依頼遂行パーティ結成
「うーん……。ってー……。身体がめちゃくちゃ痛い……。俺は、そうか負けたのか」
起き上がったニックは痛そうに顔を歪め、力なく呟いた。
「そうじゃな。ニコラス、お主は負けた。良かったじゃないか。お主より強い奴と戦えて」
ピスコさんは自慢の髭を撫でながら、特に怒る訳でも特に慰める訳でもなく笑いかけた。
ニックははっとしたような顔をして一瞬俯くと、すぐに笑顔で顔を上げた。
「そうですね、これで俺もまだ強くなれる。ゼンと言ったな? 俺はまだまだ発展途上中だし強くなるきっかけをみすみす相手に与えた訳だ。今後は覚悟しておくんだな」
そう言ってニックは右手を俺に向けた。
これジャ●プとかで良くあるやつー! ライバルキャラが主人公に負けて、そこから友情芽生えるやつー!
平々凡々な今までの人生とは思えないくらい濃厚な体験。すごく、嬉しいです。
「ああ、だが俺も負けるつもりもないぞ」
内なる興奮は胸に秘めてニックと固い握手を交わす。ああ、これで俺たちに友情が芽生えましたとさ。
「さて、実力も分かったし、ここからは仕事の話をさせてもらおうかのう」
ここで、ピスコさんがポンと手を叩き、仕事の話へと切り替えた。
「今回の仕事はゼンとニコラス、あと一人出す。お主が行くのならルナも行くのじゃろう。つまりは四人パーティじゃな」
「質問いいですか?なにするんです?」
「ニコラス、そう焦るな。まずは状況確認を進め、お主達からの連絡を待つ。儂達は人数を集めておくからお主達の連絡次第では人数を足そう。まあ、部隊級を揃えてるし大丈夫じゃろう」
ピスコさんからレイアの依頼の進め方について説明を受ける。
人員も割と強い人を割いてもらえたようですごくありがたい。だが、一つツッコミをいれさせてもらうと一人は多分国家級なんだよなあ。
「もう一人ってもしかしてアンですか?」
ニックは心当たりがあるのか一人の名前を上げた。
「そうじゃ。彼女の能力は隠密行動に向いておるからのう」
「まあ、そうなんですが。うーん、大丈夫ですかね? なんというかクセが強いですよ」
「大丈夫じゃろ。うちにはクセが弱いものなんておらん」
ニックの心配をよそにピスコさんが笑い飛ばす。
いや、話を聞いてる限りではかなり不安なんだが。クセが強いって大丈夫?
「……クセが強いとはレディに向かって失礼」
音もなくニックの背後に黒髪ショートの女が現れた。
口元を赤いマフラーで隠し、その目も怒っているかどうか分からないくらい感情の起伏を感じられない。
だが、服装については起伏が激しく、上半身は圧倒的軽装の黒いビキニで下はホットパンツ。マフラーをしてるせいで、暑いんだか寒いんだか分からない。
世界観を急に無視したけしからん服装をしたその風貌はまごう事なくクセが強いがそのままの君でいて欲しい。
あと、ボソリと言った言葉から察するにこの人がアンという人だろう。
「おわっ!? アン、急に出てくるな! びっくりするだろ!」
ニックは音もなく現れたアンさんに驚きの声を漏らした。
だが、アンさんは表情一つ変えずにびしっとニックに指差した。
「……ニックが失礼な事を言ったのが悪い。……明朗快活、容姿端麗、謹厳実直、品行方正な私でも怒るよ?」
「な、クセが強いだろ?」
アンの早口自分あげ発言を聞いて、ニックが俺に耳打ちをする。
俺は納得し首を縦に振った。
「……まあ、寛大な私はニックを許そう。……そんな事より私は君に興味がある。……私はアン。……君は、とても強いね。……ニックの強さを知ってるから一撃で倒した君を賞賛するよ」
「は、はあ。ありがとうございます。俺は前と言います。褒めていただき嬉しいです」
「……君は挨拶も出来て謙遜も出来るんだね。……ん、君を気に入ったよ。……先輩である私が君が困った時に助けてあげよう」
アンさんに無表情なまま褒められ、冷たい手で頭を撫でられた。
少し気恥ずかしいと思いつつ、ちょっと一箇所に冷気を感じ始めた。……まあ、ルナのいる方向なんだけどさ。
今ルナは俺の右後ろの方にいるわけなんだが怖くて向けない。
「おい、ゼン。ピスコさんじゃねえけどお前と一緒にいた女からとんでもねえ黒いオーラが見えてる気がする。多分だけど」
「いや、見えてるで正解だわ。まあ、ほっといてくれ。あとで治療するから」
あとでルナの頭撫でてあげよう。なんかだんだんとルナの扱い方がわかっていた気がする。
とんでもなく失礼極まりない話ではあるが、この神様については俺が一番取り扱いがうまいと思う。
「さて、とりあえずメンバーの顔合わせも終わったし、儂は依頼者を連れて来ようかのう」
ピスコさんは手をポンと叩くと、レイアを呼びに部屋を出た。
多分依頼者を呼ぶ目的もあるだろうが、ピスコさんは見える人だからルナの黒オーラでちょっとビビったんだろうな。ごめんね。




