実力を知らしめる
レイアはシャウラさんに依頼の正式な手続きをするべく別室へと向かった。
部屋には俺とルナとピスコさんの三人がいる。一応ギルド入りをしたので俺は下っ端になるが、愛想の一つでもしておいた方がいいんだろうか。
「さて、ゼンくん。君はアンタレスに入る事になった訳だがすぐさま依頼が入る。今のうちに君の実力を知りたい。じゃから、うちのとこの若いやつと戦ってみてくれんか?」
「え?ちょ、ちょっと待ってくれません?ルナ、ちょっと」
俺はルナを呼んでピスコさんと距離を取り声を潜めた。
「俺って戦って大丈夫?魔法もスキルもあるって言われたけどいまいちわかってない」
「多分大丈夫じゃないですか?今の前さんにある(勝手に授けた)スキルはトラックに轢かれても死なないし、弾丸くらいならポップコーンみたいに砕く事は出来るし、走れば滑空時の隼より速いです」
いつの間にか俺は人間をやめていたらしい。DI●も真っ青だ。俺は人間をやめたぞー! 過去形だぞー! 本人の意思は無視されてるぞー!
「それに光の魔法も駆使すればおそらく万物において前さんは最強です。私が保証します」
女神のお墨付きとあらば、間違いなく最強なんだろう。
ほいじゃらば、まあテストを受ける気持ちで戦ってみるか。
「ピスコさーん、戦ってみます」
「おお、すまんな。では、入ってきてくれ」
ピスコさんが大声で扉の外に呼びかけると、赤いロッドを持ち猿の尾をした男が入ってきた。
恐らくは猿の獣人だろう。
短髪の黒髪で目つきは悪く、俺が地球にいた頃は絡むタイプではない。がたいが良く、身長百七十の俺よりもはるかに高いのは割と悔しい。多分百八十くらいだろう。
「失礼するぜー? ピスコさん、こいつと戦うんですか?」
「ああ。注意するんじゃよ? 実力は折り紙付きじゃ」
「へえ」
猿男は品定めをするようにジロジロと上から下まで舐め回すように見てくる。
そして一言、ふうんと呟いた。
これは、お眼鏡にかなったのかな?
「正直実力が見えねえがピスコさんが認めたって事は本物なんだろうな。俺はニコラス。ニックと呼んでくれ」
「俺は前。よろしく」
「おう。じゃあ、ほい!」
「うおっ!」
自己紹介を行なってすぐ、ロッドでニックは不意打ちをかます。
間一髪で避けたが、完全に殺しに来てやがると言いたくなるくらいスピードがのっていた。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「これを避けるか。やるじゃねえか!」
「いやいやいや、やるとか以前に……って危ねえ!喋らせろ!」
「ほらほら、喋ってると怪我するぞ」
ニックの攻撃は遠慮というものを知らない。
机もソファも気にせずにロッドを振り回す。
だが、ルナとピスコさんの方へ寄って行ったりしない限り周りは見えてるのだろう。つまりはルナとピスコさんに当てなければなにをしてもOKなんだろうな。
それでもちょっと理不尽なまでの攻撃に俺はいらっとし、右手を銃の形にして構えた。
「俺も反撃をさせてもらうぞ!」
森で試し打ちした光の弾丸を打ち込む。だが、ニックはそれをロッドで防いだ。
「なんだその魔法。はじめて見る魔法だ。ゼン、それはなんなんだ?」
「不意打ちする奴には教えてやんねえ! クソして寝てろ!」
「な! 実戦では不意打ちは当たり前なんだぞ? むしろ俺はこの依頼をこなす大変さを教えてやっただけだ!むしろ感謝しろバーカ!」
売り言葉に買い言葉。俺とニックの実力テストはなんだかルナとレイアの喧嘩を彷彿とさせていた。
だが、俺はどうやら負けず嫌いだったようで、引き下がる気は毛頭ない。不意打ちがカチンと来ていたからな。
「誰がバカだぁああああああ!」
「なにがクソして寝ろだ!」
俺は大きな光の球体を作り出し、ニックはロッドを上段で構え俺の攻撃に備えている。
ばちばちと音をたてているボウリングの玉並みの球体に作った自分でも若干引きつつも照準はニックに合わせた。
「俺が勝ったら不意打ちを謝れよ?」
「は、まだ言ってるのか。ケツのアナ●が小さい男だな。そうだな、負けたら謝ってやる。でも、俺が勝ったらニック様って呼べよ?」
「上等だ!」
俺の作る球体はついには一メートル程の玉のサイズへと変貌をとげ、ばちばちという音はさらに凶悪なものに進化していた。
ここで強気だったニックの顔色もだんだんと変化していった。ニックの強気だったはずの顔は少し困惑の色を貼り付けていた。
「ぜ、ゼン。提案なんだがちょっと話し合わないか?」
「悪いな、終わってから聞くよ」
俺はにっこり笑って意見を無視し、光の弾丸、いや、砲弾を放った。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ……」
バチバチという凶悪な音と眩い光がニックを包み込み、ニックの叫びをも消し去った。
光が落ち着くと、ヤ●チャしたニックが転がっており俺の勝利が決定した。
よし、すっきりした!




