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鎌倉武士は異世界へ 〜武士道とは鬼畜道と見つけたり〜  作者: くらんくしゃふと
第4章 異世界鎌倉武士団 VS 異世界騎士団 〜矢三郎大暴れ〜
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第三十三話 礼土悪衆合戦 その一

やってまいりました、鎌倉武士は異世界へ 第4章 異世界鎌倉武士団 VS 異世界騎士団 〜矢三郎大暴れ〜 であります


何故か剣と魔法の異世界に転移したごくごく普通の鎌倉武士 矢三郎! 転移後かなりあっさり異世界に適応し、

僅か一ヶ月で異世界にはなかったその野蛮さと比類無き武勇によって、 凶暴で危険な転移者→凶暴で危険な冒険者→異世界初の武士団の棟梁 …と順調に成り上がった!

その後の一ヶ月も、村の農民たちを武者狩り大好きなジャパニーズ農民風に仕立てたり、みんなで仲良くゴブリン・オーク狩りや盗賊団団滅を楽しんだり、能力値が極振りな嫁さん三人を娶ったり、忍者の素質がある山岳民族を味方に引き入れたり、国盗りの野望を抱いたり、とても充実した感じに過ごしていたのだが、

矢三郎の邸が門前を下馬せず通過しようとしたお隣の領主、レドアクス騎士家当主弟、アルム・レドアクスを鎌倉武士が斬殺したことにより、異世界鎌倉武士団とレドアクス騎士家は一触即発の状況と相成った。


つまり、矢三郎の異世界ライフはより充実したものとなろうとしていたのである!


異世界で武士団vs騎士団の合戦が始まる!


第三十四話、礼土悪衆合戦 御開帳!



 


 …矢三郎、武士の本懐とは何じゃ、戦の要石とは何じゃ


 それ即ち弓勢競うて良き敵斃すことに非ず、また猛々しく戦いて後の世に武名を遺すことにも非ず!


 勝つ事也!!!!!


 矢三郎、武士とは勝つことじゃ!


  武士は勝たねば何一つ残らぬ 甲の一つも残らぬ!


   …ぐっふっふ、そうじゃ 分かったか 我が孫よ!


 所領、御家、武名…全て無くなるのだ それだけは、白石武者として断じて成らぬ!!!!!


 鬼にも負けぬ、畜生にも負けぬ、

  何があろうと、何をしようと、全てに勝ち続けうる者こそが真の武士也ッ!


 心得よ矢三郎ッ!



 ーーーーー


 鎌倉武士の異世界転移から二ヶ月と少し

 異世界西方辺境 ヤーク地方の何処か



「…んむ」



 ふと瞼を開けると眼前に広がるは飛び散った血の如くに星粒が撒き散らされた黒き大空であった。


  我らの空とは違う、違う空…


 異世界の空に瞬く見知らぬ星々に鎌倉武士らしからぬ望郷の念を抱いた矢三郎であったが武骨な本人にはその感情が分からず、 鼻ッ柱がツンとする理由も分からぬままその感覚にむかっ腹を立てて上体を起こした。


 煙たい夜風に吹かれ乱髪がデコや首筋にばさばさとし、その感覚がより一層に鎌倉武士を不愉快にし、とうとう矢三郎は人を斬りたい気持ちと相成った。


 足元や頭の側に無造作に転がった男ども、

 ゴオゴオ鼾をかく村人衆の男ども …こやつら斬り捨ててやろうか…


 と、鎌倉武士 矢三郎は寝ている間も握り締めていた太刀を鞘から抜き放ちかけたが、親父殿が気分で郎党の阿多三郎太郎や鬼菱犬丸など数名を酒の席で斬り殺して大変なことになった事を思い出し、止めた。


 この事、夢にじじ様が出てこなければ忘れていたじゃろう


 …そうじゃ

 夢にじじ様が出てきたのだ! あれは佐脇を族滅した大昔に交わした問答也!


 …真、これはじじ様や家祖日向様からの、或いは氏神水龍様からの()()()やも知れぬ


 戦には、必ず勝たねばならぬ そして武士とは勝つこと…まさしくその通り 流石はじじ様ぞ


 夢の祖父の言葉に祖父への敬意と何かの意思のようなものを感じた矢三郎は珍しく祈った。


 …武門の守り神 八幡さま、 白石の氏神 水龍さま、家祖日向様、じじ様、親父殿、この矢三郎、此度の合戦必ずや勝ち申す! 合戦場と定めた原も手の者に探らせ、柄にもなく策まで立て申した この鬼世での白石家の初合戦、とくとご覧あれ!


「…む!?」


 そこで矢三郎による神々と祖先への日本人的な欲張りセットで不格好な祈りは終わった。


 先程までそこに無かった気配を感じたのだ。


 その息遣いやこちらを見る視線に気づかなかった己と見張りの不覚に大いに腹を立て、それを理不尽に相手への敵意へと変換した夜闇の鎌倉武士は両眼くわっと見開いた。

 刹那に怒声と共に立ち上がるや否や太刀の鞘を投げ捨て、地面に転がった冒険者衆や村人衆の頭や腹を無造作に蹴飛ばしながら駆け出した。


「死ねぇええぇい!!!!! ぬぁにやつかァ!!!!! 」


 誰何の前に殺意が来る矛盾した言動の鎌倉武士は本能のまま 疾走の勢いをそのまま叩きつけるが如くに打ち倒された小屋近くの気配を斬り付けた。


「うわあっ」


「ひいっ」


 間抜けな声に反し鋭いその太刀筋を服の袖一枚切り裂かせて躱した相手の正体を鎌倉武士 in 異世界な矢三郎経久は数瞬の内に悟り、

 構えは解かないものの、殺しかけて服をダメにした相手に気さくに話しかけた。


「フン、白石家伝の太刀を躱すその動き、平地の者の足に非ず、放った志能備(しのび)じゃな?」


「へ、へい」


 返事をした怯えた顔の山の民二人の伸ばし放題の髭面にふと、先程夢枕に見た祖父に似たものを感じた矢三郎から少しだけ怒りが薄れる。


()らは頭に言われて矢三郎殿の使いに出された狩人衆の者であり申すっ」


 その言葉によって八つ当たりで殺すよりも生かす方に価値があると完全に理解した矢三郎は構えを解き、穏やかに問うた。


礼土悪衆(れどあくす)の騎士めらに陣触れの気配、有りや無しや」

(しかし追記しておくと この「穏やかに」と言うのはあくまで鎌倉武士比であり、異世界の住民である狩人衆にとっては鎌倉武士矢三郎は未だ恐ろしい様子のままである)


「レドアクスが殿さァの領下 七つン村に従士身分出兵の気配アリ、二つの村は従士出さずに防衛の様子アリ…に有申す」


「ふむ、それらの村、()()()()()()()()()この村と同じような守りとすらば

 堀無く、逆茂木無く、柵ある程度」


 矢三郎は散々に打ち倒されあちこちからボヤが出ている小屋の群れや死体の投げ込まれた井戸を見やり、考えを纏めつつ、独り言を呟くが如くに狩人たちに考えを述べる。


「兵は頭目の鎧った騎乗の武者に三、四人の従士(徒歩)が付く程度にて騎馬武者はほとんど居らず、徒歩の兵は弓や刀バラバラに持った十人程度…多めに見積って二十の雑兵…


 …貴様らはどう思うたか?」


「偵察に回った村々全てそのようなものかと」


 毛皮で身をくるむように覆った茶色い髭面の男は自信なさげに、しかし素早く答える。狩人の習性だ。


 無礼とも思える率直すぎる物言いだが、ルーツの一つに山岳地の辺境民を持つ白石の人間たる矢三郎は半ば本能的に狩人的な性質を持ち、この物言いには大いに好意的である。矢三郎はさっぱりしたこの返答を好いた。


「ぬはは、重畳! 然らば攻めに攻めようぞ この時期 兵どもが糧は掠奪にて賄えるわ!奪い・奪い・奪うぞ!

 ぐわはは 所領押領じゃー!荘園押領じゃー!気分上がるのう!」


 この世界にとって異物でしかない男、鎌倉武士 白石矢三郎経久は来るべき所領押領と掠奪に期待をふくらませ、宵闇に無邪気に呵々大笑した。




 ーーーーーー この時代 西方ド田舎のヤーク地方は魔法とかは一般人に全然関わりの無い、如何にも中世な土地柄である。


 各村の農民は異民族同化の過程からの慣習で武装を禁じられており、

 大抵は非常時に兵を出すことを条件に領主である騎士家から権力を与えられた僅か十数名〜二十名弱の従士の一族が武力を傘に着て村々に根を張っている。


 ヤーク地方では大体の合戦は騎士が従士たちを率いた部隊が時刻・場所を示し合わせて行う会戦形式であり、各村は兵は出すが、他領との境でもないなら悪党めいた辺境の鎌倉武士の奇襲攻撃には全くもって対応していない。


 それ故仕方ないのだが、そんな紙装甲の所に大鎧を纏った凶暴な鎌倉武士率いる略奪と殺しにワクワクした戦意MAXで兵力三桁規模の異世界鎌倉武士団が襲来してくれば、村はギャグキャラクターとして登場するチョロイン並の容易さで落とされてしまう。


 しかしそのチョロさは防衛リソースが割かれている他領との境界線を超えて無防備な領内深部に侵入できた場合の話であり、田舎騎士と言えども武者であるレドアクス一族は異世界鎌倉武士団と事を構えてより自領内の、大規模な進軍が可能な平地にくまなく監視の網を張っていた。


 …だが矢三郎もそれは分かっており、対策を立てていた。

 彼ら(レドアクス)にとって非常に運の悪いことに、異世界鎌倉武士団には味方としてヤーク地方の山岳・森林地帯に凄まじく精通した山岳民である異世界鎌倉武士団 狩人衆がついていたのである。


 彼らの助力により、矢三郎とその愉快な仲間たちは平地を進むことなく今や狩人衆たちのみぞ知る山岳地や森林地帯の中に埋もれた古代大帝国時代に大規模行軍に使われた旧街道の残骸や山の民伝来の道などを飛び飛びに伝ってレドアクス領に侵入達成、

 戦争が能う大規模な進軍でありながらもレドアクス騎士家に気取られることなく、この村を破壊し尽くしたのであった。


「ぬはははは!!!!! 押領は久しぶりぞ! 礼土悪衆の土地も田も全て奪うてくれる!!!

 楽しみじゃあ!楽しみじゃあ!」


 がらりと音を立てて焼け崩れた小屋を背に、その胸の内の野望と同じ赤色に身体を染めた夜闇の鎌倉武士は、異世界で吼えた。




予想を裏切った行軍ルートでレドアクス領に侵入、村を落とした異世界鎌倉武士団、次は如何なる手を打つのか、騎士たちはどう鎌倉武士団に立ち向かうのでしょうか?


挿絵(By みてみん)


雑ですがマップ 本来はもう少し大きいのですが容量の関係で小さくなりました


おまけ


挿絵(By みてみん)


夢に登場した矢三郎のじいちゃんのイメージです

凄まじく剛毛で且つ矢三郎より鎌倉武士度が高く、凄まじい女癖の悪さのみが反面教師ですが、それ以外の部分は矢三郎が真にリスペクトしている人物ですね




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