるが、ルナは当然とばかりにドヤ顔で返す。
ルナに聞いた俺が馬鹿だった。
「余裕ぶっていていいのかな?」
ルナとのやりとりの最中に、再度ジンが攻撃を仕掛ける。
横っ腹に蹴りを入れられ、五メートル程飛ばされた。
まじで痛い。思いっきり地面を転げて擦りむいてしまった。
「ってて……」
なんだよ、英雄の雛。身体能力上がるって能力なのにめちゃくちゃ痛いじゃないか。
これはスキルの辞典盛ってるな、ちくしょう。
痛みに耐えて、辞典の内容に心の中で苦情をいれつつ横腹を押さえて立ち上がる。
「……ありえん! 殺す気で蹴ったと言うのに」
だが、立ち上がった俺を見て、ジンが驚いた声を漏らす。
なにやら物騒なことを言ってるが、なんの冗談だろう。確かに痛かったがこんなんで死ぬやつはいないと思う。
「前さん、きょとんとしてますがあいつの今のキック、時速二十キロの車がぶつかったくらいの衝撃ですよ」
「え? 流石にその例えは分かりづらいんだが」
「じゃあ、ビルの三階から飛び降りたくらいですね」
「それはやばい!」
ルナの解説に驚きの声を上げる。
なんて威力の蹴りをいれやがったんだ。いや、俺よく生きてたな。
あ、辞典は嘘偽りない素晴らしい辞典だね。
「ありえん! 貴様、今何をした!」
「え? 何も」
「嘘をつくな! そうでなければおかしい!」
「そう言われてもなあ」
ジンは俺が何かをしたと憤っているが、俺は何もしていない。
スキルのせいだ。俺自身はなんにもしてはいない。
「ジン! 何をしてますの!?」
うろたえるジンに、レイスが叱責をする。
だが、同様を抑えられないのかジンの表情は浮かない。
「畜生! 私は負けられないんだ!」
ジンは再度剣を構えて俺に刺突攻撃を仕掛ける。
俺は、今度は光の球体をイメージして目の前に出してみた。
「おお! 出た!」
もう痛いのはこりごりなので剣で受け止めるではなく、球体を裁縫で使うピンクッションのようにしてその刺突を受け止める。
俺の考えは見事良い方向に作用し、衝撃を俺に伝えることはなく、深々とジンの剣が突き刺さった。
「くっ、なんなんだこれは! こんな理解しがたいもので私の攻撃を受け止められるなんて! くそっ! 抜けない!」
深々と突き刺さった剣は、ピンクッションの光から引っこ抜けないようでジンが引き抜くのに苦戦をしている。
その声は、焦りが滲んでいた。
「さて、本当に初めての共同作業になりますね!」
目を輝かせたルナが、両手の平から光の玉を作製する。
その大きさは両手ともにボーリング玉のようなサイズで、バチバチと弾けるような音を発していた。
「や、やめ……」
「やめません。そう言っていたであろうレイカさんをあなたは手にかけたのでしょう? 当然の報いです。それでは、さようなら!」
蒼白になり許しを乞おうとするジンを拒絶し、ルナの手から光の玉が放たれる。
その光はジンに当たった途端炸裂し、花火のような閃光と車がぶつかり合った轟音とともにジンを吹き飛ばし、城の壁に叩きつけた。
城の壁は凹み、ジンは腕と頭を地面に落としてうなだれている。もはやピクリとも動かない。
「ね、だから言ったでしょ?」
その様子を見て、ルナが笑いながら言ってのけた。
「私と前さんは負けないって」




