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第六話 冒険者たち

矢三郎が昼寝をする中、謎の集団がログインします。

“ 俺の名はアゼルハート。ピチピチの十代の人間で、今は鉄板階級(アイアンプレート)の冒険者だ!この間 ベルベル村近郊で暴れていたウルソスという名のゴブリンに率いられたゴブリンの群れを討伐し、銅板階級(コッパープレート)冒険者から青銅板階級(ブロンズプレート)をすっ飛ばして鉄板階級(アイアンプレート)に昇格したんだぜ!?


 ゴブリンは繁殖力が強く、村人に大きな危険を持たらす悪知恵の働く下級冒険者の手には負えない危険な相手だが、鉄板階級以上の冒険者にとっては皮もはらわたも労力に対して(ろく)に売れない旨みのないめんどくさい獲物だ。


 ウルソスの群れを討伐して鉄板階級(アイアンプレート)に昇進した俺としては、ゴブリン退治は歴代の冒険者たちが誰も見つけてなかった金脈を見つけた気分ってわけだな。


 そこに気づいた俺様はパーティのメンバーと南の森で増え始めたゴブリンの群れを討伐に来たってわけ。”



「…アゼルさん、さっきから一人でなにをぶつぶつ言ってるんですか?」


「げ、聞かれてたのかよ…」


「そりゃ馬の上でぺちゃくちゃ言ってりゃ聞こえますよ。」


「こいつはペル。エルフで女魔術師、うちのギルドのメンb」


「だから何言ってるんですか!?」


 意味不明な言動にペルが声を荒らげる。


「気持ちわりい」


 双刀使いのムキムキ野郎、ホルトーが言う。



 アゼルハートは青紫と黄色の混じりあった半透明の石質の球体を懐から取り出し、エルフのペルに見せた。



「 こないだ買った記録石に声を吹き込んでたんだ。やがて世界中に轟くであろうアゼルハート様の若き日の記録をな!」


「若さというのは恐ろしいな」


「気持ち悪い」


「恥を知れ」


 老若男女のパーティメンバーが次々に言い放つ。


「お前ら銅板階級(ブロンズプレート)の癖に生意気だぞ!」


 雑談をしながら「赤角」ギルドの冒険者たちはゴブリンのウルソス討伐で得た賞金で仕入れた馬を操り、森へと分け入っていく。



 そして、彼らの目にあるモノが留まった




「げ…なんだこれ…」


「…く、首のない人間の死体が六つ、これは、ゴブリン…か?皮を剥がされてるみたいだ…」


 追跡者でハンターの仕事も兼任するアバがなんとか平静を保ちながら報告した。荒々しい気質の入江の民が住む北方出身のこの子供にとっても、この光景は耐えられないほどおぞましいものだった。



 誰かが思わず呟いた。



「…薄気味悪い」



 ーーー彼らの中の誰も気づいてはいなかったが、背後の木立に彼らの頭数を数え、風体を見定める青い鎧を纏った者がいた。



「…ふむ、地の振動と音で複数の馬がこちらに向かっておると判断したが大当たりだったか。」


 1日の3分の2を狩猟、鍛錬、人殺しに費やす鎌倉武士は、そのいずれにおいてもほとんどの時を馬と共に過ごす。


 戦場で、日常で、生活音と同レベルまで聞き慣れた馬の蹄の音を得体の知れない「変なところ」で聞き取った彼は即座に眠りから醒めた。


 ーーーそして今は六人の赤ら顔の鬼を射殺した薮に身を伏せ、新たな来訪者を観察している。



(…真に妙な風体の連中じゃ。先程の六人と言い、何故 ジャラジャラ言う妙な布を着ておるのだ。鉄の板を身体につけておるのも理解し難い。鎧のつもりか?)



 矢三郎にとってここまで面積の広い鎖かたびらとプレートアーマーは初めて見る奇妙なものであった。盗賊や下級冒険者風情が着用するような粗悪な素材でできた鎧では張力60kgの矢三郎の矢は到底防ぐことはできず、同時代の、いや、時を下ってもモンゴルにもヨーロッパ全体にもいなかった有効射程が長い長弓を得物とする重装弓騎兵(じゅうそうゆみきへい)と言う変態的な兵種が闊歩し、その変態的に強力な弓を防ぐために研究され、実用化された大鎧という完成された鎧を身に纏い、それを纏った敵と戦ってきた矢三郎としては彼の矢がサクサク刺さる「鬼」が身に纏っているものが鎧だとは、到底思いつかなかった。


 さらに疑問は湧いてくる。彼らが乗っている馬は矢三郎が知るものと姿形・性質が大きく異なっていたのだ。



 まず、矢三郎の知る馬に比べて異様に体格が大きく、足が細く、長い。そして何より数分観察しただけでもわかるほど、主に対して従順過ぎるのである。矢三郎の知る馬なら死体の前で数分も話し込んでいたら暴れ出すはずだ。


 鎌倉武士の常識からしては、異常な馬である。


 ーーーーーー


 鎌倉武士にとっての良馬の条件とは、まず頑丈であること。装備を纏えば重量が100キロ近くになる武士を乗せる馬は頑丈でなければ務まらない。故にすぐに折れてしまう細い長足の馬よりもずんぐりがっちりとした短足の馬の方が良いとされていた。無論、威圧感を与えるため 体は大きいほうがいい。



 そして、気性が荒く下手な乗り手を振り落とすぐらいが戦場で活躍する名馬である。乗り手が荒馬に振り落とされてどこか打って死のうが、それは下手な乗り手が悪いのだ。


 その全てに当てはまらない馬が眼前にいる。



(…鬼の馬は奇妙じゃのう、()()()も妙な形をしておるし。


 …少し乗ってみたい。とりあえず上に乗ってる連中を殺して奪うか。馬が駄馬であれば殺して喰うとしよう。)


 矢三郎は死体に集中している頭目らしき若い男の鬼に音もなく矢を放った。



今回の後書きは鎌倉武士や日本在来馬についての解説が入るので少し長くなります。次回予告はその下です



矢三郎が本編で馬の姿の差に戸惑っていましたが、蒙古馬にルーツを持ち、弥生時代末期に日本に流入、日向・南九州から北上し、日本に定着した日本在来馬と 中世ヨーロッパ風世界で一般的なアラブ馬とその子孫の品種は風体が全く異なります。



日本在来馬


挿絵(By みてみん)



アラブ馬


挿絵(By みてみん)


どうです?全然違うでしょう?



もっと分かりやすいイラストでは、



挿絵(By みてみん)


こういう感じです。矢三郎のような棟梁クラスが乗る馬は体高140cmほどあったようですが、矢三郎が馬の外見の差に驚いた所以が分かって頂けたでしょうか。





ーーーー


さて、我らが主人公矢三郎経久は不意打ちで敵を射殺すること本編開始から合計2回 犠牲者は7人(?)


えげつない不意打ちからの皆殺しは安全で一番楽ですが、運命は矢三郎に面倒な状況をプレゼントするようです。


次話ではとうとう別の殺害方法を殺ります!

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