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鎌倉武士は異世界へ 〜武士道とは鬼畜道と見つけたり〜  作者: くらんくしゃふと
第4章 異世界鎌倉武士団 VS 異世界騎士団 〜矢三郎大暴れ〜
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第三十二話 武士VS騎士 女傑と蛮人

お久しぶりです 中々投稿出来ませんでした


今回から新章となります!

いざ、三十三話 御開帳!

 

 アルム・レドアクスは古の時代、

  “西方異民族征討総督”なる立派な役職と共にこの化外の西方に土着し この土地の名を姓に取った大帝国軍人の子孫 ヤーク街守家と封建的主従関係にある領主家の男で、また騎士である。


  アルムは現街守家当主の弟が治める所領の中心地 シェルバ村を通過しようとしていた。


 件の人物とその一族の素行には街守の権力ですら揉み消せない程問題が多く 半ば縁切り勘当のような形でこのシェルバ一帯の領主に任ぜられたのだが当の本人たちは、

「ここでは当主の目は及ばぬ、重税を課し私腹を肥やしたところでバレはせぬ、村娘を犯したところで誰も手向かい能わぬ」


 …とばかりに好き勝手していた。


 アルムとて特権階級領主家の騎士、税を割増して私腹を肥すことや見初めた娘を手篭めにするぐらいは嗜む。 しかし、彼らの横暴は傍から見てあまりに度が過ぎており、アルムは彼らに悪感情を抱いていた。


 …しかし彼はその悪名高き街守弟一族とその兵が突然現れた『もののふ』と彼が創り出した『武士団』に族滅され所領を乗っ取られているなどとは露ほども思わなかった


 気づくきっかけはいくらでもあったというのに。


 近くの畑で農作業に勤しむ農夫たち、

 …遥かなる父祖の代に『大帝国』に征服されて牙を抜かれ、現在はアルムたち領主や騎士に武装を禁じられて剣に触れたことも無いはずの農夫たちの少なからぬ者の顔や腕に刀傷があること、

 農夫たちの中に明らかに野良仕事慣れしておらず畑を耕す動きがぎこちない、時折武人癖の抜けぬ動きを見せる古傷のある男たち…まるで街で見かける冒険者のような者が混ざっていること…

 それら小さくない違和感に気づいていれば、アルムの命は長らえたかもしれない。


 だが、アルムは武人でありながら今この地を治め、この地の戦と武の在り方を大きく変えた男の影響を感じ取ること、そして感じ取って対策を立てることが出来なかった。


 …しかし そのアルムと従者であっても何かしらの変化があったと気づかざるを得ないものがこの村にはある。


 首だ。生首だ。生首の鈴束がそこら中に吊り下がっている。死体に慣れぬ者にとっては耐え難い腐臭も漂う。


「…ま、まったく、信じられませぬなアルム様 ゴブリンの首にオークの首…ヒッ、人間の首まで!」


 顔を顰めたアルムの思考をその従者が代弁する。この老従者はよく言えば口下手なところのあるアルムの代弁者であり、悪く言えばお喋りのゴマすり野郎である。


「…品のないことだ フン、どうせあの街守様の愚弟が気に食わぬ者を手下に殺させて晒し者にでもしているのであろう」

 言葉少なく状況を推察したアルムだが、頭の中では長い思考を巡らせている。それを口にしないのは “余計なことを口に出すとロクな事がない” を座右の銘とする故だ。


 …よくもまあ 組合(ギルド)に証拠として持ち帰らなければ報酬を得られない討伐対象の死体をあの重武装のゴロツキたる冒険者どもが、たかがゴブリンの耳一枚二枚の取り分差で殺し合いを演じる()()冒険者どもが譲ったものだ、…そもそも何故領民と魔族の首を纏めて吊るしているのか?


 取り留めもなく思考を進めるうち、ふとそんな疑問が浮かんだが、関わりたくない、と思考停止したアルムは馬に乗ったまま生首が並べられた領主の門前を横切った。


「「「下馬せなんだぞ〜!!!!!!」」」


 突然門の内側から湧き上がったダミ声の合唱に馬は嘶き従者は驚きアルムは腰の剣に手をかけた。


 瞬く間に門の内側直ぐに待機していたのだろう、大鎌を振りかざしズタズタに穴の空いた鎖帷子を纏った農夫や、薪割り斧を上段に構え、凹んだ半円兜を麻紐で頭に縛り付けた農夫、

 …あと何故か素っ裸でバスタードソードを振り回して突撃してくる農夫などの村人衆五、六人と、村人たちに比べて武装と動きが洗練された冒険者衆三、四人が鬨の声を上げて踊り掛かった


 ーーー 否、それだけではない


「何ィ!」


「何ッ!下馬せなんだと!?」


「何だっち!?」


「こんクソたれ共 矢三郎様の館の前を馬乗って通ろうとしたべッ!」


「舐めとッがッ!」


 門の中からの襲撃者に加えて農作業に精を出していた農夫たち、そしてそこに混ざっていた冒険者たちが鬼の形相で農具や傍に隠し置いていた武器を構えて突っ込んできたのだ。


 しかしアルムは理解不能な状況にあれど騎士である。


 素早く腰から抜き放った剣で門の中から飛び出してきた全裸バスタードソードの農夫と畑から突っ込んできた農夫の二人を斬り倒したが多勢に無勢、武運拙く馬から引き摺り降ろされ、仲間を傷つけられたことで興奮した農夫たちに強かに殴りつけられ 足蹴にされる。また彼の従者も同様の目に遭った。


 何故、我ら支配者に成されるがままのはずの農夫風情が、領主家の男たる俺に、()()()歯向かえるのか? …何故 門の前を馬に乗って通っただけでこのような目に遭わねばならぬのか!


 そう心の中で叫びながらアルムと言う騎士は農夫たちに散々に打ち据えられ、囚われた。



 …さて、読者の皆様も門前を下馬せず通過しようとしたアルムへの仕打ち、理不尽と思われただろうか?


 だが、この館の主にとってはこの行い、何ら理不尽な所は無いのだ。



 “ 此の門外通らん乞食・修行者めらは、益ある者ぞ、蟇目鏑にて、駆り立て追物射とせよ ”


(門前を横切ろうとする乞食・坊主の類はとても有益なものだ。逃げ足が早いから弓の的として活用すべし)


 …この武を尊ぶ鎌倉武士的家訓は有名なものだが、門前を下馬せず通ろうとした者を襲撃した例は他にも多々あるのである。


 しかし、それは田舎の下級武士によるものではない。否、 ()()()()()()()のだ。


 その多々ある例の説明例としてふさわしい人物がいる。

  彼の御仁とは『小右記』の記すところによると即位式の最中、繰り返すが()()()()()女官と玉座の上で性行為に及んだ、…ある意味での豪傑にして、即位から僅か二年後に出家して法王と成られ、『花山法王』と号されたお方である。


 彼は自分の邸の門前を牛車で通った者に制裁を加えていた。


 記録によると平安貴族 藤原斉信・藤原公任が藤原道長の元を訪れた帰途 花山法王邸北門前を「牛車から降りずに」通過しようとしたところ、 門から武装した花山法王の数十人の従者たちがワラワラと現れ、彼らが乗った牛車を包囲・激しい投石を見舞ったという (しかし 数十人の門番とは流石である 主人や郎党が直々に殺しにくる武士とは経済規模が違う)


 タダの投石と侮るなかれ。投石とはシャレにならん代物である。西洋では物語が成立した当時、武勇に優れた大巨人ゴリアテが非力な羊飼いのダビデ少年に殺害されるに足るものだと認知されていたのだし、日本に於いては実際の事例として名高き剣豪 宮本武蔵は島原の乱に従軍した際 スネに投石を受け、戦闘不能になっている。

 我らが主人公矢三郎の出身時代である鎌倉時代に於いては祭りの余興で行われた「向かい飛礫」では毎回当然のように死者が出た。(手ぬぐいをスリングとして利用したりもするのだから目も当てられない惨状となったであろう)

 …そして大体いつも大規模な乱闘に発展するのでとうとう三代執権北条泰時が禁止条例を発布した。それほどのレベルの危険な攻撃手段が投石なのである。(そしてそれを自分の門番に藤原貴族の牛車目掛けてやらせる花山法王を筆者は色々凄い方だと思う)


 …さて、事件に戻ると死者が出るほどに危険な投石の雨あられに晒された平安貴族たちであったが更に気の毒なのは牛車の外にいた従者たちで、彼らはそのまま門の中に拉致され、監禁されてしまったという。

 この後 従者たちが無傷ですんだとは思えない。


  他にも、天下の「さがな者(荒くれ者)」と称され、後に大宰府に左遷させられ1019年の刀伊の入寇で総指揮官として大活躍した勇武の人物 藤原降家は


「いくら強いことで有名なお前でも私の門の前は通れんだろう?」


 と花山法王に煽られたことに怒り、門の前を敢えて武装した従者を伴い牛車で通過しようとし、花山法王の従者とガチバトルを繰り広げた。


 またこの門前通通への投石や従者の拉致による報復は具体的例として出した花山法王一人が行っていたものではなく、右大臣藤原顕光、中納言源師房によるもの等々、記録に残っているものは非常に多い。


 詰まるところ都の「やんごとなき方々」にとっては門前の通過を許さぬことが常識だったのだ。


 また、牛車での通過のみならず、花山法王邸を門前を騎乗にて通過しようとした東国出身と記録される者を矢張り門内から現れた従者たちが取り囲み馬から引き摺り下ろして持っていた弓を奪い取って武装解除させ 門の中に拉致したという逸話も伝わっている。(但しこの東国の男も殺したとは記録されておらず、色々とアレな記録が公式文書に残る鎌倉武士ほど暴力的ではない)


 ーーー 兎角、筆者が史料から例を出してまで伝えたかったのは我らが主人公白石矢三郎経久が何故異世界騎士による門前の通過を許さなかったか、 である。


 これは鎌倉武士の行動原理を考えればわかることであるが、無論 『舐められている』 と考えたからだ。 しかし、何故無教養な鎌倉武士が何故直接見た事も仕えたことも無い、そもそも生きた時代も違う都のやんごとなき方々と同じ『門前の通過』という行為に怒ったのか?


 …実はこれら平安時代の記録において、やんごとなき方々の命で門を警固し、門前通過に投石や拉致を持って答えていた従者、

 …或いはやんごとなき方々から荒っぽい仕事を請け負う代わりに罪を帳消しにされた放免と呼ばれる者たちこそが武を持ってやんごとなき方々を護る士、『武士』の原型なのである。


 …もしかするとこの門前の通過を許さない『舐められることを許さない』主たちの精神とその行為を主のたる行いとして学び、武士たちのバイオレンスな感性がポポポポーンした結果、平安貴族的な


 “牛車や馬に乗ったままの通過は無礼なのでアウト”


  から、鎌倉武士的な、


 “門の前通ったやつは殺せ 弓矢の的にしろ”



 …になってしまったのかもしれない。



 閑話休題。話を異世界に出現した騎乗での門前通過を決して許さぬ我らが鎌倉武士に戻そう。


 ーーーーー


 鎌倉武士の異世界転移から一ヶ月二十数日後


 異世界西方辺境 ヤーク領 シェルバ村 武士団棟梁の館 武士団棟梁の門の前を馬に乗ったまま通ろうとしてボコされて連行された騎士と従者のいる中庭


 館の門前で興奮した農夫たちに散々に殴られ足蹴にされた騎士アルムと従者は訓練場も兼ねた館の中庭に連行され、跪かされ罵声を浴びていた。(一方の馬は一切傷つけられず略奪された 馬は農村では貴重である)


 館の中で妻と親睦を深めていたところでの庭の喧騒に大いにイラつかされた館の主、黒目黒髪の中背、まるでドワーフのようにガッチリした体格の上に乱れた東方風の服を纏った男が目を血走らせ、反りの付けられたクレイモアを剥き身で引っつかみ飛び出してきた。


「何事かァ!」


「は、はっ!この騎士野郎が屋敷の前を下馬せずに通過しようとしやがったとこを村人衆が見咎めて引っ捕らえやした!」


 冒険者衆の頭目で矢三郎から『禿頭』の名字を授かったウォルトフが主人に説明する。二人斬られたことを黙っているのは気が立っている様子の主に八つ当たりされそうで怖いからである。

 しかし矢三郎は目敏いのですぐ自分で死傷者が出たことに気づき、何故それを言わなかったとウォルトフをシバく 鎌倉武士は部下の負傷には敏感である 恩賞の有無や程度にも関わるのだから当然だ。ウォルトフは教訓を得た。


 …そしてその後 鎌倉武士はギロリと騎士と従者に向き直る。常時ダダ漏れの武士的殺気は二人を怯ませる。


「この白石矢三郎経久が館前を、下馬せず通ったと…?」


「それがなんだと言うのだ!」


 村人や冒険者と比べれば格段に良いものの、主と比べると地味な身なりの男が吠える。狂乱しているのだろうか。


「あ”あ!?()()()じゃと!従者風情が舐めた物言い!斬り捨ててくれる!」


 ブチ切れた。

  吠えられた黒髪の男がブチ切れたと思った刹那、己が顔に飛び散った生暖かい液体と肉を切り裂く音に隣で膝を付いていた男の死を悟ったアルムは一瞬目を剥いて驚き、そして吼える。


  アルムとて騎士、自分がこのような憂き目に遭い、従者を殺されて黙っているようでは一族全体の名誉を損なう。


「貴様ァ!この俺を『赤髭』ゲオルグが血脈に連なるレドアクス家当主次弟アルムと知っての狼藉かあッ!」


「…ほう、そなた武士か?」

「俺は騎士だ!」


 間髪入れず訂正した騎士に武士はニヤリと笑って言う。先程のブチ切れ振りがウソのようだ。


「名乗りを聞かば 俺も名乗らねばなるまい


 …我こそは治承・寿永の乱に武名を馳せし日向太郎光影が後裔、 荒人征久が嫡孫にして、無双の馬上打物の達者 隼人種久が一子! 白石矢三郎経久ッ!」


「…シライシ? そのような家聞いたことがない」


「殺す」


 またブチ切れた。


 …しまった、

 “余計なことを口に出すとロクな事がない” というのが自分の座右の銘であり、努めて普段から無口でいたと言うのに、よりによってこのようなところで、このような相手の家名を侮辱するという途轍もないミスを犯すと…


 そこでアルムの長大な思考は結局 最後まで口に出されることは無く、思考を編み出していた脳自体が振り下ろされた反り付き大剣(クレイモア)によって外に噴き出た。


 ーーーーー



 その日の夜 異世界西方地方都市 ヤーク 街守居館 応接室


「ア、アナタ何したか わかってるの!?」


「家名を辱めた()()とその従者に報いを受けさせた 生かしておくと面倒故 取り敢えず殺した

 …が、どこの誰かようわからんので首実検してもらおうと代官殿の元へ来た」


 グビグビとえーるなる癖あれど癖になる酒を飲み、牛の乳を固めたと言うチーズなるを食みながら野良犬のようにびょうびょうと食ってかかる栗毛髪の妻の勢いをのんびりといなす。


 この女、代官殿は館に乗り込み警固役を斬り殺して二人目の妻にしたこの鬼世の国司と思しきの一族の者で、病で臥している国司に代わり政を取っている。

 無論国司の地位に違わずこの鬼世の者たちのやんごとなき方々の筋だそうである。…しかしこの女、品がない訳では無いが妙に図太く気性荒きところがある。



 良いことだ。



 武門の棟梁たる俺にやんごとなき方の筋でありながら噛みつくような勢いで迫るのだから見込みがある。 武士の妻とは悍馬の如くでなくば務まらぬ。内向きのことは飯の用意から剥いだ鹿の皮なめし、討ち取った敵の首の塩漬け迄全て任せるのだから当然であろう。


 そして子の気性という物は往々にして親に似ると聞く、…この女なら猛き武者となる子を産んでくれるであろう、と俺はこの代官殿にこそ期待をかけておるのだ。


 … 他の二人の妻は何を考えておるか解らんふわふわ頭の不老長寿と云う えるふ鬼の歩き巫女 ぺると、武具の手入れと鍛冶の巧みなれど表情薄く 矢張り何考えておるか分からぬ()()()という肉置きの良い鍛冶長の娘、期待をかけるべきは悍馬の代官殿ぞ。


 そんなことをぼんやりと考えていると、掴まれた頬の肉に瞼が押し潰され、視界が普段より狭まった。


「は・な・し・を・聞・い・て!」


 この女、恐れ知らずにも俺の顔を両の手引っ掴んでいるのだ。 そして上に下に激しく振り回しておる。


 ーーー ああ、最初の妻も時折このような女になったな、と矢三郎は髪が振り回される感覚と共に感傷に浸る。

 病的な女好きで、矢三郎より鎌倉武士していた彼の祖父 荒人であれば女に頭を掴まれ振り回されなどしたらブチ切れて殴り倒し、その場で夜の寝技大会を始めるだろうし、武断派のきらいのあった父 隼人や非常に源平武士していた家祖 日向太郎であればいくら気に入った女でもその場のノリで斬り捨てている。


 矢三郎は恐ろしいことに白石家の中では非常に温厚で、何時か我が子を産む妻を斬るなどしない合理的な鎌倉武士なのである。


 が、比較的温厚と言っても鎌倉武士なので何時までも両頬をホールドされて頭を振り回されている状況に甘んじてはいない。普通にキレる。


「ええい!やめいッ!」


 乱暴に立ち上がって妻の手を振りほどく。でも斬らない。優しい。


「アナタが話を聞かないのが悪いのよ!」


 妻、怒鳴る。貴族というものは往々にして気性が荒い傾向があるが、彼女の場合 特に顕著である。


「意味のわからぬ話を聞く道理は無い!」


 夫、怒鳴る。武士というものは往々にして話を聞かない傾向があるが、彼は違う。矢三郎は非常に理性的な武士なのだ 生きる為になりそうな話は聞く。そうでない場合は無視する。


「 私の夫であるアナタが、レドアクスの騎士を殺したの!しかも門の前を通ったってだけで!」


「知らぬ奴が門の前通ったら殺すじゃろ!」


「殺さない!」


 その後もぎゃーぎゃーと平行線を描いた暫くの子供じみた言葉戦いの後、ふと内容をバカバカしく感じた栗毛の美麗な代官 カティアは黙り込む。


「もう一度言…いえ聞きますわ 矢三郎殿、

 ヤーク一帯の領主や土豪や騎士を取りまとめている街守代官であこの私の夫である矢三郎殿が、臣下レドアクス家の騎士を殺したの …武勇に優れたアナタならどういうことか分かるわよね?」


「うむ、礼土悪衆(れどあくす) 一党は我が白石武士団を怨むであろう

 が、主家たるやーく街守家に反く愚行まではせぬじゃろう …そうしてくれれば此方とて白石家の私合戦ではなく他家と組んでの真正面からの大合戦能うが、礼土悪衆とてそこまでの阿呆ではなかろ」


 カティアは驚いた様子で矢三郎を見る。


 彼女がガハハと笑って高頻度で人を殺す脳筋狂戦士でしかないと思っていた夫は、存外に確かな戦略的視点を持っている高頻度で人を殺す脳筋狂戦士だったのだ。驚き感服した声音で妻は矢三郎に問う。


「…そこまで分かってるなら良いわ矢三郎殿、アナタがどうするか聞きたいのだけど」


「 うむ、文書くこと能う者に一筆書かせよう


 …街守やーく家婿 白石矢三郎経久が館門前にて無礼を働きし者あり 矢三郎直々手打ちに致し候

 …件の者 貴家が家子であると名乗りし故 文に書きて事の次第伝え申す 何ぞ弁明の意思あらばやーく代官殿の元まで参られよ、と一族郎党呼び出して族滅」


「族滅って何!?」

「一族皆殺し」


「ダメ、騙し討ちなんて卑劣な手でレドアクスを潰せばヤーク家に従っている他の騎士たちが理不尽な粛清を恐れて隣領の憎っくきエイスタン伯爵家に寝返るわ」


「成程」


 道理である。

 国司と思っていたが、鬼世に於ける『街守』なるはもののふを束ねる立場にあり、詰まるところ守護、

 否 武士団の長が街守からの調停に従うということは御家人として互いに対等の守護ではなく、話に聞く鎌倉殿に近いものなのであろう。


 正しくこの広きやーくの地に割拠する諸侯を取り纏め、争いを調停するは将軍そのものではないか。



 将軍の夫ならば、国盗りも能おう



「…然らば 礼土悪衆(れどあくす) 一党と合戦し、叩き潰し、所領押領する迄!」


「臣下の騎士家を潰して領地を奪うの!?」


「別に問題なかろう 礼土悪衆に謀反の意がある故仕方ない 族滅するしかない うむ」


「え、それは」


 困惑するのも無理はない。先に殺した側の夫が白々しくも一切面識のないレドアクス騎士家に謀反の意志あり、皆殺すべしと言い切ったのだ。


「皆やっておることだ」


「その皆って何者よ…」


「武士じゃ」


「武士って何よ…」


「武士は武士ぞ」


「……」


「……」


 政争と謀略に特化した女傑(ヨメ)は数秒の沈黙の後に戦争と殺人に特化した蛮人(ダンナ)に街守代として意志を告げる。


「…矢三郎殿、やるのならば徹底的にやらないとダメよ」


「無論ぞ 甘き処断致せば礼土悪衆の家子から頼朝公や木曾義仲を出すことになる

 …任せておれ、代官殿! この白石矢三郎経久 族滅には慣れておるでな」


溌剌(はつらつ )と笑う矢三郎は妻の顔が呆れていることなどどうでも良いようであった。


とうとう異世界合戦です!

異世界転移→ 冒険者 →所領乗っ取り→武士団結成 →盗賊団滅とか嫁取りでじわじわ勢力拡大 と長かった…


矢三郎も戦いたくてウズウズしてます


タイトル後半は嫁さん二号代官殿と矢三郎のことです


次回もどうぞお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 族滅には慣れておるでな ひでえ! 続きも楽しみに読みます!
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