僕の考えた最強のスキル的スキル
「英雄の……雛?」
なんかとんでもない事を言い出したなあとただただ呆気にとられる。
かつて勇者が持っていたスキルで、成長するスキル? どういう事なんだ? 光魔法だけじゃないのか?
「ピスコさん、そもそもの話なんですがスキルとはなんですか?」
「スキルを知らんのか? どんな田舎出身なんじゃ……」
ほっとけ。
可哀想なものを見るようなピスコさんの視線に、やや怒りを覚えつつ今は情報が必要なのでぐっと堪える。
「スキルというのはのう……。先程儂が見せた見透かす目もそうじゃが、その人自身の才能と言えば良いかのう。例えば鷹の目というスキルであれば遠くにいるものでも見える。そんな感じじゃ、わかるかのう?」
「とりあえずは分かったかなあ。ピスコさんはその見透かす目で俺のスキルを見たと。で、英雄の雛があったと。でも英雄の雛の能力がピンと来ないです」
「まあ、確かにイメージしにくい名前じゃ。ちょっと待っておれ」
ピスコさんは立ち上がると一旦部屋を出た。
そして、三十秒程して今度は大きな本を持って再度入ってきた。
分厚い。二十センチもあろう厚さに、赤い表紙に金の文字で【skill】と書かれている。その見た目だけで中身の膨大さを感じられる。
「これは、スキルの辞典じゃ。今まで存在したスキルが全てここにある。さて、英雄の雛は……。あった」
ピスコさんがパラパラと辞典をめくり、ここだと指差した箇所を見てみる。
指差す先に、英雄の雛と書かれた項目があった。
英雄の雛。力は伝説のドラゴンよりも強く、風神ゲイルよりも疾い勇者なる存在。成長とともに、魔法の才能も開花しスキルは英雄へと進化する。
という僕の考えた最強の設定。と言わんばかりのとんでもない内容が書かれていた。
「見れば見る程とてつもないスキルじゃのう。そんなんを持ちながら光魔法も使えるお主も大概じゃが」
「……俺って、少しやばいですか?」
「少しじゃない、とてつもなくやばいのう」
ですよねー。
内容聞いただけでも薄々感じてたけどさあ。とんでもないもんついてしまっている。
「はあ……。なーんか疲れちゃったなあ、もう」
頭に情報が入り過ぎたせいか疲労感に襲われる。なんか甘いものでも入れて落ち着かせたい。
天井をぼーっと見つめながら、考え込む。なんでこんな事になっちゃったんだろうな。
そう頭を悩ませていると、扉がノックされた。
「失礼します。お飲み物をお持ちしました」
非常に素晴らしいタイミングでシャウラさんが入室し、コーヒーとお茶請けとしてチョコレートが置かれた。
俺が欲しいと思ったら甘いものを持って来てくれるだなんて。流石シャウラさん、俺に永久就職しないかい?
「ありがとうございます」
まあ、思ったことは口には出さず、努めて無難に笑顔でお礼を告げた。
「いえいえ。どういたしまして。時にピスコさん。今うちの受付の方に『私の前さんを返してくれませんか? でなければ、何をするかわかりませんよ?』と言っている女性ともう一人女性が。言動が危険な為お待ち頂いているのですが」
俺のお礼はシャウラさんに事務的に返されちょっぴり切なくなったが、直後に告げられた内容は心から恥ずかしくなってしまうものだった。
「あ、それ、うちの知り合いです」
もう恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
なんで俺の居場所が分かったのかは知らないが、とてつもなく恥ずかしい。見つけてくれとは願ったが辱めてくれと願った覚えはない。
ほんとは名乗りを上げたくはなかったが、俺が出ていかなければほんとに何をするか分からない。
「ほっほっ。賑やかな知り合いを持ってるんじゃな」
「賑やかというか、賑やかすぎるというか」
「まあ、君の知り合いを無下にはできんわい。シャウラよ、通しておくれ。その人達にも今回の話はしておくべきじゃろうて」
「かしこまりました」
シャウラさんは一礼すると、部屋を後にした。




