反撃の手段
「さあ、交渉と参りましょう。わたくしの目的は、ソアレと結ばれる事。その為には障害を排除する事ですわ。レイア、あなたには消えてもらいたいのですわ」
「お姉様……そんな」
実の姉から投げつけられるナイフのような言葉に、レイアは力なく呟く。
大好きな人からのその言葉はあまりにも辛いのだろう。
「正直、レイアを取り逃がした時には、途方に暮れてしまいましたわ。仕留めるつもりだったんですもの。でも、ゼン様が連れてきてほんとにこれ程嬉しい事はなかったですわ。神様の思し召しですわ」
レイス様の言葉からは全く悪意の感じられない悪意の塊のような言葉ばかり紡がれていく。
神様の思し召しと言ったところで、ルナがぶんぶんと首を横に振って、信じてと言わんばかりに俺を見ていた。
知ってるよ、ルナはそんな奴じゃない。
しかしだ、こんななにを言っても噛み合わない人相手にどうしたらいいんだろう。
人質をとられてしまってうかつな事が出来ない。今の最善はなんだ?
光の銃を撃つか?
いや、撃ってる間にジンさんが剣を振るかもしれない。
光の銃は作製時に発光、音の発生とバレてしまう。
せめて、少しでも隙を作る事が出来れば。ジンさんを少しだけでも離れさせる事が出来るならひとつ考えがあるんだが。
「イアさん」
俺は出来るだけ小声で声をかけると、イアさんは小声で返事をする。
レイス様たちは俺とイアさんが喋ってるのが見えてはいるだろうがこの距離なら何を喋っているかまではわからないはずだ。
「俺がレイス様とジンさんの気を引きます。その際、すみませんでしたと言ったらその瞬間、転移でジンさんを突き飛ばして下さい」
「し、しかし」
「いいから。考えがあります」
イアさんはためらったような声を漏らすが、有無を言わせず賛同させる。
折れたのか、渋々はいと言ってもらえたのでイアさんの方は大丈夫だな。よし、次はだ。
「ポチ、お前はケルベロスだよな。噛む力に自信あるか?」
「こんな時何言ってるんだぜ?」
次に声をかけたポチは、質問の意図が理解できないのか疑問を口にする。
こんな状況に意味のわからない事を言ってるんだ、気でも触れたか?と思うだろう。
だが、俺は自身の考えを呟くと、納得したようにポチは頷いた。
「成る程だぜ。それなら大丈夫だぜ!」
よし、ポチも問題なさそうだ。
あとは俺がなんとか隙を作ればいい。だが、隙を作るにはどうすればいい?
盲目に愛を貫き続けるような二人だ。その盲目さを貫くのであれば、それを利用してやればいい。
俺はレイス様を見据えると、レイス様はにやりと笑った。
「おしゃべりはすんだのですの? まあ、あなたには何もできないでしょうけど。なにせ、人質がいますわ」
「それなんですが、人質の解放してくれませんか?ソアレさんはこんな事望んでないでしょう?」
俺の発言にレイス様の顔が曇る。
どうやらソアレさんの事でマイナスな発言を言われるのが不快なようだ。
「それはわかりませんわ。ソアレはわたくしの事を愛してるはずですわ。ですから、わたくしのした事を喜んでくれると思いますわ」
口では俺の意見を否定するものの、言い切るのではなく、そうだと思うと返すレイス様。
付け入る隙が顔を見せはじめた。
「本当に? 愛しているのであれば、何故レイカ様を選んだのですかね?」
「ま、間違えただけですわ。許してあげるのも妻の甲斐性ですわ」
「間違えただけですか。そうやって余裕ぶっている割には余裕がないんですね。だから、レイカ様に手をかけて、レイアも殺めようとしている」
俺の口はレイス様を煽りたおす。
怒れ、もっと怒れ。俺を集中して見ていろと祈りながら睨みつけた。
「そ、そんな事ありませんわ! 念には念をいれているだけですわ! 適当な事言わないで下さいまし!」
「適当ではないですよ。きちんと思った事をお伝えしているつもりです」
「いいえ、適当ですわ! 訂正してくださいまし!」
感情的に怒鳴り、俺に謝罪を求め指差すレイス様。
かかった。
俺は心の中でほくそ笑むと、申し訳なさそうな表情を作った。
「はあ、分かりましたよ。どうもすみませんでした」




