子離れできない系国王
「先ほどは失礼しました。続いてのお願いになるのですが、逃亡計画を知ってる人とお話をさせて頂きたく思うのですが」
混沌とした空気が正常化した頃、俺は続いてのお願いを依頼する。
王様には事情が聞けたが、計画を知っている人に聞いてはおきたい。
「わかった。だが、本日はもう遅い。また明日でよろしいか?」
「はい、構いません」
王様の提案に何の問題もなく了承する。俺もそろそろニック達と合流しておきたいし丁度いい。
「では、明日来場した際には話が出来るよう整えておこう。それで、君達はどこかに泊まるのかね?」
「はい。仲間が宿を探していると言っていたのでそちらに泊まるかと」
「そうだったのか。君達がよければ泊まってはいかないか?勿論、君達の知り合いもこちらに泊まってもらったらいい。迎えにも行かせようじゃないか」
王様の提案は願ったり叶ったりの提案だった。
この王様のレイアに対する溺愛ぷりは恐ろしいものだった。
守るためには俺から離れないようしようと思ったが、そんな事したらこの人は俺を殺すだろう。いや、比喩表現ではなく。
「それはとてもありがたいです。アルデバランの周辺でいると思います。猿の獣人の男と無表情の女のペアです。二人の名前はニコラスとアンです」
「分かった。伝えさせておこう。ゼン殿の使いと言えば問題はないかな?」
「はい。重ね重ね申し訳ありません。ありがとうございます」
「ふむ、構わんよ。それでは、イア! イアはいるか!?」
「はっ! こちらに」
王様が叫ぶなり、オールバックの男が戻ってきた。
叫べば聞こえるような所にいたのだろう。タトゥーの事とか小声にしていたから聞かれてないだろうな? 不安ではあるがあまり怪しまれないよう警戒だけにしておこう。
「客人を客間まで頼む。また、客人の知り合いがアルデバランの方にいるようだ。猿の獣人と無表情の女で名はニコラスとアンという。ゼン殿の使いとして誰か迎えを出してくれ」
「はっ。承知しました」
イアさんはきっちり三十度くらいの角度で王様に敬礼すると、キレのある動きで俺に向き直った。
「ゼン様。私、執事長を努めさせて頂いておりますイア・ビアークと申します。お見知り置きを。さて、それではご案内致します。こちらへ」
イアさんは自己紹介をしてすぐにキレキレの動きで踵を返した。
俺とルナとレイアも後に続く。
「ちょ、ちょっとレイアはどこへ行くんだ?」
しれっとこちらの列に加わるレイアに、国王は狼狽えながら呼び止めた。
「どこへって、ゼン様とルナ様の部屋です。身辺警護を依頼しているのですから当然です。国王陛下も私がゼン様に協力を依頼したと伝えた際、ノーブル国国王として頼むと言ってたじゃないですか」
あー確かに言ってたな。
レイアは国王がそちらに行くなと言えないように、最初に国王の言い分を潰す。
国王はあわあわとしているが、ほんとこの国王娘が絡むとダメだな。
「いや、しかしだな。せっかく帰ってきたのだ。その、私と妻と一緒にだな」
「はあ、国王陛下……いえ、お父様。いい加減に子離れして下さい。それに命を狙われてるのです、そんな事言ってる場合ではないでしょう」
国王の駄々っ子のような意見を、レイアはぴしゃりと退けた。
やれやれ、どちらが親か分かったものじゃないな。
王様はレイアに諭されしょんぼりとうなだれ、わかったと一言だけ言った。
「では、行きましょう」
すっきりとしたような表情でレイアは歩き始める。
それを見てイアさんも歩き始めたので俺もそれに倣って歩き始めた。
王様、ドンマイ。
コツコツと長い廊下を歩き続ける最中、俺はふとイアさんの右手を見てみる。
特にタトゥーは見当たらないが、確かハンカチは持っていた。
一応は候補の一人だ。警戒は怠らないようにしよう。
「ゼン様、私の手がどうかされましたか?」
じろじろ見てたのがばれたらしい。
イアさんが不思議そうに尋ねて来た。
「いえ、最近タトゥーが流行ってるみたいなので、色んな人のタトゥーを見てるんですよね。ですが、イアさんはしてないんですね」
「そうなのですね。流行には疎いもので。それに、タトゥーをしている者はこの城では見た事がないですね」
口八丁でごまかすと、イアさんは納得してくれたようで、なおかつ有益な情報も提供してくれた。
タトゥーをしている者はいないと証言してくれたのは王様に続いて、イアさんで二人目だ。一人より二人の方が信憑性は増す。
という事は、タトゥーについては別の何かがあるのかもしれない。
ニック達が来てからもう一度考え直そう。
俺はその後はイアさんとたわいもない話をしながら歩き、寝室へと辿り着いた。
「では、こちらのふた部屋となります。男性女性と別れてご使用ください。それでは、失礼します」
イアさんは王様にしたようにきっちり三十度頭を下げて踵を返した。
さてと。
「まずは話をまとめるぞ」
俺はレイアとルナを促し、イアさんの指示を無視して一部屋へ入って行った。




