7話
起きた義男は体を起こし顔に巻いたマフラーの目の所をずらしてあたりを見回し、そして安全を確認して傘を握り岩と岩の隙間から這い出る。
顔を洗いに行こうと水場まで行く途中二匹の狼の死体を眺め、ちょっとした罪悪感に襲われた。
そして顔を洗い罪悪感から逃げるように、すぐに水の流れに沿って移動を開始する。
少し距離を歩き一度食事休憩を挟み、おそらく昼過ぎまで再び移動を続けたが、途中大きな崖のような滝で一度立ち止まる。
「うわっ、どうやって降りようか。」
他のルートを探すが、どこも崖のような斜面
もしかしたらコートを着ていたら、飛んでも落ちても無傷で耐えれるかもしれないが、そこまでコートの力を過信できない。
もう一度何か使えるものがないかあたりを散策する。
「何か使えるものは…」
しばらく散策すると蔦のような植物を見つけた。
それなりに自生している蔦を二、三本くるくると交互に巻き端で結び一本を太くする。
そしてある程度の長さまで結び連結していく。
再び崖まで戻って崖の近くに立っている大きな木に連結した蔦をまきつけ、下に垂らした。
傘を鞄の中に入れ下に降りる準備が整った。
「これは、かなり怖いな。」
小さなビル一つ分はありそうな高さの崖の上から、下を眺める義男の手足がすくんでいた。
しかし進まないと先がない、そのために気合いを入れ蔦と少しの足場を頼りに下まで降りていく。
無事降りきった義男はそのまま水を頼りに沿って歩いていく。
そして歩き続けて三日後、獣達と会う事もほとんどなくなった、買い溜めしていた今では賞味期限切れの弁当がつきそうになり、予備に見た目だけは食べれそうな木の実を選んで採取していた。
そして仕事終わりに山へ入り一週間が経とうとした時、
「ようやくか」
やっと山をおり森を抜けた。
義男の目の前には平原が見えていた。
しかしまだ問題が残っていた。
あとどれくらいで人里に出れるのか。
そして、
「まてよ、言葉は通じるのか?」
人に会ったとしても言葉が通じない場合、どうするか悩むが答えがでない。
平原を歩きながら悩んでいると、昼過ぎに差し掛かった時間帯になった時、人里の繋がる可能性のある、轍をついに見つけた。
見つけた時は虎を倒した以来のハイテンションで走り続けたが、また夜になり野外で満点の星の下で一泊した。
朝になると雨音で目を覚まし、コートが多少濡れていた。
こちらに来て初めて傘を傘として使える日になった
そのまま歩き続けること数時間、持ってきた食料がつき新たな焦りを持ち始めた。
しかしようやく人が住んでそうな気配の村を発見した。
「すみませーん」
まだ残りの距離や雨音で聞こえる事はないだろう、ただ叫ばずにはいられなかった。
家に帰るという目的を忘れた会社帰りサラリーマン義男の野宿生活がようやく終えようとしていた。