10話
ハーブティーを半分飲みきったところで、婆さんがまた口を開いた。
「ところで、あんた金がないって言ってたね?」
「そうなんです。あと雨風もしのげる所もないんです。あっそれと今日の夜のご飯もないんです。」
「なんだい、あんた欲張りだね。」
とりあえず欲しいもの全てを口に出した義男の対し、婆さんが笑って真っ当な事を言ってのけた。
はは、とつられて軽く笑う義男に向かって、
「まぁ無いもんはしょうがないねぇ。
で、あんた何ができるんだい?畑は耕せるか?」
「えーと、サラリーマンならできます。やってました。」
なんだ、こいつは?という目で見られたので、
「畑は耕した事はないですが、やれと言われれば頑張ります」
と、すぐ切り返した。
「ふん、役に立たないね。」
婆さんは鼻で笑い、すみませんと心の中で謝り笑顔で誤魔化した。
すぐに婆さんが何かに気がついたのか、
「ん?アガール山脈には獣が沢山いたろ?
それ、どうしたんだい?」
沢山がどれくらいかは分からない義男だが、
「どうしたと言われても、中には倒せたのもいれば逃げられたのもいましたよ。」
「ほぉ、何を倒したんだい?」
「そこに飾ってある虎みたいな獣は倒しました。」
家の目立つ所に飾ってあった剥製の虎を倒した事を素直に言った。
「なんだって?」
出会って初めて腰を浮かした婆さんが食い入るように見つめてきた。
驚き度合いが大きい、やっぱり言わない方が良かったのか?と思う義男だが言ってしまったものは取り下げれない。
「いやーあれは怖かったです。」
軽く流したその一言でさらに変な空気を作ってしまった。
「ほー、アガールタイガーを一人で倒すとは大したもんだね。あんたは狩りでもしないさいな。
金なんてすぐにでも稼げるようになるさ。」
再び腰を下ろした婆さんの答えで義男の方向性が決まった。
義男はどれくらい稼げるんだろ?またあれと戦うのかと考え、少し憂鬱な気分になった。
「狩りをするなら、ちょっと前から住み着いてる流れの冒険者が村にいるよ。明日紹介してやろう。」
もう狩りに出ることから逃れられないと悟り、
「助かります。」
と簡単に返事をした。
「もう今日は遅い、ここへ泊まんな。飯も食べさせてやろう。」
気づかぬうちに部屋には灯りがともり、外は暗闇となっていた。
思ってもみなかった向こうからの最高の提案に、
「それも助かります。」
と同じような返事をし、すでに冷えた残りのハーブティーを全て飲んだ。
やはりハーブティーは口に合わないと思う会社帰りサラリーマンの義男であった。