17話
義男達は目的地に着いたものの、獲物らしき物が全く見えない。
「全然獲物がいないじゃん。」
そう呟く義男に、
「当たり前でしょ。ここら辺でそんなに沢山いたら村に来て困っちゃうじゃない。
獣達も人間が住んでいる範囲にはそう簡単に来ないわよ。中には人を襲う獣も沢山いるけど。
それでもソルカ村は獣達の範囲に一番近いわね。」
ソルカ村という初めて聞いた名前に義男が疑問を感じると
「私達のいる村の名前よ」
と答えた。
「そんな名前だったのか。
なぜソルカ村の近くは獣達が多いんだ?」
「アガール山脈の麓の近くにあるからよ。」
「あの距離で近いのか。
結構距離があったと思ったんだけどな。」
実際走って歩いてを実践した義男がそんな事を言うと、
「え?アガール山脈の麓の森に入ったの?」
とリディが驚きの声をあげた。
「ん?ああ、山から下りて少しだけな。」
それを聞いてさらに信じられないという目で見られた。
「凄いわね。一人で行ったの?何か倒したの?どんな獣がいた?何か見つけなかったの?」
矢継ぎに質問しくるリディに若干引き気味の義男は、
「一人だったぞ。
倒したのはアガールタイガーと狼だけかな、後は逃げられたりしたな。」
リディに答えながら、他の質問はなんだっけと考えていると、
「一人でアガールタイガーを?
それより、遺跡は見つからなかったの?」
と新たな質問をしてきた。
「遺跡?そんな物は見つからなかったな。」
義男は約一週間の山と森での生活を思い出していた。
「そうなの、残念ね。
遺跡を見つけて、中に宝があれば大金持ちなのに」
どうやら、リディは現金に目がないようだ。
「そうだったのか。今度遺跡探しでもしてみるかな。」
そんなつもりのなかった、勝手に口から出てきた言葉にリディが乗っかってきた。
「良いわね。もし狩りで実力を認めたら、一緒に行きましょうよ。」
あれ、なんだこの流れ?と義男が置いてけぼりにされ、話が進んで行った。
どうやって断ろうとしていた時、
「アガールラビットよ。」
リディが小さな声で指差した。
その方向には確かに兎がいたが、体のサイズがおかしい。
知っている兎よりもかなり大きい。
立たせると人間の子どもくらいはありそうだ。
「どうやって倒すんだ?」
近くに来てくれると傘でフルスイングできるが、距離があるとと先に逃げられてしまう可能性の方が大きい。
任せて、と言うリディが鞄の中からクロスボウみたいな物を取り出した。
それから体を低くし、ゆっくりと兎に近づいていく。
義男は邪魔にならないようにその場に留まり、リディの後ろ姿を見つめていた。
徐々に距離が近づいていき、リディの動きが止まった。
さすが淀みない動きだな、と義男は後ろから感心していた。
そしてリディはクロスボウを目の前に出し、次の瞬間兎に向かって矢を放った。
一射目を外し、すぐ二射、三射と放つ。
そして立ち上がり、
「全部外しちゃったわ。」
こちらを向いて堂々と宣言するリディのお茶目な一面を、後ろから楽しんでる会社帰りサラリーマンの義男だった。