2話
まだ興奮している義男はとりあえず目の前にいる獣に一度触れてみる。
ゲームのような定番ならこれでレベルアップして体が光ってさらに強くなったり、素材が自動的にドロップされるなんて事を期待しつつ、
「ないのか。じゃあどうするんだ?これ」
と言いつつ獣を持ち上げようとした。
「え、なんで?こんな大きいのにそんなに重たくない?」
再び一人になった先ほどとは違う恐怖からなのか、独り言で寂しさを紛らわせながら獣を持ち上げ、少しだけ持ち上がった獣を下ろして驚愕した。
明らかにおかしいと思いつつも、動く気配のない獣を諦めた義男は鞄を拾い、とりあえずこの場から離れるように立ち上がる。
目指すは、我が家それか人里もしくは生活できる場所と考えた。
しかしどの方向に行けば正解か分からない義男はおもむろに傘を見た。
傘を祈るように持ち上げ斜め上に高く投げた。
もちろん傘の先が向かう方向へと進むため、
「これにかぎるな」
そして傘の先を見届けようと落ちて倒れるのを待つが、シャベルで土を掘る時の心地よい音をたて地中に突き刺さる。
傘の啓示は真上か真下
こうなると再び義男は混乱するばかりだ。
「刺さった?もしかして傘が重いのか?
いや、でも普通に持てるし」
地中から引き抜いて傘をまじまじと眺める。
何か確かめる方法はないかと周りを見ても、ここは森
「木でやるしかないか」
確かめるものが木しか見当たらない。一本の木の方へと向かい義男の手で木を叩いたが、ひ弱な音がしただけで何の変化も見られない。
次に、折れたりしないよな?と思いながら片手で軽く振り上げた傘で叩く。
ただ、軽く振り上げ叩いたつもりが木の上は大きく揺さぶられている。
「傘がチートなのかよ。
傘で勇者ってなれんのか?」
置かれた状況に落ち込む義男
多くはないがファンタジーの冒険物語をそれなりに楽しんでいたが、
傘一本で戦っている物語なんて聞いたことない、どうしようかと悩み、顔に手をやった。
ちょうど顔の擦り傷に当たったところで痛みを感じた義男が新たに気がついた。
「そういえば?」
もろにくらった背中や体の他はどこも痛くない。
背中をさすってみたり、見えもしない背中の状態を見ようと覗き込んでみたがわからない。
「ということは?まさかコートが守ってくれたのか?」
と言いつつどうやって確かめていいか方法が見当たらず、コートやジャケットを脱いでは眺め、着ては眺めを繰り返していた。
分かる事は爪で抉られたはずの背中には傷や破れた箇所さえ見当たらないが
ただ眺めている義男には、
「わからん、さっぱりわからん。
それよりどうやって家に帰ればいいんだ?」
再びコートを着て、ポケットから出したスマホ取り出すも、バッテリーが切れたのか反応すらしない。
腕に巻いてある時計を見ると針に動きがなく、それら全て鞄の中に入れた。
ジャケットやコートまたスマホや時計の事よりも、会社では無の時間に縛られている、そのため休日を無駄に過ごしたくない会社帰りサラリーマンの義男は家に帰る方へと気持ちが向いた。
傘の啓示を無視し、気持ちが向いた方へと再び歩き始めた。