3話
虎のような獣に勝った事、他にも傘が鈍器のように使え、少なくともコートやスーツの下は痛くない事が分かったため、少し安心した気持ちで歩み始めた義男の腹が盛大に鳴いた。
「あー腹へったな」
鞄の中からコンビニで買った弁当を取り出し木の側に座って食べ始め、いつ以来の食事かも忘れ食べる事に夢中になっていた。
ある程度満腹感を味わうと、
「どうして、こんなに食料を買ったんだ?
というかあんなにパンパンだった鞄が軽い、というか薄い?」
鞄の中には一週間分以上の食料が詰め込まれていた
それだけ鞄に詰め込んだ時には膨れに膨れ上がっていたが今では嘘かのように薄っぺらい鞄になっている。
「まさか、これもか?」
そこらにある太く長い木の枝を次々と鞄に入れてみると、鞄には底がないかのように深く沈んでいく。
一本目が入りきると二本、三本と入れていった。
「まじか、どこにいったんだ?」
再び鞄の中を広げて見ると何も入っていない。ただ底が見えるだけで、先ほど入れた時計やスマホも見えない。
それに気がつき鞄をひっくり返すと、時計とスマホが地面に落ちた。
「え?あった。」
もしやと思い、木はどこいったと考えながら鞄に手を突っ込むと木の感触がし、そのまま引き抜いて出した。
これは便利だ、と喜ぶ義男。
どれほど歩くか分からないが全く重みを感じる事なく、制限がどこまでか分からないにしても量はそれなりに入ることがわかった。
「これはかなり有難い。
傘にコート、あとはスーツ、ほんでこの鞄か、
さっきの虎を持てたのも服のおかげか?
もしかして自分以外がチートなのか…」
どのタイミングで強化されたのか謎が深まるばかりだった。
何かに取り憑かれたかのように動き回っていたから他を気にかける事もなかった。
それでも頑丈で重そうな傘、傷つかない服、なんでも入る鞄
自分とは関係ない物がさらに強化されていき付属品に嫉妬する義男
ただもうどうにもならない、
と気持ちを切り替えてどうしてこんな所にいるのかを考えた。
逆方向の電車に乗り、何度も乗り継ぎ最後はタクシーで人気の無い山まで行った。途中でコンビニで食材も買った。
それらが何かの為だと思い、必要以上に駆り立てられた事も覚えている。それも自分の意思で。
しかしそれが何の為かも分からないし、何に駆り立てられたのかも分からない。
ただ本能でここに来るのが分かっているかのよう食べ物を買った。
本能に動かされた。それだけは確かだと確信し、弁当を最後の一口まで綺麗に平らげた。
これ以上は考えても仕方ないと、今度は鞄から水筒を取り出して飲もうとし、
「やばい」
水筒の中身が少なくなった事に今度は違う焦りが出てきた。
「水場を探すしかないか。
これほど食料を買ったのなら飲み物も買えよ、本能」
誰も悪くないこの非常時なのだが、とりあえず本能にあたるしかなかった会社帰りサラリーマンの義男であった。