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国王と王女は眠る

 廊下に飛び出すと、俺以上に慌ただしく動いてる人影が目に入る。


 あれは、イアさんか? 何を慌てているんだ?


 いや、イアさんからすれば俺達も何故慌ててるんだと思っているのだろうけど。


 俺は慌てるイアさんを前に足を止めた。もしかしたら、ルナだけでなく王様達にも何かがあったのかもしれない。


「ああ、レイア様、ご無事で良かった!」


 額の汗を拭いながら、イアさんはホッとしたような声を上げる。


 焦っていたのがはっきりと分かる。ピシッと決まってたオールバックも乱れてしまっているからだ。


「イア、どうしたの? あなたがそれほど取り乱すなんて」


「は、はい。実は、国王、王女両陛下が突然糸が切れたように眠られまして。この様な異常事態はじめて故に……」


 レイアの質問に、イアさんはほとほと困り果てた顔で答える。


 確かにそれは異常だ。


「レイア様のお命が狙われておりましたのでもしや、襲撃を受けたのではないかと肝を冷やしておりました」


「ちなみに、王様と王女様だけですか?」


 未だ浮かない顔のイアさんに、疑問を聞いてみる。


 もしかしたらレイス様もだったら、俺の推理は見直すべきだ。


「はい、左様でございます。いや、正確に申し上げさせていただくなら、レイス様が見当たらないのです。二十分程前に王様が眠られてからレイス様の部屋へと伺いましたが、いらっしゃらなくて」


 二十分前と言えば、レイス様と廊下ですれ違ったのがそれくらいの時間だ。


 少なくとも、その時は起きていた。間違いない。


 で、あればだ。レイス様は多分眠ってはいないのだろう。


「すみませんが、レイス様の部屋までついて来てくれませんか? 確かめたいことがあって」


「かしこまりました。先に行ってはもらえませんか? このような事態です、万が一に備えてロカとジンを連れてきます」


「分かりました」


 イアさんはロカさんとジンさんを連れて来るといい、了承した途端に瞬時に目の前から姿を消した。


 恐らく転送スキルを使ったのだろう。


 さて、ロカさんはともかくジンさんは来るのだろうか。


 疑問が確信へと変わりつつも、未だ自分の推理をレイアに告げられないでいる。


「お姉様、どうかご無事で……」


 目をぎゅっと瞑って、手を合わせている彼女に伝えられるもんか。


 願わくばどうか間違っていて欲しい。レイアの為にも。


「きっと無事に生きてるさ」


 元気付ける為に、嘘ではない言葉を吐く。


 無闇に不安を煽る事はない。それに、俺の推理はあくまで推測にすぎない。外れている可能性もあるんだ。


 だって、そうじゃなきゃレイアが可哀想じゃないか。


「そうだよね」


 そう言って、レイアは弱々しく笑みを見せた。


 俺は黙ってレイアの手を引くと、レイアはレイス様の部屋への道を案内してくれた。


 その間、お互いに無言。ポチまでもが空気を感じ取ったのか一言も喋らない。


 長い長い廊下を駆けて、一つの扉の前へと辿り着いた。


「ここが、お姉様の部屋」


 ポツリと呟くレイア。そうか、ここがレイス様の部屋か。


 ここに、ルナがいるかもしれない。


 レイス様だけがいて俺の推理が杞憂に終わるかもしれない。


 もしかしたらレイス様も眠っていて、別の犯人がいるのかもしれない。


 考えは巡るが、結論はこの先にある。


 俺は意を決して、扉を三回ノックした。


「レイス様?」


 ノックをして呼びかけるが返事がない。


 もう一度念のためノックをする。


 だが、やはり返事はない。


「レイス様? 開けますよ?」


 俺は再確認の為、声を掛けるがやはり返事はない。


 もう一度覚悟を決めて扉を開く。


 その先には、誰もいなかった。


「お姉様? どこにいますか? 返事をして下さい!」


 レイアが大声で叫ぶが返事がない。ここにレイス様がいないとなると、どこにいるんだ?


 俺も辺りを見渡すが、ベッドにもクローゼッドの陰にも部屋の隅にもどこにもその姿はない。


 焦る俺とレイア。そんな中、ポチが鼻をすんすんと鳴らした。


「お嬢の匂いだ!」



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