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レイス様はどこへ

 俺とレイアは驚いて顔を見合わせる。


 何故、この部屋にアンさんの匂いがしているのだろうか。


 アンさんがこの部屋に侵入したのか?いや、そんな常識のない行動はしないと思う。


 もし仮に侵入したとするならば、会議中に発言がないのはおかしい。


 もう一つ考えられるとするならば、 ()()()()()()()()()()()()()ということだ。


 この、誰もいない部屋に。


「ポチ、ここにアンさんの匂いが残っているのか? 本当なのか?」


「ああ。……だけど、おかしいんだぜ。扉の方からはしなかったのに、この部屋の中では匂いがする。意味が分からないんだぜ?」


 俺が聞き返すと、ポチは一度は頷いたものの、すぐに首を傾げた。


 この部屋には匂いがあるが、扉からは入って来ていない。どうしてこの部屋に匂いがあるのかが分からない状況だ。


 匂いはそこから匂いがするもので、基本的にずっとあったものでもない限りは運び入れなければ匂わないはずだ。


 その運び入れたはずの匂いがしないという意味が、確かに分からない。


 いや、しかしだ。この状況、先程も似たようなことをポチは言っていた。俺達が寝ていた部屋でも。


 そして、レイアの言っていた事も統合して考えてみる。


 レイス様の部屋は俺達の寝ていた部屋の反対側と。


 俺は部屋の端の壁を見つめる。


「ポチ、もしかしてだけどさ、匂いってこっちの方からしてないか?」


「! ああ、そうだぜ! ゼンは人間なのに匂いが分かるのか!?」


「いや、分からん。でも、推理は出来る。ちなみにだが、俺達の部屋も扉の方に匂いがないって言っていたけど壁の方から匂いしてなかったか?」


「してたしてた! してたぜ!」


 ポチは俺の推理を肯定し、首を大きく縦に振っていた。


 間違いない、この先にいるのだろう。俺の推理が正しければ、()()()()()()()()()()()()()


「レイア様! ゼン殿! 大丈夫でありますか!?」


 俺が確信をした頃、扉が勢いよく開かれて、大きな声でロカさんが心配そうに声をあげ、続いてイアさんとステラさんが入って来た。


 そこに、ジンさんの姿は無かった。


「すみません、ゼン様。ジンを探したのですが見当たらず遅れてしまいました。かわりにステラを見つけたのでいないよりかはましかと思い連れてきました」


 イアさんは頭を下げ、遅れた経緯を説明する。


 まあ、それも想定内。というよりは外れていて欲しかったけど。


「レイア様。ご無事で何よりでございます。お身体は大丈夫ですか? ご怪我は?」


「ステラ、ありがとう。私は問題ないよ」


 ステラさんは相変わらずの声音だが、レイアの事をとても心配していたのだろう。


 すぐにレイアの元へ駆け寄り、身体の具合や怪我を聞いている。


「ゼン殿、今の状況はイアさんから聞いたであります。ただ、レイス様が見当たらないでありますが、まさか……」


 ロカさんは、部屋を見渡して心配を口にしていた。


 主人の娘がいるはずの場所にいないのだ、その気持ちも当然だろう。


「いや、生きてはいますよ」


「ほ、本当でありますか!? 良かった……」


 ロカさんの心配を否定すると、ロカさんは安心したように胸を撫で下ろしていた。


 同様に、イアさんもステラさんも、そしてレイアもホッとした顔を見せている。


 でも、今から見せてしまうもののせいでその顔を崩れてしまうと思うと忍びない。


 だが、ここで野放しにするわけにはいかない。俺は腹をくくると、ロカさんに向き直った。


「ロカさん、俺の推理が正しければ、レイス様はこの壁の先に隠れています」


「え? この壁でありますか?」


「はい。錬金術を使って、壁に扉を作るなりもろくして砕くなりしたのでしょう」


「し、しかし、なんでまた?」


「……それはこの先にあります。壁を砕くのを手伝ってください」


 俺は壁を指差しながら、推理を説明する。


 ロカさんは理解できなかったようだが、先にレイス様がいるかもしれないと思ったのだろう。


 神妙な顔をして頷いた。


「この壁でありますね。この硬さくらいなら怪力で砕けそうであります」


「俺も手伝います、せーので殴りましょう」


 俺にも英雄の雛スキルがある。一人より二人の方がいいだろう。


 俺とロカさんは壁の前で横に並ぶと、息を一つ吐いて構えた。


「いきますよ、せーの!」


 せーのと同時に二人の振りかぶった拳が壁にぶつかる。大きな音を立てながら壁は砕けて崩れると、予想通り五メートル四方程の空間が姿を表した。


 薄暗く、蝋燭で明かりを灯している不気味な部屋。


 そして、外れていて欲しかった予想の通りの人物の姿がそこにはあった。


「あら、見つかりましたのね」


 相変わらずの笑顔で、レイス様は立っていた。

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