11話
婆さんとの会話が終わり、ご飯の準備ができたと恰幅のいいおばさんが義男達を呼びにきた。
よっこいしょと立ち上がる婆さんを待って、違う部屋へと移動した。
テーブルには恰幅のいいおばさんと同じくらいの歳の立派な体をしたおっさん、どちらも二十は超えてそうなこちらも体が立派な男と優しげな雰囲気を持つ女、そして興味津々の目で義男を見ている小さな兄弟の子ども二人が食卓を囲んでいた。
「どうも、初めまして。
今日一日お世話になります、渡会義男です。」
空いていた席に座り軽くお辞儀をして、そこにいた全員を見渡した。
「おそらく悪いやつじゃないよ、
さぁ食べてしまおう。」
婆さんの微妙なフォローと一緒に食事が始まった。
パンや何かの肉、サラダ、スープといった物がテーブルに置かれ、一斉に食べ始めた。
久々に食べる手料理を味わい、誰かがこちらに話かけるのを待っていた。
先陣を切ったのが小さな兄弟の兄の方だった。
「おいちゃん術師なの?」
おいちゃんってのはお兄ちゃんが上手く発音できなかったのか、おじちゃんなのかどっちだ?とは口にせず、
術師ってそういえばさっきも言われたな、と思い
「違うよ。そんなに術師に見えるかい?」
と否定して聞き返すと、
「にしては、変わった格好しとるな。
格好だけじゃなくて髪の色もここらでは珍しい色だな。」
と立派な体のおっさんが割り込んできた。
「一種の戦闘服ですよ、結構いい値段もしましたし」
髪の色はどうしようもないが、ここら辺では少し珍しいだけでいるにはいるのかと頭を触る。
そしてそこそこの値段を奮発して買った、日本でもこちらでも違う意味の戦闘服となったスーツを義男は自慢した。
「そんな薄そうな布切れで、大丈夫なのか?」
コートを脱いでた時に何度か躓き転んでも痛みを感じなかった。
おそらくコートとスーツ一式は同じようなチートでも授かっているのだろう、と考え
「そこそこ丈夫なんです、これ」
と返した。
それよりも目の前の何かしらの肉の次に気になる術師の事を聞きたいが、一家は全員黙って懸命に食べている。
邪魔するのも悪いと思い、義男は気になる肉に手をつけた。
噛めば肉汁がしっかり溢れ、それなりに美味い肉を食べながら、間にパンを齧り、サラダやスープも口にする。
そして静かな食事も終わりに近づいた時、婆さんが
「明日は早いんだ、食べた後はさっさと体を洗って寝るこった。」
と義男を急かす。
起きれるかな?と不安になりながらも、
「そうさせてもらいます。」
と食事を終え、恰幅のいいおばさんから桶に張ったお湯と布を渡され体を拭き、用意された服に着替えて少しだけさっぱりした気持ちで、義男は充てがわれた部屋の布団に飛び込んだ。
ようやく野宿生活が終わり、上を向くと屋根がある事に幸せを感じながら夢の中へ誘われる会社帰りサラリーマンの義男であった。