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女神と姫による朝チュン

 ふにゅりと、顔に当たる枕が異常に柔らかい。また、右手も異常に柔らかい何かに包まれている。


 そんなよく訳のわからない感覚のせいで目が覚める。


 頭が起き切らない。結局昨日は暴れまわり、疲れ果てて眠ってしまった。そのせいか疲れがとれてないのだろう。


 覚醒しきってない頭を起こすために少し頭を動かす。


「ん……」


 なんだ今の声。枕が色っぽく喋った? いや……喘いだ?


 瞼は未だ重たいが、恐る恐る目を開く。


 すると目の前にはルナが。いや、ルナの胸があった。


「!?」


 声にならない悲鳴をあげてルナを起こさないよう離れる。


 ルナはどうやら抱き枕のように顔に抱きついていたらしい。


 いや、それよりもだ。どうしてルナがここに?


 周りをきょろきょろと見回し、ふと目線を右側にずらすと、レイアが俺の右手を抱き枕にしながら眠っていた。


 ……ここで色々と思い出して来た。


 俺は疲れ果てて、おやすみと言って一番に眠ったんだった。


 だからか! ルナは遠慮する事なく俺のベッドに入って来たし、レイアは俺から離れるなというのを言葉通りの意味で捉えたのか。


 ニックとアンさんが見当たらないという事は隣の部屋で寝たという事だろう。


 頭が痛い。こんなとこ誰かに見られたら……。


「失礼します。お食事のご用意が……。失礼しました」


 開いた扉から勢いよく現れたのは黒い髪を結ってメガネをかけたメイドさんだった。


 だが、メイドさんは一瞥すると察したように扉を閉めた。


 その間実に五秒。


 弁解の余地はなく、確実に誤解されたまま去られてしまった。


「前しゃーん……」


「おとーさまー、くさいー……」


 だらしなくヨダレをこぼすルナと、魘されるレイアを見ながらため息をついた。


 とりあえず誤解を解く為に二人を起こしておかないと。


 レイアを俺の右手から離し、まずは面倒くさそうなルナに状況を説明するべく揺り動かすと、うーん? ととぼけた声を漏らしながら目覚めた。


「あ、前さんおはようございます。えっと、シーツは赤く汚れてないんですがもう洗濯しちゃったんですか? 早いですね。流石は前さん」


「シーツ洗濯する意味が分からないんだが」


「だって私のしょじ……」


「なんもしてねえよ」


 ルナの朝から全力のピロートークを、同じくらい全力で否定する。


 何言ってんだこの女神は。


 ルナはこんなに食べられたい据え膳ないですよ! と意味のわからない抗議をしてくるが無視をして先程の出来事を説明する。


「成る程。私との事はそのまま既成事実として公表してもいいんですが、レイアさんも一緒に寝てるのを見られてるのであれば誤解とかないとダメですね」


「何が既成事実だ。何も起きてねえよ」


「ふふふ。でっちあげたら問題ないです。いや、そんなことよりレイアさんにも説明しときましょ。離れるなと前さんが言ってたから同じベッドで寝るのを我慢しましたが、結構嫌なので」


 しれっと既成事実をでっちあげると抜かしたルナに一抹の不安を覚えつつ、レイアを起こす。


 レイアはあと二時間と、二度寝にしては長すぎる時間を言って顔をシーツに埋めた。


 お前は朝寝坊しがちの学生か。


 呆れつつ、揺らし続けると、不満そうにうー……。と唸りながらレイアは起きた。


「なーにー? まだ眠いんだけど」


「いや、お前んとこのメイドさんに俺たちが一緒に寝てるのを見られたんだが」


「え? その人メガネかけて髪結ってた?」


「ああ、そうだったな」


 レイアが上げた特徴に俺はその通りだったと肯定すると、レイアは頭を抱えた。


「その人、メイド長のステラさんだ。多分、お父様に言ってる」


「なんだと?」


 それはまずい。あのおっさ……王様ならなにするか分からん。対策を練らねば。


 だが、考える間も無く慌ただしいばたばたという音が近付いてくる。


 そして扉が勢いよく開いた。


「レイア! お前、ゼン殿と床入りしたとはどういう事だ! シーツ! シーツは汚れとらんか!?」


 取り乱した様子で王様がルナと同じレベルの会話を吐き散らす。


 あちゃー、と俺とレイアは頭を抱えた。


 それから誤解が解けたのはそれから十分後のことだった。


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