女神は例え王様の前だろうと女神です
王様の人払いのおけげでスムーズに話が進む。ただ、聞かれる恐れも考慮して、声を潜めた。
「実は、レイアを襲わせたのはこの城内の人間の可能性があります」
「それは、根拠を持っての事かね?」
「一応はレイアを襲おうとした奴らが白状した内容となります。まず間違いは……ないです」
説明しながらルナをちらりと見る。
ルナは流石にこの場ではふざける事もなく、俺の視線に対してこくりと頷いた。
根拠としてはこれ以上の根拠はないだろう。
「ふむ、成る程な。ただ、城内の人間とは言ってもかなりの人数がいるのだが」
「そうですよね。そこで絞り込みたいのですが、レイア達の逃走計画を知っていた者、そして右手に赤いドラゴンのタトゥーをしているものを教えて頂けませんか?」
王様は俺の質問を聞くと、手の上に顎を乗せて考え込んだ。
「逃走計画を知っていたものは、私、私の妻、娘達、執事長、メイド長、兵士長、親衛隊長だな。それ以外は誰もその計画については知らなかった筈だ。ただ、馬車の襲撃後は散策の必要があった為、兵には知らせた」
逃走計画を知ってる人はレイアから聞いていた通りだった。恐らくはこの中の誰かが少なからず関与している可能性があるな。
「そして、ドラゴンのタトゥーについてだが、申し訳ないが私の記憶ではいないな。もちろん私も持っていない」
タトゥーをしているものは王様を含めていないらしい。
まさか嘘をつかれたのか? でも、ルナはあいつらが言ったことに間違いがないと言っている以上、何か見落としがあるのかもしれない。
「分かりました。情報ありがとうございます」
「こんなものでいいのかね?」
「はい。聞きたいことは聞けました」
「そうか。それは何よりだ。ところでだ。少しいいかね?」
王様は俺の回答に納得したように頷いた。
そしてその後すぐに顔を険しくさせ、威圧感を出した。
あれ? 俺変なこと言ったっけ?
どこか能面のルナのような黒いオーラを感じ取るが、全くもって理由が分からない。
「ゼン殿。君は……レイアとはどんな関係だね?」
たっぷり間を開けて、王様の質問を頭の中で吟味する。
だがしかし、言っている意味が分からない。
「答えたたまえ。先ほど私の娘を呼び捨てにしてたな。それはつまり、恋仲という事ではないのか?」
……なに言ってんだおっさん。
思わず極めて不敬な言葉が口から飛び出そうになるのを堪えて飲み込む。
王様はどうやら俺とレイアが付き合ってると思ってたんだ。
こじれる前に否定しておくか。
「あのですね、俺と……」
「王様、不躾ではありますが王様の目は節穴でしょうか」
ちょっとルナさーん!?
俺は我慢できたのにルナは我慢出来なかったらしい。
ルナも黒いオーラ全開で王様に対峙していた。
「ルナ殿。口の聞き方には気をつけたまえ。娘を助けてもらっておるから不問にするが、私も立場がある」
「それは失礼しました。しかしながら王様。ゼンさんには私がいるのです。今世紀最大のカップルを前にして妄言をおっしゃられてたので」
「ほう、妄言……な」
まずい、王様のこめかみに青筋が浮いている。
これ以上はほんとにまずい。
だが、ルナは口を開くのを止めようとはしない。
「これ程深く愛し合ってる二人を見間違えないで下さい。どっからどう見てもベストカップルでしょうが。まったくもう、王様は私に対するデリカシーとか配慮が足りま……モガモガ!」
「配慮がないのはお前だ!すみません王様、出過ぎた真似をしました!」
興奮気味のルナの口を手で塞ぎ、王様に謝罪をする。
王様はといえば顔を真っ赤にしてうつむきながらプルプルと震えていた。
これは、やばいか?恐る恐る王様を見つめると、王様は豪快に腹を抱えて笑い出した。
「はーっはっは! それはルナ殿、大変失礼をした。確かに恋仲の二人を前に私の発言は配慮に欠けてた。いや、すまない。それに、惚れた女の蛮行を止め、自らが非礼を詫びるゼン殿のその姿勢。愛し合う美しさを見せてもらったよ」
なにか決定的な食い違いがあるものの、王様が折角勘違いして納得してくれたなら今更否定してややこしくしてもしょうがない。
ほんとは否定したいが、姫ジョークがジョークじゃなくなるかもしれないので涙を飲んで否定の言葉を押さえ込んだ。
ルナはというと、興奮が収まったのか暴れなくなったので口から手を剥がした。
「ゼンさん、大胆ですね。みんな見てる前で唇を奪うなんて」
ルナは惚けた表情で誤解を招くような事を嬉しそうに言った。
ほんとこいつは……。
俺は、王様に負けず劣らずこめかみに青筋を浮かばせて、ルナのおでこにデコピンをうった。
「ありがとうございます!」
結果はなぜか、ルナを喜ばせた。ほんとやだこの女神。




