実力テストの結果はギルドマスターをも驚かす
いやーしかし、スキル補正と魔法の力とはいえ自分の力に引く。
こんなの絶対おかしいよ! 俺だけど俺じゃない!
「流石です、前さん!」
「これほどとはのう」
だがルナは俺の心情を察する事なく拍手をしながら満面の笑みで飛び跳ね、ピスコさんは倒れたニックを見つめて声を漏らした。
ピスコさんの顔色は興奮、驚愕が入り混じったような複雑な色をしている。
「そんなに驚きます?」
「まあのう。ニコラスはうちのメンバーの中でも実力者じゃ。火魔法を扱い、スキルの物質変化でトリッキーに戦う強者ではあるのじゃが、油断しておったとはいえ、こうもあっさり……」
ピスコさんは口元に手を当てて言葉を詰まらせる。
そんなに驚くほど強い奴を新人に戦わされていたのかとツッコミをいれるのはいいんですかね?
「前さんの相手は強かったですよ。魔物が大群でもない限りこの人一人で対応できる程度には」
「エニグマとか?」
「そう、エニグマとか」
ルナが言うからには間違いなくニックは強かったのだろう。強さの基準として出したエニグマの強さはいまいちわからないが、レイアがすごく怯えていたのだからそこそこ強い生命体のはずだし。
「お、お主らエニグマに会ったのか? まあ実力的にはエニグマくらい倒せるじゃろうが。でもエニグマは部隊級で、うちでもニコラス含めて倒せる奴なんてわずかなんじゃよ? ほんと末恐ろしいのう」
俺とルナの会話を聞いてピスコさんが若干引きつる。どうやらルナの倒したエニグマはとんでもない生物らしい。
レイアを助けた時もかなり驚いていたが、ピスコさんも驚いたという事はそういう事なんだろう。
それに部隊級なんて不穏な単語も聞こえた。
「部隊級ってなんですか?」
「ああ、ギルドでは魔物の脅威度を知らしめるべくランク分けをしておるんじゃが、平民級、兵士級、部隊級、旅団級、師団級、国家級の順に危険度を上げておる。平民級は無害じゃが兵士級は兵士一人で倒せるような魔物、部隊級は編成された少数部隊で倒せるくらいの魔物という扱いじゃな。で、エニグマは基本四人前後のパーティで倒すのが基本なんじゃがのう」
「へ、へえ」
その部隊級を一撃で倒したのかこの女神は。いや、女神なんだからそりゃ出来そうなもんだけどあんな涼しい顔で四人がかりで倒せる魔物を倒したのか。
「ちょっと前さん、そんな見つめられたら照れますよ」
俺の目線の意図に気付いていないのか、ルナは頬を染めてえへへとしまりない笑顔を浮かべていた。
この規格外は本当に恐ろしい。ルナこそ間違いなく国家級だな。
「倒したのは二人でだったんかのう? それとも一人?」
「倒したのはルナがひとりでっぇええええ!?」
ピスコさんの誤解を解こうとした瞬間、ルナにあばら骨が摘まれ奇声を漏らす。
もう一度言おう。俺はルナにあばら骨を摘まれた。
あばら骨って摘めるんだな……。
あまりの痛みに悶絶し、回復した瞬間怒りに任せて部屋の隅にルナを拉致した。
「ちょっと前さん、まだ人がいるのに大胆♡ そんな慌てなくても私は逃げませんよ?」
「うるせえ。なんで摘んだんだ、人生初だよ。あばら骨処女奪われたわ」
「なんですかその処女。まあ、説明しておくと私の情報全てにフィルターがかかっているのでピスコさんには私の全ての能力は見えていません。私が女神という事は極力明かしたくないので。なので、私と前さんが倒したことにしてくれませんか? レイアさんに説明したみたいに」
「あー、そういう理由ならわかったよ」
ピスコさんが反応してない理由もそういう事だったんだな。確かに女神ってばれるとややこしそうだ。
ルナのお願いに了承すると、どきりとするような笑顔を俺に向けた。
「ありがとう前さん。大好きです♡」
最初のうちはボソボソ言ってたようなルナのアピールは今では最早強烈なものになった。
女神の愛が重すぎる。
俺はため息を一つつくとピスコさんに向き直った。
「すみませんね。えっとエニグマはルナと俺で倒しました。俺が囮になってルナがとどめを」
「成る程のう。ナイスなパートナーがおるんじゃな」
「見る目がありますね。そうです、私と前さんはベストパートナーなんです」
ピスコさんの言葉に我が意を得たりと言わんばかりにルナが食いついた。
得意満面のルナに、ピスコさんは好々爺のように笑った。
「う、うーん……」
和やかな雰囲気の中、呻いた声が聞こえ、ピクリとニックが動いた。
あ、忘れてたわ。




