忠犬ポチちゃんの飼い主は?
「じゃあ、何度も聞いてる問いに答えろ。お前は誰だ?」
「ああ、オレはポチ。お嬢の召喚獣をしてるぜ。あんたからはオレの主人であるお嬢の匂いが少ししてるし、お嬢を知ってるんだろ?」
「召喚獣? お嬢?」
ポチはどうやらぬいぐるみでは無かったらしい。召喚獣という、これまた気になる異世界ワードが飛び出した。
しかも、どうやらこいつの持ち主と面識があるらしい。
「悪いが誰か分からないな。姫といえばレイアかレイス様だと思うんだが」
「いや、でも私じゃないよ。お姉様も召喚魔法は使えなかったはずだし」
俺の推理は即座にレイアに否定される。
じゃあやっぱり分からないぞ?
「違うぜ! お嬢は、アンだぜ?」
「はあ? アンさん?」
アンさんがこんな口うるさい召喚獣とやらを使役してるのか?
全然イメージ出来ないぞ。
疑わしい目線を向けると、ポチは怒ったように右前足を俺に向けてきた。
「何だその目は! ひどいんだぜ! これでも召喚獣としては高ランクのケルベロスなんだぜ!?」
「いや、知らん。そもそも召喚獣ってなんだよ」
「はあ? 召喚獣知らないとかどこの田舎出身なんだよ!」
ほっとけ。
ケルベロスと語るポチに対して思ったことをそのまま述べると強烈なディス返しを食らう。
知らないことを聞くといつも田舎出身にされるのはちょっと傷つくんだぞ。
「召喚獣ってのは召喚魔法を使える奴が使役するモンスターの事だぜ! 魔法は分かるよな、オレに向かってあんなあぶねえもん向けやがったんだし」
「ああ、知ってる。これの事だろ?」
「ちょ、右手向けるんじゃないんだぜ!」
ディスに傷ついていたので説明を受けてすぐにポチに右手を向ける。
猛抗議のポチを見て、俺は少しだけ溜飲を下げた。
しかし、ケルベロスね。地球で言えば地獄の番犬として聞くが、まさかそいつじゃないよな?
七センチのポチを見下しながら首を傾げて考える。
うん、ないない。こいつはそんなんじゃないな。
「む、失礼な事を考えてる顔をしてるんだぜ?」
「気のせいだ。そんな事よりポチ、今の状況の説明は出来るか?」
ポチの疑問を受け流して、話を変える。
今の状況、もしかしたらこいつなら分かるかも知れない。
少なくとも、全然見なかったこいつが今召喚されている時点でなんらかの意味があるはずだろう。
「いや、分からないんだぜ。呼ばれて出たのにお嬢がいないなんて初めてなんだぜ」
だが、ポチは何も分からないらしい。
耳を垂れ下げて、鼻を鳴らしている。
「いつもより魔力量が少ないからこんな姿だが、オレっていつもなら三メートルはあるんだぜ?逆に言えばこんな姿でしかお嬢が召喚できなかったって事なんだぜ……」
ポチは心配そうに声のトーンを落とす。
ポチの話から察するに、普段と違う形での召喚をアンさんは行わなければならないくらい、よっぽどの緊急事態だったのだろう。
自体は一刻を争うかも知れない。
「ポチ、お前は犬なんだよな?」
「ああ、そうだぜ?」
「なら、何か匂いを嗅いで探したりできないのか?」
「ああ、出来るぜ! お嬢のスメルは全部この鼻が知ってるんだぜ!」
俺のアイディアを、可能だと言ってポチは得意げに鼻を鳴らす。
ドヤ顔をかましてるとこ悪いのだが、スメルって発言がすごくやらしく聞こえてしまう。
犬特有のハッハッという荒い呼吸が発情してるようにしか聞こえない。
いかんいかん、そういう目線は良くないよな。
主人を大切に思ってる、いい奴じゃないか。
息が荒い。それだけで変態だと思うだなんて、俺の目はルナのせいで穢れたようだ。猛省しよう。
「それは心強いな。頼んだぜ!」
「任せるんだぜ! お嬢がトイレ行きたい匂いまで嗅ぎ分けるこのオレの嗅覚、期待するといいんだぜ!」
前言撤回。息が荒い奴は全員変態だわ。
ドヤ顔でいい笑顔なポチを、俺はただただ軽蔑していた。




