王との接見
レイアの後ろをついて行き、到着したいわゆる王の間。
ここで俺は、人生初かもしれない緊張感にさいなまれた。
ゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてくるような威圧感に部屋中が支配されている。
その威圧感の主であるおじさんは、玉座に座って姿勢を正し座っていた。
THE王様のような王冠を被り、これまたTHE王様のような赤マントを羽織り、髭を蓄えていかつい表情でいる。
あのおじさんこそノーブル国の王であり、レイアの父なのだろう。
その隣では、燕尾服を着たロマンスグレーのオールバックのおじさんが、すました顔で立っていた。
「国王陛下! レイア、只今帰還しました。此度は暴漢の襲撃を受け、姉上達ともはぐれてしまった所をこちらにおりますゼン様、ルナ様に助けて頂きました。また、再度の襲撃の危険もあった所から護衛をして頂き、本日無事に帰還する事が出来ました」
レイアは座っているおじさんに仰々しく状況の説明を行った。
国王陛下と言ったのだから間違いなくあのおじさんが王様なのだろう。
「ふむ。ゼン殿、ルナ殿と言ったかな? 此度は我が娘を助けて頂いた事を国王として、そして父として御礼させてくれ。ありがとう」
レイアの話を聞くやいなや、王様は立ち上がり俺とルナに頭を下げた。
前代未聞だろう。隣にいたオールバックの男が、慌てた様子で頭をあげるよう駆け寄る。
だが、王様は頑なに頭を上げない。
「私はこの件で一番上の娘を失った。二番目の娘は命からがら帰ってきたが、レイアまで失ってしまっていたら私はもう、立ち直れなかった。本当に……良かった」
王様の声が震える。感極まったのだろう。
どうやら、馬車の襲撃でレイアの姉が一人亡くなったらしい。それだけでも王様の心境を察する。
「レイカお姉様が……。本当に、残念です。しかし、レイスお姉様は無事だったのですね。良かった」
レイアもはぐれてしまってからずっと心配していたのだろう。少し悲しそうな声と、少し安堵した声を混じらせていた。
王様は深く下げていた頭を起こすと、玉座からレイアの前へと駆け寄り、レイアを抱きしめた。
「すまない、危険に合わせた。私は父親失格だ」
王様は父親としてレイアを力強く抱きしめていた。その瞳からは大粒の涙が溢れ、先ほどの威厳は消え去っている。
なりふりかまっていられないのだろう。
オールバックの男は涙もろいのか、その様子を国旗の入ったハンカチで拭っていた。
「良いのです、お父様。こうして、無事に帰ることが出来ました。お姉さまの事は残念ですが、ゼン様、ルナ様に出会えた事は良かったと思っているのです。実は、ゼン様はギルドで働いており、此度の件について協力を快諾して下さったのです」
「それは真か。ゼン殿、ノーブル国国王、ルクス・ノーブルとして私からも頼ませてもらっても良いだろうか。もはや藁をも縋りたいのだ。なんでも協力はする。だから、助けてほしい」
直々に王からの依頼が入る。
勿論レイアから依頼は受けているので断ることはしない。
「勿論です。俺、いや、私も尽力させて頂きます。つきましては、お聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか。それに伴って人払いもして頂きたいです」
「な、それはなりませんぞ!」
俺のお願いにオールバックの男が慌てたように反論する。
まあ、そうだよな。王様を、どこの馬の骨ともわからん奴と人払いした状態でおらせる等、許容出来ないだろう。
「いや、構わん。なんでも協力すると言ったんだ。すまんが席を外してくれ」
「しかし……」
「これは、王命だ」
なおも食い下がるオールバックの男の意見を王様はぴしゃりと退ける。
それは、有無を言わせない迫力がこもっていて、俺が言われた訳でもないのに唾をごくりと飲み込んだ。
オールバックの男は静かに頭を下げると、部屋を離れていった。
「さて、人払いも済んだ。何を聞きたいんだね?」




