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気弱な謝罪

「え? ジンさんですよね?」


 ジンさん(仮)に声をかける。


 こんなひ弱そうなの、ジンさんじゃない。偽物だ、ジンさんの皮、いや、泥を被った偽物だ。


「そ、そうですよ。さ、さっきはすみません。その、ぼ、僕、あの場だと気が強くなってしまって……」


 両手の人差し指をツンツンと差し合い、ジンさんはどもりながらか細く言う。


 なんだその二面性。王様の前だとああなるのか?


「む、昔から気弱で、直そうと思ってたらこうなっちゃって……。お、王様の前だと、ああなるんです。ほんとすみません、レイア様のお客様なのに……」


 一層モジモジしながら、消えてしまいそうな声でジンさんは謝罪した。


 何もしてないのに、悪い事をした気分だ。


 覚えなくていい罪悪感に胸を締め付けられる。


「ジン、私のお客様だから謝るの?」


「え……?」


 レイアは、目で分かるくらいお怒りの顔でジンを見つめる。


 貫くような視線に耐えきれず、ジンさんは俯いた。


「違うでしょ? あなたはいけない事をした、間違った事をした。だから謝るんじゃないの?」


 なおも、レイアはジンさんを問い詰めていく。


 淡々と逃げ道を塞ぎ、有無を言わさぬ迫力を纏っていた。


「間違った事をしてしまったなら、間違った事を謝りなさい。私の客人だから謝るのは違うわ」


「……そ、その通りです。ぜ、ゼン様、すみませんでした」


 今にも泣き出しそうな声で、ジンさんが謝罪する。


 ここまで言われてるのを見てしまうと、もう怒る気にもならない。


「ジンさん、大丈夫ですよ。レイアが言ってくれたので、もう何も言うことはないです」


「あ、ありがとうございます、本当にありがとうございます」


 俺は気にしてない事を伝え、ジンさんに向けてサムズアップをした。


 気安いだろうか?


 だが、ジンさんは気にするどころか泣きそうな顔をして、何度も何度も頭を下げた。


「ジン、間違いに気付いて良かった。私と同じ間違いをしないで。私も、ゼンさんに間違った事をしてしまった事を後悔してるから」


 そう言って、レイアは一瞬だが暗い表情を見せた。


 多分アンタレスで告白した内容を思い出したのだろう。


 ずっと気にしてるのかもしれないな。


「え?」


 俺は、何も言わずにレイアの頭を撫でた。


 レイアは驚いた声を上げて、瞬時に顔を赤くする。


「な、なな、ゼン、何するの?」


「レイア、お前も気にしなくていいよ。ジンさんもな。二人とも、もう気にするな」


 落ち込みやすいレイアとジンさんに笑いかける。


 レイアは照れて俯き、ジンさんはもう一度頭を下げた。


「仲間外れでありますぅ……」


 俺達を見ながら、ロカさんが寂しそうに呟く。


 がっくりと肩をおとし、耳も尻尾も重力にすっかり負けていた。


 可愛いな、おい。


「仲間外れとかないですよ」


「ほんとでありますか!?」


 俺が仲間外れを否定すると、バネのようにロカさんの耳と尻尾が持ち上がる。


 おお、びっくりするくらい分かりやすい。


「本当です。あ、今お時間あるなら食堂で聞きたかった事を聞かせてもらう事って出来ますか?」


「自分はどんとこいであります! 知らない事以外はなんでも答えるでありますよ!」


 ロカさんは胸を張って自信ありげに答える。


 尻尾もフリフリ、実に分かりやすい。


 この分かりやすさ大丈夫か? 下手すりゃ何考えてるか分かるから機密とか漏れてないだろうな?


 若干不安になるが、兵士長を任されるような人なんだ。多分大丈夫なんだろう。


「ジンさんもいいですか?」


「ぼ、僕で役に立てる事があるのなら、なんでも聞いて下さい」


 ジンさんはロカさんと対照的に、自信なさそうに言う。


 朝食の時のジンさんから本当想像出来ない。


 何でも聞く前にまず自分で考えろとか言いそうだったが、こっちのジンさんなら聞きやすい。


 自信ないくらいならまあいいか。

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