12話
夢の中からなかなか出てこれない義男を婆さんが起こしにきた。
「まだ寝てんのかい、だらしないね。
さっさと起きな、準備してリディの所に行くよ。」
婆さんの声で体を起こし、おはようと挨拶をする。
「おはようじゃないよ、早く支度しないとリディが出ちまうよ。」
リディって誰だ?と考えてると、
そんな事より早くしろと急かされている。
すぐに立ち上がり、家の外の井戸で顔を洗い、ワイシャツに着替えスラックスと靴下を履きネクタイを結ぶ。そしてジャケットを着て革靴を履き、マフラーと手袋をつけ、最後にコートを着る。
日本の時と全く同じ事をしている義男はすこし笑った。
「異世界も日本も朝は変わらないな。
それより全然汚れないな、ワイシャツの襟元なんて黄ばんでもいいくらいだぞ?
いや、綺麗な方がありがたいんだけど」
義男は相変わらず不思議現象に守られている付属品たちに感心しつつ、部屋の外から婆さんがまだかと、さらに義男を急かす。
「遅くなりました、準備オッケーです。」
「まったく何言ってんだい。
さぁ行こうか、寝坊助さん」
今日も軽い感じで愚痴られながら外へ向かい、婆さんの辛口コメントも悪くないと感じてきた義男だった。
そして婆さんの横を歩きながら、朝の疑問を口にする。
「ところでリディっていうのは誰なんですか?」
「あぁ言ってなかったね。
昨日流れの冒険者がいるって言ったよね、それがリディだよ。
腕もかなり立つ、そこいらの男じゃ敵わないよ。
死んだ旦那より強いかもしれないね。」
最後の一言を小声で喋った婆さんを見て、
昨日恰幅のよいおばさんが父親が自警団の号令をしてたと言ってた事を思い出す、多分同じ人だろう。
自警団と一緒にと言っていたが、あの飾ってあったアガールタイガーを倒すほどの人だ、弱いはずがないだろう。そう考えた義男は、
「女性ですよね?」
ただその話を聞いて、どんな人間なのか、むしろ性別が気になった。
「あぁ、女だよ
あれは大した女だよ。」
大したという部分が身体的な意味ならどうしようかと、そんなつまらない事を考えているせいで。
「そ、そうですか。」
一瞬返事に詰まるが、狩りは素人である義男は、それなら強い方がよっぽど助かると考えを切り替える。
「少し遅くなっちまったね、まだ出てないといいんだけど」
日を見る限りまだ早朝といってもおかしくない。
さっき寝坊助と呼ばれたが、日本で起きるよりも早い時間に起きたと思う義男だが、それは口に出さない。
「そうですね、まだいるといいんですが。」
「なに、もうすぐさ
この時間ならぎりぎり間に合うだろうよ。」
そして二人して少し歩みを早め、目的らしき家の前に着いた。
「ここだよ、リディいるかい?」
家から返事がして、すぐに戸が開いて中から人が出てきた。
「まるで女神じゃないか」
その女性と出会った瞬間女神が降臨したと思った、会社帰りサラリーマンの義男であった。