可能性は無視できないものとなる
浮かんだ一つの可能性について、冷静に考えてみる。
もしレイス様がレイカ様を殺し、レイアを狙っている人物だとしたら。だとしたらその方法は?
確か、レイス様は馬車に乗っていた時に襲撃を受けて命からがら逃げてきたんだぞ。つまりは、別の犯人がいるはずだ。
だが、一回疑ってしまった思考はどんどんレイス様を黒幕であると怪しんで行く。
レイアが襲われたとこはドレートの近く。ドレートからここまでは馬車で半日かかる。
この道のりをどうしたんだ? ビッグスライムとかモンスターもいる所を通ったはずだ。まさか歩いてなのか?
怪しめばきりがない。だが、ここで一つ思い出す。
レイス様には右手に赤い痕がなかった。
最初に絡まれた時に得た情報である右手の痕を持ってる人物は結局誰なんだ?
そいつが黒幕じゃないのか?
『しかし、ひと月前まで手袋をしていた人がいたのです』
ここで、次に会ったステラさんの台詞が頭の中で再生される。
右手に手袋をしていたが、手袋をしなくなったジンさん。
ひと月前から急にだ。
いや、でもジンさんの右手には痕なんてなかったぞ。なにも無かった。
だから、ジンさんは違う。
……でも、ジンさんだけなら違うけど、レイス様と共犯だったらどうだ?
レイス様と協力関係だったらなにかが変わる?
『あとはレイスお姉様の錬金術くらいかな?』
確か、レイアはこんな事を言っていた。レイス様は錬金術というスキルを使えると。
石ころをダイヤに変えたり、雑草を薬草に変えたり、性質を変える力だと。
錬金術という力は、生身の肌には効かないが、土や草や鉄などの物質には効果があるとニックが言っていた。
……物質にはだ。
『ジンさんの種族も泥人間と気付きましたか?』
ルナが手四つをした時に気付いた情報。そう、ジンさん泥人間だ。生身の肌ではない、泥の肌だ。
これはあくまで推測に過ぎないが、レイス様がなんらかの目的でジンさんの赤い痕を錬金術で違う物質に変えたとしたら。
だとしたら、黒幕の正体に違和感がない。赤い痕も説明がつく。
しかしだ。ステラさんも機械人だった。その理屈で言えば、ステラさんも錬金術で違う物質に変えれば共犯の可能性は否定できないぞ?
『プログラムされた命令通り動く為完璧な存在でいれます』
いや、ステラさんは違う。プログラムされた命令通りに動くなら、プログラムされていないような事はしないはずだ。
思考を深めれば深めるほど、どんどんレイス様とジンさんの怪しさが深まっていく。
俺の集めた情報が、黒幕はこの二人だと指差す。
ジンさんが馬車を襲い、そして、ジンさんがレイス様を城へと返した。これなら半日の道であろうと、モンスターがいる道であろうと説明が出来る。
いや、なにもジンさんじゃなくてもいい。俺に絡んできた大男たちのような協力者がいるのかもしれない。
ジンさんは兵士長だ、コネを持っているのかもしれない。
……この可能性は、無視できない。
「ゼン、どうしたの? 黙りこくって」
レイアが俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。
随分と考え込んでしまった。
急に黙り込んでしまったから何事かと思ってしまったんだろう。
「いや、なんでもない」
「そう? 良かった、心配したんだから。みんなもいなくなって不安になってるのに、やめてよ」
「あ、ああ、すま……」
すまないと言いかけて、ハッと思い出す。
そういえば、ここに帰って来る前にレイス様とすれ違った。
みんながいなくなったタイミングと合ってしまう。
「レイア、レイス様の部屋ってどこだ?」
「え? こことは反対側だけど」
「頼む、案内してくれ!」
「え?ちょ、きゃー!」
「だ、旦那!?」
レイアの右手を左手で引っ張り、ポチを右手に持って部屋を飛び出す。
胸に溢れる疑惑の心に、ざわつきを抑えられないまま走り出した。




