会議は何事も終わる。訳もない
「成る程、右手に赤いドラゴンのタトゥーか。分かりやすいな。それに、城内に潜んでる可能性が高いんだな」
「……だとしても、タトゥーを持ってる人がいないのであれば、見間違いとかは?……タトゥーのあとではなく、痣がタトゥーに見えたとか」
ニックとアンさんに状況説明をし終える。
ニックは状況を理解しアンさんは新たな意見を導き出した。
成る程、痣か。
それも盲点だった。痣でなくとも、そういう傷とかの可能性もあり得る。
イアさんと王様は確か……無かったな。
今日会った二人の右手を思い出すが、彼等の右手は何も無かった。少なくとも現時点では白だろう。
だが、他の人は明日はそこも考慮してみよう。
「ところで、ニック達の情報は何かあるのか?」
「いや、こっちはさっぱりだ。アルデバランの職員に聞いてみたが、特に何もないんだと」
ニックに情報を得たのか聞いてみたところ、ニックは肩をすくめて困ったような顔で首を横に振った。
「本当に何もないのか?」
「ああ、何も。ここ数年で大事件どころか事件も無いくらい平和だそうだ。王様に不満があるのかとも思ったが、それも無さそうだったし」
念押しで確認をするが、ニックは間違いないとばかりにつらつらと聞いてきた内容を述べる。
だが、そうなってくるとおかしな所が出てくる。
「普通に考えて、何もないのであれば国に刃向かうなんてありえるか?」
俺の疑問に感じた点を口に出すと、全員がハッとした顔を見せた。
理由がないのに何故なのだろう。
もしこれで王様が暴君だったり民を虐げるような奴だったら正義感が強い奴が立ち上がるのはあり得るのかもしれない。だが、どうやらその線は薄い。
「レイアさん達を狙う理由を知る必要があるかもしれませんね。恐らくそこに理由があるかと」
「ああ、多分そうだな」
ルナの意見に同意して頷く。
明日の方針は決まった。
「とりあえず明日、王様に頼んで関係者と話す時間作ってもらったからその時に右手のあとと、理由がありそうな人を探そう。それでいいか?」
一同に確認を取り、全員が頷いた。
決まりだな。
「よし、じゃあ会議は終わりだ。……どうしたニック、ニヤニヤして」
話を締める俺を見ながらニックはニヤニヤとしていた。
なんだ? 気持ち悪いなあ。
「いや、優秀な後輩が入ったと思ってよ。正直俺って強いじゃん? だから、今まで俺を仕切ろうなんて奴はいなかったんだ。だから、ありがとよー!」
「うおっ! 何するんだ、やめろ!」
ニックはありがとうという感謝の言葉と共に俺にヘッドロックをかけてきた。
言葉と行動が伴ってない。それに、加減が出来てないのか首が締まる。
「ぐっ、苦しい! 離せ!」
「嫌よ嫌よも好きのうちだろ?」
俺は必死にニックの手をタップするが、ニックはニッコニコで締める強さをアップした。
嫌よ嫌よも好きのうちじゃねえよ。
「はっ! やっぱり前さんのやめろは嫌よ嫌よも好きのうちだったのですね!」
ルナがハッとしたような顔をした後、納得したように頷く。
断じて違うからな。絶対プランIをするんじゃないぞ。
否定しないが声が出ない。こうなれば、頼みはレイアとアンさんだ……。
助けを求めて二人を見る。
「……私はゼン君が勝つ方に賭ける」
「ええ、アンずるい! 私もゼンさんに賭けたいんだけど!」
「……ダメ、早い者勝ち」
ダメだ、話にならねえ!
レイアとアンさんは俺とニックのやり取りで賭けに興じていた。
どったんばったん暴れる夜更け。
明日、敵探しという重要な仕事があるのに。と、ニックのヘッドロックを振りほどきながらぼんやりと考えていた。




