馬車に乗ってもチート女神は無双します
馬車にゆられてアンタレス一行はノーブル国へと向かう。
車とはまた違うその座り心地に、俺はそわそわと落ち着かない。
そんな俺を見てレイアが笑った。
「ゼン、なれない?」
「ああ、ちょっとな。なれてないのわかる?」
「それはもうはっきりとわかるよ。ずっとそわそわしてるんだもん。そんな風にしてたらうちの執事長に叱られちゃう」
レイアはおかしそうに喉をならす。その姿を見て釣られて俺も笑った。
「はあ、緊張感がないというか。ゼン、少し気を張っておいた方がいいぞ?この辺りはモンスターが出る」
緊張感にかける俺を見て、呆れたようにニックが釘を刺した。
どうやら、国賊だけでなくモンスターにも気をつけなければならないらしい。
モンスターといえばエニグマしか知らないんだよなあ。
「この辺にはどんなモンスターが出るんだ?」
「そうだな、この辺だとスライムとビッグスライムが出るな。特にビッグスライムはやばい。馬車を飲み込むんだ。しかも、巨体のくせに素早いもんで馬の足くらい簡単に追いつく」
「……それってもしかして青色で丸くて飛び跳ねる?」
俺はニックの説明を聞き、一つ質問をする。
馬車の後ろの方にぴょんぴょん飛び跳ねる、青くて丸いのを見つめながらどうかあれがそれじゃありませんようにと祈った。
「おお、ゼン知ってたのか。まさにその通りだ。スライムは緑、ビッグは青だな」
しかし、現実は非情である。あって欲しくない問題は正解してしまった。
「ニック、もう一ついいか?あの後ろのってなんだ?」
「ん?ありゃー……び、ビッグスライムじゃねえか!なんでこんなとってつけたように出てくるんだ!」
ニックは慌てたように腰を浮かす。
とってつけたようにか。多分、俺のスキルのせいだと思う。ゴメン!
口には出さないが先日判明した俺のスキルのデメリットである巻き込まれ体質が絶賛発動しているのだろう。
だがしかし、ニックが出てきそうなフラグを立てちゃうから。俺だけのせいじゃないよね!でもゴメン!
「くそ、あいつ相手だと俺の能力相性悪いんだよな。アン、頼んでもいいか?」
ニックが忌々しげに舌打ちをして、未だ表情を変えていないアンさんにお願いをした。
だが、アンさんはピクリとも動かない。
具合が悪いのだろうか。だとしたら俺が。そう言いかけた矢先、ニックがアンさんの頭を思い切り叩いた。
「寝んな!」
パンっと小気味良い音が鳴る。
ニックは怒ったように目を吊り上げ、アンさんは無表情のまま頭をさすった。
「……おはよう。……痛い」
「おはようじゃねえよ! アン、大変だ。ビッグスライムが出現した!」
「……いないけど?」
「寝ぼけてんじゃねえよ! ほら、あそこに……っていない?」
ニックが後ろを見ながら目を丸くして呟く。
俺もつられて後ろを見てみるが、跡形もなく先程の青い物体が消えていた。一体なぜ?
俺はと言うと、ニックとアンのやりとりを見ていた為、見てはいなかった。
レイアを見てみると、同じくなにも見ていなかったのか首をかしげている。
という事は、だ。
ルナを見てみると、得意げに右手の先に息をふっと吹いていた。さながら西部劇のガンマンが銃をぶっ放した後に硝煙を吹くような仕草である。
そうか、あれをしたのか。それなら納得。
「おかしい……。ビッグスライムはしつこくて有名なんだぞ。それにあいつを倒すとなると結構強いモンスターがいる事になる。ゼン、注意しろ。キングイーターでも出たのかもしれない」
ニックは信じられないとばかりに考え込み、俺に注意を促した。
だが安心してほしい。キングイーターがなにかはわからないが倒したのは我らがルナ様だ。
女神のとんでもパワーで倒してるし正直なにも心配いらないよ。まあ、ばれるのダメだから言わないけど。
俺はニックと調子を合わせて、ああわかったと同じくらい真剣な顔を作り後ろを警戒するふりをした。
当然キングイーターなるものは現れる事もなく、馬車は歩みを進み続けた。




