4話
腹も膨れ水場を探し歩いていた義男はふと上を見上げた。
「そういえば寒くもないし暑くもない。
それに疲れもほとんどないな。」
普段から大した運動をしているわけではないし、革靴で森の中をこれだけ歩き回る経験は流石に無い、これだけ歩けば足がふらつくはずだと思うが、これも不思議な力をもらった革靴もしくはコートかスーツのおかげか?と思いながら空を見た。
先ほどまでの薄暗く太陽の陽が地面に当たらない場所から離れたのだろう、少しずつ木の間から光が所々差し込んでいた。
しかしその太陽も夕日に変わっていきそうな時間帯に迫っていた。
「水もだけど、夜もどうするか。
寝るのにちょうどいいところがあればいいんだが」
冬のはずだった季節が嘘のように寒くない。
とりあえず寝るのに寒くないならそれで良しと、水場と寝床を探し始めた。
それから数時間、あたりが暗くなる前に上から飛んできた木の実が体に当たった事で、上を見て何かに義男が気がついた。
猿らしき獣が木の上から義男を見ている。
義男が気づいたからなのか金切り声のような叫び声で威嚇してきた。
その威嚇とともに木の実を一斉に投げる。
投げた木の実が体に当たっても全く気にならなかった。しかし手で頭を守っていたが守られていない隙間から頭に当たり、固い感触があった時はたん瘤が出来きそうな痛みを感じた。すぐにコートのフードを被り、念のためマフラーを目元まで広げ上げた。
フードはまだしもマフラーにも効果がついていた事に気がつき、そこからは顔や頭に当たる木の実が全く気にならなくなったが、金切り声は不思議コートたちでは守ってくれない。
「頭がおかしくなりそうだ…」
何匹いるのか分からない猿達の叫び声を聞きながら、どうしたもんかと周りを見渡す。
猿達の大合唱を止めるために近くの木を傘でフルスイング
木の幹が折れ猿どもが数匹いる木へと倒れ込んだ。
それから二度三度と違う木をフルスイングし、他の木を巻き込んで大きく揺らす。
何匹か猿が落ちてきたがすぐさま木の上へと上がっていき、猿達が怯えたのか逃げたのか少し静かになった。
それでもまだ上から聞こえる金切り声の木の下で傘をフルスイングしようと振り上げた時、一匹の体のでかい猿が義男の体の後ろに飛び乗ってきた。
引っ張っても離れそうにない猿が後ろから揉みくちゃにしながら爪や牙らしきものをコートの上からたててくる。
フードを取られないように頭を片手で抑え、後ろの木に背中から猿を押しつぶす形で何度か激突した。
それを嫌がったのか体のでかい猿が背中から離れ、それが合図になったらしく木の上にいたら群れごと去っていった。
「疲れた、まだ寝床も水場も見つかってないのに」
終わった頃には森が完全に暗闇に飲み込まれた。
未だに目的が達成できないフードを深く被りマフラーで顔の半分以上が見えない怪しい会社帰りサラリーマンの義男が呟いた。