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女性って怖いと思いました

 一度帰った道をもう一度、今度は二人で歩く。


 相変わらず怖いルナ様。


 さっきは異世界初で右も左も分からないまま女性の悲鳴を聞いて、森に入って、身の丈以上の熊と対峙した。それも十二分に怖かった。けれども、さっきの状況より今の状況の方が滅茶苦茶怖い。


 また機嫌を取った方がいいのかなあ。


「ルナ様、怒ってます?」


「怒ってますよ」


「あ、そうですか」


 やべえよ、本当に怖い。目に光が無い。女神様なのになんて目をしてるんだ。そういう目はヤンデレしかしないものだと思っていたんだがもしかしてルナ様はヤンデレってやつなのか?


 というかこういう時って嘘でも怒ってないです。とか言う場面じゃないのか?そこで俺が嫌怒ってるじゃないですか!とか言って理由を聞く所じゃない?


 まさか出鼻挫かれるとは思ってなかったよ。


「どうしたら機嫌直してくれます?」


「……」


 ルナ様からしっかりめの無視をくらう。これは辛い。


 参ったな、どうしよう。腕を組みうーん、と唸りがら歩くと開けた場所に辿り着いた。どうやら先程の場所に辿り着いたらしい。


 その証拠に、先程の女性が木の根元で座り込んで居たからだ。怪我とかは見た所無いし、多分気絶してるんだろう。


「あっ、ルナ様。さっきの人ですよ」


「……この人が、ですか。ふーん」


 ルナ様はジロリと女性を見つめる。若干の敵意を向けてるようなそんな冷たさを感じる目線だ。


「ちなみにですが、前さん。つかぬ事をお聞きしますが、私が先程の熊に襲われたら、私を助けてくれます?」


「え? ルナ様は自分で倒せるんじゃ……」


「た・す・け・て・く・れ・ま・す?」


「イエス、マム! 仰せのままに! ルナ様の為なら火の中水の中どこへでも!」


 助けに行きますよ、ハハハ!


 だから、その右手こっちに向けないで下さい。熊に向けた手の形と同じ形してますよ。おかしいなあ、ちょっとバチバチ聞こえるなあ、その発光体はなんですか勘弁してくれ!!


 身の危険を感じて、口から自分なりの歯の浮くような台詞をルナ様に伝える。すると、ふっと音と発光体が消えて行った。


「ど、どこへでもですか! ふ、ふへへ……。い、いやですね、どこでもってことはお風呂とかトイレとかもですよね! もー、前さんってばー!」


 え、何そのチョイス。俺どんだけ変態に思われてるんだ。


 そんなプライベート満載のとこに行くって思われてる時点でかなり変態に思われてるんだろうなあ。と、少し哀愁漂う悲しい瞳で、だらしなく口元を緩ませてくねくねと身体をくねらせるルナ様を見つめた。


「ん……。こ、ここは?」


 温度差のある空気感の中、ぼんやりと気の抜けた声が俺とルナ様の間から聞こえた。


 その声の方を見てみると、どうやら目が覚めたらしい女性がやや覚めきっていない寝ぼけたような目で俺とルナ様をぼーっと見つめたていた。


 しかし、状況を理解したのかハッと目を見開きすぐさま立ち上がった。


「あ、あなたはさっきの! ってあれ? 私、襲われて、あなたが現れて、びっくりして……あれ?」


「落ち着いて。さっきのやつは倒したからもう大丈夫」


「倒したんですか!? エニグマですよ!?」


 どうやらさっきの熊はエニグマというらしい。そして大層驚いている様子から察するに、一般人がおいそれと倒せるような生命体ではないらしい。


 というか俺も良く逃げ切れたよな。そんな危険な生物だとは思わなかったよ。


「疑うならあっちの方に向かうと倒れてるけど……見に行く?」


「いえいえいえいえ、結構です!それより、危ない所を助けていただきありがとうございました」


 女性は三つ編みを揺らして深く頭を下げた。なんだかむず痒い。それに俺は感謝されるほどなにもしてないんだよなあ。倒したのはルナ様だし。


「いやいや、俺も悲鳴が聞こえたから居てもたってもいられなくて。だから気にする事ない。倒したのはルナ様だし俺は何もしてないよ」


「いえ、私はただ前さんが追われていたから助けただけです。むしろ前さんが囮となったからこそ助けられたのではないかと。だから前さんもまた、賞賛されるべきです」


「お二方のおかげという事ですね。心から感謝致します」


 正直に説明をしたのだが、ルナ様に褒められ再度女性から頭を下げられそれがなんだかむず痒くて頬を指で掻いた。


「どうかお礼をさせて下さい。この森を抜けた先に街がありますので何かさせて下さい」


 そう言って、女性ははにかむような笑顔を俺に向ける。少しドキッとした。


 ルナ様も大層美人だが、この女性もとても美人だ。


 初対面の時はまじまじと見れなかったが、大きくパッチリとした緑色の瞳に、穏やかな口元。三つ編みにされているその鮮やかな金髪は、眩しいくらいに美しい。 


 そしてなにより、この女性は出るとこは出てしまるとこはしまる抜群のスタイルだ。ルナ様はスレンダーだが、この人はボン! キュッ! ボン! である。


 人によってはこの女性派もいる事だろう。ほにゃらら星人とか。


 事実、俺もお礼という言葉にぐらりと心が揺れたが、当然の行為だしジェントルマンに断るかと自らの邪な感情を戒めた。


「いえいえ、滅相もな……」


「結構です」


 俺の遠慮を遮るように、ルナ様が笑顔で断る。女性は引きつったような笑顔になり、二人とも笑顔のはずなのに氷点下のような凍える空気が立ち込めて来た。


 あれ?かっこつけようと思ったのにかっこつかないぞ?


「いえ、お気になさらずに。お礼をさせて下さい」


 女性がもう一度笑顔で申し出る。今度こそ俺が断って……。


「いえいえ、私も前さんも当然の行いですから大丈夫です」


 今度は俺が声を発する間も無くルナ様が断る。二人とも笑顔の筈なのだが、殴り合っているかのような幻が二人の間に見える。


「では、お礼は結構ですので。行きましょうか、前さん」


「え、あ、ちょ……」


 半ば強引に話を切って、ルナ様は俺の腕を掴み引っ張った。やだ、強引。なんて思っていると、反対側の手を女性が掴んだ。


 え、やだ、ほんと強引。


 って、ちょっと待って、万力込めて握られてて本気で痛いんですけど。


「ふふふふふ、離して下さらない? 前さんが痛がってますよ?」


 と、右方向の万力ことルナ様がいい笑顔と黒いオーラで引っ張る。


「ふふふふふ、嫌です。あなたは帰っていいですよ。私はこの人にお礼をしますので」


 そして、左方向の万力こと金髪女性はルナ様と同じくいい笑顔で俺を引っ張る。


 美人に取り合われてるような我々の業界ではご褒美なようなイベントだが、痛いものは痛い。俺の腕は肩から取れてしまいそうなくらい引っ張られており、喜びを感じる暇がない。


 痛みと強烈な争いから俺が解放されたのはかれこれ三十分後の事だった。



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