第四十三話 強弓と北人の激情
偶然にも某暗殺者系ゲーム最新作が本作の北人のモデルと時代も被っててビックリしました。
〜前回までのあらすじ〜
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ーーー 勝つのは武士か、北人か?
鎌倉武士 VS ヴァイキング、on グルーテ河戦、開始!
北人の首領 バグセック 対 鎌倉武士 白石矢三郎経久
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ヤルフート騎士家老臣、ナゼール・デュゲは戦慄した。
(何だあの弓は!?)
青い鎧の蛮族が突如茂みを突き破って現れるや否や、謎の言語で怒鳴り散らして身の丈よりも遥かに長い弓から矢を放った。
ピョウ、と風を切った矢は七間(12m)ほど先の緑の帆の舟に立っていた巨躯の北人の頭蓋を兜ごと軽々と射抜いたのだ。
…骨が叩き割れる音と共に眼窩から目玉が飛び出し、頭蓋の反対側から大きな鑿のような鏃が飛び出した。鮮血が宙高く噴き上がるのが、はっきりと見えた。
「何だアレは…!」
その弓はあまりに大きく、強く、正確に過ぎた。
この世界のこの地域、デュゲの知る戦場での弓といえば雑兵が使うもの、つまり士分ではない『軟弱者の』武器であり、また『短弓』であった。
しかし異物である彼にとっては違う。
弓といえば武士も従者も皆が使うもの、そして『弓馬の道』を誇りとする士分を象徴する武器であり、『長弓』であった。
同じ弓であっても進化の形が全く異なるそれは、騎士やその家臣であるデュゲにとっては異形であり異常だ。
その違いに驚愕するデュゲを目撃者にその蛮族は矢を箙から引き抜き、日ノ本言葉で吼える。
「残る船頭は…あやつとあやつと、あやつかぁあッ」
異形の弦音が三度響いた。しかし一矢のみは頭蓋を砕かなかった。
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(…何たる弓勢)
北人の首領 バグセックはこの距離から革を張った板製の円盾を容易く貫き、逸らした首を掠めたその矢の破壊力に瞠目した。
西方人と違って北人は戦士階層も弓を使うが、流石にこれは規格外である。
…しかし、バグセックにとっては射抜かれた盾などどうでも良かった。
長男の“巨人”オーラヴ、次男の“革首”トーリル、三男の“髭なしの”アスムンド…
彼の息子全員が急所を射抜かれ事切れていた。
バグセックの視界が怒りにぐにゃりと歪む。
北人は『蛮族』という理由から殺しと略奪だけを好み、情などかけらも無く身内でも銀の一欠けを巡って平気で殺しそうだなどというイメージを持たれがちな人々だが、彼らは情が深い。
肉親が遠征先で死んだ時には多くの者は可能なら死体を腐敗も気にせず船に積んで連れ帰り、家族が殺されれば怒り狂い必ず復讐を遂げる。
ーーー そしてバグセックはこの数瞬に全ての息子を失ったのだ。
『ウオオオオオオオオウッ!!!!!』
バグセックは口から泡を噴き、吼え狂って愛用の戦斧を己が戦船の帆柱に叩きつけた。バキバキと音を立て斃れた太い帆柱が甲板、そして水面に衝突する。
己が愛船を完全に破壊する行為は、この北人の戦士が死地を定めたということだ。
『お…おい バグセック!テメーどういう』
彼の乱行に従弟のウォラフが腰の剣に手を掛け怒鳴った。その刹那、頭蓋に従兄の戦斧が叩き込まれた。
『…息子たちの敵を討つ 船を寄せろ』
首領の物を言わせぬ迫力に、部下たちは櫂を漕ぐ。
帆の折れた北人の船は素早く波を切り、憤怒に駆られた一人の男を素早く岸へと運ぶ。
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「ほう、この矢三郎の一矢を防いだか…
鉞使いの大男なる武者、首取りて戦神に奉らん!」
そう白い歯を剥いて笑った鎌倉武士は魔狼から降り、追いついてきた郎党に弓を持たせると腰に佩いた太刀を引き抜く。
それと同時に龍頭船の船底が川底に当たり、斧を握った大柄な北人が河の中に飛び降りて水飛沫を上げて大股に歩き、上陸する。
「グオオオオオオオオ!!!!!」
目を血走らせ、口から泡を噴いたバグセックは戦斧を振りかざして突進した。その怒りと悲しみの入り交じった声は空気をビリビリと震わせる。
矢三郎の間合いに入る直前に突如彼の目には冷静さが戻った。何かを感じ取ったバグセックは足を止め、構えを取る。
『…バグセック・バルドルソン!!!』
「隼人種久が一子 白石矢三郎経久ァ!!!」
武士と北人、種族は違えど間違いなく歴戦の戦士である二人は名乗りを上げ、互いを知った。
そして太刀と斧が衝突する。
次回、鎌倉武士とヴァイキングの一騎討ちです