5話
今すぐにでももう一度水を探したいが木の枝や葉が月の光を遮り地面がほとんど見えない。
すでにあたりは黒く染まりつつあった。
義男は鞄の中から、コンビニで買っていた弁当と次飲めば底がつきそうな中身の水筒と一緒に、少しは喉の潤してくれそうな栄養補給用のゼリーを夕食として、微かな月の光だけを頼りに食べる。
「あー、明日には絶対に水場探さないとやばいな。」
木の側でコートに丸まり傘と抱きしめ、鞄を枕に横になる。
夜は獣が活発になるのかたまに遠くの方から吠え声が聞こえる。
怖くなった義男はコートでしっかりと体を覆い、マフラーを目だけが出るように巻く。
明日からどうしようかを考えていると、一日以上歩き続け獣との戦いで消耗した体力の限界で、一瞬のうちに睡魔に襲われた。
翌朝目が覚めると同時に辺りを見回す。
「何事もなかったか。」
コートやスーツで守られているとはいえはどこまで信じていいのもか、寝込みを獣に襲われる不安があったがこの日は特に何もなく無事起きる事ができた。
寝起きの固まった体に違和感がないか調べ、鞄の中からおにぎりとゼリーを取り出して軽く食事をとった後、すぐさま出発の準備をする。
日が高い位置に到達するまで歩き続ける。
歩いても歩いても変わらない光景が義男を苛立たせる、その苛立ちを食事に変えようとそろそろ昼休憩しようとした時に、
「ん?」
鹿らしき獣が向こうに走っているのが見えた。
そのまま水場の方に行く可能性があるかもしれないと、そのあとをできる限り追っていく。
後追いの素人だ。すぐに義男に気づいた鹿がさらに速度を上げ、姿が見えなくなる頃には一人取り残されていた。
しかしそのまま真っ直ぐのつもりで進んで行く。
時計はもう動いてないが二時間ほどは経っただろうか
「ほとんど疲れてないけど、腹減ったな。」
昼抜きで走り歩き続けていると、腹からの命令が鳴った。
すでに水筒の中身はない、残りの水分を多く含んでいるものといえば栄養補給用ゼリーだけ、
「早く見つけたいんだけどな。」
傘を鞄にしまいながら呟き、そして足を止めずにおにぎりとゼリーを食べる。
手に持っているおにぎりが無くなり、歩き続けている義男が短く叫んだ。
「うぉっ」
ついに探していたものが目の前に広がっている。
義男は変なテンションのまま沢へと走り出した。
そのまま沢の手前まで行き、何も確かめもせず手で掬い水を口まで運んだ。
「うんま」
これで生き延びれる、そう考えた義男から自然と涙が溢れた。
そして十分な時間をかけて命の水を、会社帰りサラリーマンの義男はひとしきり愉しんだ。