世界一怖いハーレム
負傷者(俺)を出すという悲しい争いが起きたが無事? に一時休戦された。
だがしかし、一触即発の空気には変わりない。爆弾に囲まれたボン●ーマンの気分だ。
ルナ様と金髪女性は互いにそっぽを向き、俺を挟んで立っていた。
「とりあえず、お礼は受けます。が、その前にとりあえず自己紹介をしませんか?」
空気は悪いがこのままにもしてはおけない。和やかとは行かずともせめて重苦しすぎる空気から重苦しいくらいになるように一つ提案をしてみた。
名前も知らないし、街までの道のりもあるのなら、知っておくべきだろう。
「あ、忘れてました。私の名前はレイア・ノーブ……ノーデンスです」
「レイア・ノーデンスさんか。俺は前です、よろしく。で、こっちが」
「……ルナです、よろしく」
名前を名乗り合うが、ルナはちょっぴり不機嫌そうにそっぽを向きながら名乗る。
レイアは少しむっとした顔をしたが、俺が両手を合わせて謝るとため息をついて流してくれた。
「ごめんな、無愛想で。あ、えーと、俺はレイアさんと呼べばいいかな?」
「さんなど入りません、呼び捨てでいいですよ」
呼び捨てが大丈夫とはありがたい。流石にルナ様相手に気を使いまくっていたから対等に話せる立場というのはすごくうれしい。
「んじゃ遠慮なくさせてもらうね。あ、レイアも呼び捨てでいいよ。何なら敬語もいらないし」
「あ、それだとうれしいな。改めてゼン、よろしくね」
お互いに名乗り合い、いくばくか空気が和む。
気兼ねなくいれる存在というものはやはりありがたいもんだ、気を使いすぎるのも疲れる。
「ぜ、前さん! 私には様とか他人行儀で呼ぶのに、こんなぽっと出の子は呼び捨てですか!?」
だがそこに、慌てたルナ様が割って入る。レイアがタメ口というのが気に入らないようだが、流石に女神を敬称略は不敬過ぎるだろう。
「え、いや、流石にルナ様は呼び捨て無理でしょ……」
それにぽっと出はルナ様も一緒じゃん。出会った時間だけで言えば十五分くらいしか変わらないよ。……言わないけど。
悲しみに暮れるルナ様をよそに、レイアは勝ち誇った顔でルナ様を見下していた。やめときなさい、この人こんなんだけど一応女神なんです。罰当たりですよ。
「ふっふーん。やっぱりゼンは私の味方だね。ほらほら、諦めたらー?」
最早水を得た魚のようにレイアはルナ様を煽る。いやいや、俺には敬語いらないけどルナ様には敬語使った方がいいよ、ほんとまじで。
「……ぜ・ん・さ・ん?」
「え?は、はい」
出た、ルナ様の能面笑顔。これが出るとSAN値が1D6くらい減るんだよなあ、勘弁して欲しい。
心が縮こまってしまう。絞られた雑巾のようにきゅーってなる。
「私も呼び捨てして下さい。あと、敬語も無しで。分かりましたね?」
「え、いや、しかし……」
「返事」
「は、はひ……」
神様に対する圧倒的不敬行為を神様自ら命じられるという事態。威圧感に押し負けて俺は間抜けな返事を零した。
返事を聞いた途端ルナ様……ルナは、勝ち誇った顔から苦虫を噛み潰したような顔になったレイアに対し、先程のレイアに負けないくらいの勝ち誇った顔をしてみせた。
「私のお願いを聞いてくれるなんて、流石私の前さんですね」
「脅されても広い心で受け入れるなんてゼンの器はおっきいなあ」
二人してにこやかにしているが俺は見逃さない。互いの脇腹をつねりあっているのを。
二人とも美人なのになんなんだこの残念ハーレムは。全然うれしくないハーレムってあるんだな。
俺はため息を吐いた。
「とりあえず街まで行こう」
俺が促すと、二人ははーいと返事をし、俺の背中越しに小声で喧嘩を始めていた。