再会はタックルとともに
「前しゃーん!」
「ぬおおおお!?」
次に扉が開いた瞬間の事である。
瞬間的になにかが入ってきたかと思えば、イノシシも真っ青なタックルをかまされた。あまりの出来事になにも反応が出来ず、為す術もなく吹き飛ばされる。
タックルをした主ことルナは、そのまま俺に鯖折りのようなハグを決め込んで鼻をすんすんと鳴らしていた。
「はあ、素敵な香りですね。前さんの香りのフレグランスがあればいいのに。そしたら私が買いだめしてシャワーのように浴びますとも。いや、でも前さんに私の香りも嗅いで欲しい……。あ、いい事思いついた。前さんは私のフレグランスをつけましょう。そうしたら私と離れていても私のことを思い出せます。いや、離れていてもって、離れることを考えているようでは私もまだまだですね。一生離れられないようにしましょう。フレグランスではなく私の香りを直に! 私も恥ずかしいけど前さんになら! さあ!」
ダメだ、ルナの目が錯乱状態になってやがる。
口からマシンガンのように放たれる変態的なワードに辟易してしまうが兎にも角にも一度落ち着かせないことには。
「る、ルナ。落ち着いて……。みんな見てる……」
「へ? ……あ」
ルナはようやくピスコさん、シャウラさん、レイアのなんともいえない視線に気が付いたらしい。
そっと俺から離れ、衣服の誇りを払い、咳を一つするとにっこりと笑った。
「どうもこんにちは。ルナと申します」
いや、取り繕うには遅すぎるよ。
凍てつくような室内で俺はぐったりとうな垂れた。
「こ、個性的なお知り合いをお持ちじゃのう」
流石はギルドマスターだと言うべきか。
ピスコさんは完全にぶち壊れた空気を修正に入った。
「いやあ、俺も彼女の新しい一面を見せられましたよ。すごく個性的ですがとても頼りにはなります。先程の勧誘のお話も俺以上に彼女の方がおすすめですよ」
「え、いや、その、なんじゃ。ちょっと待っておくれ。あ、そうじゃ。自己紹介、自己紹介を忘れておったわい。とりあえず話はそこからじゃな」
しどろもどろになりながらピスコさんが切り返す。
そんなに遠慮しなくても。
ルナはぶっ飛んでるが女神だから規格外なんだぞ! まあ、力以上に言動がぶっとびだして、最初の遠慮がちにぼそぼそ言っていた姿はどこへやらとなっているが。
「儂はピスコ。このギルド、アンタレスでギルドマスターをしておる。そしてこちらがシャウラ。受付をしてもらっておる。このギルドのいわば顔じゃな」
ピスコさんは改めて自己紹介、そしてシャウラさんの紹介を行うと、シャウラさんはスカートの裾を掴み一礼をした。
「んじゃ、こちらは俺から紹介させてもらいます。俺は前です。で、こっちの銀髪はルナです。で、こっちの金髪はレイア・ノーデンスです。よろしくお願いします」
ピスコさん達の自己紹介に習い、自分、ルナ、レイアを紹介する。
ルナもレイアも紹介に合わせて一礼するが、なにやらレイアの様子がおかしい。どういう訳か唖然としたような顔をしている。
まださっきのルナショックがひいてないのか?しょうがないな。
「レイア、レイア?」
「あ、ごめん。ピスコさんとこんな間近で会えるとは思っていなくて」
「え?そんなすごいの?」
「すごいってもんじゃないよ! ピスコさんはその目を使い、ある国にクーデターを仕掛けようとした首謀者を突き止めた英雄なんだから!」
「え? まじで?」
ちらっとピスコさんに目をやると、ピスコさんはにやりと笑ってピースをした。
どうやら嘘ではないらしい。
凄い人に勧誘されたもんなんだな。
「まあ、昔の事じゃ。それに、今は勧誘の事を話そう」
「え、勧誘!?」
再度話を進めようとしてすぐに話の腰が折れる。
ピスコさんが勧誘というと、レイアが驚いたように目を剥いていた。
「うん。なんかそんな感じ」
「そんな感じってどういう事? ちょっと整理しきれないんだけど」
「そうは言ってもだなあ」
「とにかく一旦説明して!」
レイアの剣幕に押され、俺は事の顛末を説明した。
説明を終える頃にはレイアは唖然とした表情からだんだんと神妙な面持ちとなっていた。




