いざ、ノーブル国へ
午前七時三十分。俺とルナは予定よりも早くアンタレス前に集合していた。まだ誰も到着しておらず、一番乗りである。
なぜ、こんなに早くいるのかと聞かれれば、ルナと二人きりの時間はちょっと色々ときつかった。好きあらば抱きつかれ、寝ている時の寝相はそんなに良くはなく無防備な女性がそこにいるのだ。
ルナでなければ欲情が隠しきれなかった。
だが、我慢したぞ。おいそこ、ヘタレって言うんじゃない。
ルナはといえば、どこか不満そうにジト目で俺を見ていたが。
「おー、ゼン、早いじゃないか」
「……早いね」
俺たちに負けず劣らず早い到着でニックとアンさんも到着。
ニックは性格的に遅刻するようなキャラだと思っていたのだが、どうやらそんな事はなかったようだ。
「俺なんて二度寝しちゃってたよ。アンが来てくれなかったら絶対遅刻してたわ」
前言撤回。ニックはニックだ。予想通りで逆に安心した。
「……ゼンくんはニックとは違ってきちんと到着したんだね。……感心感心」
アンさんはニックを下げて俺を褒める。
まあ、俺が早めに到着したのはルナとあまりあの部屋で二人きりは嫌だと言う理由なんだけど。
「ところでよ、どこに泊まったんだ?」
ニックは会話の中で何気なく聞いただけだと思う。だが、どうしよう。出来るだけ答えたくはない。
うまく言葉を濁そうと頭を回転させる。
「ペア宿ですよ」
だがしかし、俺の思惑を完全に無視してルナが答えた。
いや、でもラブホテルじゃないもんな。ペア宿だもん、悩む事ないよな!
「え、あ、そ、そうなんだ。なんか、悪い事聞いたな」
気まずそうにニックは目を反らす。つまりはペア宿はそういう宿で、ニックの反応はそう言う事なんだろう。
「いやいや、ニック! なんだその反応! なんもなかったって!」
「いや、俺もなにも言ってないだろう? まあ、ゆうべはおたのしみでしたね。って言おうとはしたけどさ」
「言わなかったけど、目が言ってるんだよ!」
ぎゃあぎゃあとニックに対して猛抗議。このままだといたした事になってしまう。
それは嫌だ。それを認めてしまうとなし崩しに既成事実が生まれてしまう。
「おーい。みんな揃っとるかのうー?」
渡りに船とはこの事だろうか。馬車の荷台に座るピスコさんが手を振ってこちらに向かっているのが見える。
奥にはレイアも座っているようだ。この馬車で向かうのだろう。
「おー、みんな揃っとるのう。ニコラスが遅刻するかと思っとったが、起きれたんか?」
「ひどいですね、ピスコさん。俺もたまにはやるんですよ?」
ピスコさんにもしっかり疑われているニック。ニックは偉そうにドヤ顔をしているが、お前はアンさんがいなけりゃ遅刻だったろう。
まあ、言わないけどさ。
「とりあえず、みんな揃っとるの。君たちはこの馬車でノーブル国へと向かってもらう。おそらく半日程で到着はするじゃろう。いいかの?」
ピスコさんは全員の顔を見ながら確認し、レイア以外の全員が首を縦にふる。
「よろしい。では、儂からは以上じゃが、レイア様、なにか言う事はあるかの?」
「特にはないですね。もう、皆さんを信じているから」
レイアは馬車の荷台から、おそらく心からであろう照れ臭くなるような台詞を言う。
俺たちは、目を合わせてにやりと笑った。
言葉にはしていないが、俺たちに任せろ。と、言っていたような気がする。
少なくとも俺はそう思ってレイアにピースを向け馬車に乗り込んだ。




