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鎌倉武士は異世界へ 〜武士道とは鬼畜道と見つけたり〜  作者: くらんくしゃふと
第3章 鎌倉武士、異世界でじわじわ頭角を現す
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第三十一話 鉄と愛は熱いもの《中編ノ下 .2》〜鎌倉武士VSドワーフ〜

後編です 鎌倉武士パート! VSドワーフとは一体!?

 

 異世界西方地方都市 ヤーク 大異教徒軍によるアエラ王惨殺の翌日 早朝


 黒髭を蓄えた筋肉質な小男が坩堝から溶けた鉄を鋳型に流し込み、別の茶髭の小男が鋳型から冷えた鉄塊を外し、その隣では赤い髭を複雑に編み込んだ別の小男が鋳型から取り出された鉄塊を炉に出し入れして鉄床を叩いている。


「ここが鍛冶場か! ぎるます殿!」


「は、はいぃ ヤサブロウ殿…」


 異世界西方ド田舎の鍛冶屋に奇妙なコンビが居た。


 そのコンビの内訳は一人目の妻と家子ことパーティメンバーに所領の守りを任せて郎党こと冒険者を連れてヤークの街に来襲し 勝手に二人目の妻を作って即日お泊まりした翌日 後に愛妻(ペル)から落とされる雷を知らず前から来たかった鍛冶場に来襲してハイテンション気味な鎌倉武士と、半日ほど鎌倉武士に連れ回されて死にそうな表情のギルマスであった。


「…して、此処は()()()()()鍛冶場なのだ!? ぎるます殿!」


「…ど、どのような…ですと!?」


 ーーー さて、ここで(にわか)に焦り出したギルマスの脳内を覗いてみよう。


(ここでヤサブロウ殿の機嫌を損ねるようなことを言えば私は終わりッ! 事実上代官殿の婿となられた方で何より異邦の猛々しい野蛮貴族!怒らせればなんの迷いも無く殺されるっ…)


 畏るべき鎌倉武士の機嫌を損ねぬよう顔をゴブリンのような色にして玉汗を噴くハゲかけギルマスは五秒ほど機能停止した後、一息に叫んだ。


「え、ええ、はい!矢三郎様ッ! ここはドワーフ十五人 人間八人から成るヤーク最ッ高の鍛冶場であります!…ん?」


「…うむ、この太刀をだな…」


「何だこの剣 。お?細身の割に重えじゃねぇか!」


「何を申す、戦で使う太刀が軽うて堪るか お主中々に腕のある鍛冶師と見たが、太刀は打たぬのか」


  (…お、おお、打ち解けてる…!)


 いつの間にか話し込み始め、打ち解け 滅多に手放さない太刀までも手渡し見せ始めた武骨な面相の鎌倉武士と負けず劣らぬ強面こと太刀を受け取った翁、金床の前にどっかり座った紫バンダナの老ドワーフの間に打ち解けた空気感を察知したギルマスは気配を消すことに徹した。

  下手に口を出すと短気極まる鎌倉武士と職人気質な男で口達者なギルマスと相性の悪いドワーフ親方の不興を同時に買うことになるし、最悪鎌倉武士に斬られる。

 そしてこの場から逃げたりなどしたら 後日「二心あるなッ!」なぞと言いがかりつけられ鎌倉武士に斬られるのだ。


 邪魔術を喰らったか魔物に見られて石化したかのように固まり動かないギルマスを気にも留めず、鎌倉武士と老ドワーフの寸胴筋肉コンビの会話は続く。


 鎌倉武士に「戦場向きの剣を知らねーのか」と言われた気がしてその武骨な手に持った太刀に熱烈な視線を送りながらもムッとした表情を作ったドワーフ鍛冶長はギョロリと視線の先を鎌倉武士の炯々とした目へと移して喉仏ほどまで蓄えた白ヒゲを揺らして言う。(気性の荒い鎌倉武士の目を真っ直ぐ見据える年季の入ったクソ度胸は流石というものである)


「…タチなんて剣は知らねぇ!故郷からこっちに腰落ち着けるまで結構な場所渡り歩いたが一度もコイツの仲間は見たことがねえ!同じモン作れと言われても…まあ半年ゃムリだ!

 だがよ、同じぐらいの重さの大剣クレイモアならいつでもいくつでも打てるぜ?」


 鼻息荒くそこで言葉を切った鍛冶長は矢三郎から受け取った太刀に目を落とした。職人のプライドは矢三郎の誤解(したと思い込んでいる)を解かねば気がすまなかったのだ それを終えた頑固な職人はすぐさま無骨な指で丁寧に刀身を鞘から抜き放ち、舐めるように太刀を観察する。


「しっかし妙な剣だな… 何から何まで違う 形も違うし鞘の拵えも柄の拵えも違う 使ってる鉄も違うし 重心も違う…ほうこりゃ砂鉄か!狂気じみたことしやがる…」



「フム、お主が言うた “くれいもあ” なるはこれであろう 賊からの分捕り品じゃ 」


 熟練の鍛冶長は矢三郎からガチャリと大剣をその武骨な片手に手渡されると、太刀を傍に控えていた若いドワーフに持たせ 受け取った大剣クレイモアを検める。


「賊から奪ったにしちゃ良いモノだ …で、矢三郎殿 コイツをどうしたい?」


「馬上から扱うに良いよう ちと()()を付けられぬか」


「ほほう、馬の上から振る剣に反りをつけたいのか?」


「左様、蝦夷から継いだという武士の知恵じゃ 我ら武士は皆反りのある太刀を使う

  家祖の日向様は蛇のようにうねった刀を佩いておられたそうだが…」


「蛇みたいな剣!?」


 その後も刀剣・弓・酒・女にと楽しげに雑談と商談に花を咲かせる寸胴マッチョな二人であったが、この時代の武士は情報を得ることのみに満足する生物ではない。彼らは得た情報を元に何かしらやらかすのだ。

 父が自分を差し置いて弟に家督を継がせると情報を得たら自分の息子に弟を殺させ、夫が浮気相手を自分のテリトリーに呼び寄せたと継母から聞いたならば手下を派遣して浮気相手の家を破壊させる。


  そんな生き物なのだ。


 当然、ごくごく普通の平均的鎌倉武士たる矢三郎も例外ではない。 これまでに聞き出した情報を統合し頭の隅でこれからするべき行動を編み出し始める。


(話を聞くにこの翁、名うての刀鍛冶であることは間違い無い そして信置けるミウチの者らや弟子らは今俺が使うておる “くれいもあ” より折れず曲がらぬ “くれいもあ” を打ち、(さね)良き鎧兜も 強き弓も鋭き鏃も作っておると…ふむ、之は身内に取り込むより他なかろう!)


 そう結論を出した鎌倉武士が速攻攻めを開始したことで物語は急展開と相成った。



「…それでだな 鍛冶長殿」


「なんだ矢三郎殿」


「お主に娘はおるか?」


「おう居るとも 一人娘よ」


「連れ合いは?」


「…居らん! まっったく、あれはもう九十になると言うのに赤熱した鋼と金床が恋人といった様子で男に興味の一つもありゃせん!」


「…きゅうじゅう… それはつまり十が九つ… (おうな)ではないか!」


「ガハハハハ、そうじゃないわい ワシらと矢三郎殿らじゃ生きる時間が違う

 ドワーフの九十は只人の二十少し過ぎってェ言うところか …ま、女盛りってところだぜ」


「なら良い!娘は何処(いずこ)!」


「…薄々気づいとったが、矢三郎殿 俺の娘を嫁にしようとしとるだろ」


「うむ、嫁の貰い手がないというのならこの俺が貰い受けようというわけじゃ!」


 ふんすと自慢げに鼻息を吹く矢三郎を見、何と豪胆で大胆不敵な男だろうかと鍛冶長は呆れ返る。


 …しかしドワーフというのは老若男女皆 そんな豪胆な男が好きなのである。 鍛冶長は何やらしきりに頷き言葉を紡ぐ。


「応、応、人間がドワーフの女を嫁に娶ろうとは豪胆だな!気に入ったぞ矢三郎殿!

 …アンタは強そうだし 俺様の半分ぐれェには腕が良い職人が作った刀身の、あのバカ娘のより拵えの良い剣や頑強な鎧兜に張りの良い弓やらを持っとる…そこん辺り ここらの貴族ども何ぞより余程良家の出であろうし、


 何より良い目をしとる!…あのへそ曲がりの行き遅れの婿としちゃ満点以上だ


  …しかしだ、 わぬし、あの気の良いエルフの娘っ子と一緒になったと聞いとるが…」


「左様、鍛冶長殿が娘は我が三番目の妻とする!」


「なんともはや……いや、俺からはもう何も言わん!」


 ギシリと腰掛けた床机を鳴らして前傾し矢三郎を真正面に見据えた老ドワーフは気を鋭くし、鎌倉武士に語りかける。


「矢三郎殿よ、アレを口説いてこい! もし オトせたらアイツをくれてやる! …アンタは鉄握組組頭 ガルフの婿になる」


 鎌倉武士は赤熱した鉄に焼き潰されていない方の目をグワッと見開いた老ドワーフの脅威の眼力とそこに込められた意志を己が両眼で受け止める。


「言質取ったるぞ義父殿 …ふむ、義父殿の娘はどこのどれじゃ」


「応、あそこで片手半剣の拵えをやっとる女よ 拵えの腕は並だが鉄を打たせれば俺の次に良いモノを作る」


 鎌倉武士は妻(三人目)としようとしている女、ムサいドワーフ鍛冶師ども及びドワーフとほとんど見分けがつかない髭面の人間鍛冶師に混じった紅一点、


 深緑の作業繋ぎを着た翡翠のような冷静そうな緑の目、炎か赤熱した金属のような色合いの肩ほどまでの髪と短い頬髭 (ドワーフ女には髭があるとは言っても、基本ストライクゾーンの広い鎌倉武士に「髭生えておるぞ!」と突っ込まれない程度に頬っぺたに生えているだけと言うのは色々と幸運であった。) で小柄なれど出るとこ出ているという如何にもドワーフ的な女性をふむぅと鼻息鳴らしてじっくり舐めるように見た。


 矢三郎はニカリと笑って義父に斯く娘への鎌倉武士的評価を述べる。


「肉置き良し、一の妻のぺるや二の妻の代官殿とは比べられぬほどに乳もあり、腕太く力も強そうじゃ 背が無いのは勿体ないが強き子を産めそうな、とても良き女ぞ」


「…あーもういい、行ってこい! …アイツの鍛冶家事の腕は中々のもんだ どっちもな!」


「それは重畳! ぬはは、義父どの 任せておれ! 」


 義父オヤジの親父オヤジギャグに気づかず そばで太刀を持っていたドワーフから太刀を取り返し、それを手に持ったまま ノシノシ地面を踏みつけ、父親とお揃いの金床の前に腰掛け片手半剣の柄巻きをしている女の前で足を止める。 女が目線を上げるとずい、と太刀を目の前に掲げた上で間髪入れず飾らぬ言葉を吐く。


「応、そなた 俺の三の妻にならぬか 鍛冶の匠と聞いた これと同じものを俺の為に打って欲しいのじゃ」


 突然 三番目の嫁になれと言ってきた武骨な男と、その男が掲げた男と同じぐらい武骨な剣を交互にその翡翠のような目で見やった女は無愛想な顔を歪め 笑顔を作った。思いの外愛嬌のあるものだった。彼女は問われた言葉と同じぐらい飾らぬ言葉で返す。


「あら、いい男じゃない ハッキリした物言いも気に入ったわ」


「ふはは、そなたは拙者の如きむさ苦しき武辺者が面構えを『いい男』と申すか」


「本心よ」


「はっはっは 」


「本気で言ってるの」


「ぬはははははは」


 矢三郎は冗談と受け取ったようだが、相手はガチである。 二人の間には深刻な価値観の相違があった。 種族的なものなので仕方が無いが、大きな相違だった。



 …この世界でのドワーフは男女差はあれどがっしりとした骨太・筋肉質・多毛な身長一メートル前半程度の種族である。その多くは舌に衣を着せぬ正直者で、狡猾な者はほとんど居ない言葉ッ足らずで質実剛健、職人気質、大酒飲み…そんな説明が相応しい気難しいヤツらだ。

 故に優美でスラッとした骨細・華奢・髭ナシで長身な一般的に弁舌家で洒落者、派手好きなエルフとは相性が非常に悪い。


 し か し、


 がっしりとした骨太・筋肉質・基本多毛な身長一メートル後半程度の種族であり、その多くは一握りの上位種を除き舌に衣を着せら・れ・ぬ正直者、その癖 狡猾な者だらけであり、言葉より先に手どころか武器が出て来るほどに直情的で質実剛健、一年中武芸に打ち込むある意味職人気質、大酒飲み… そんな説明が相応しい野蛮なヤツら、『鎌倉武士』との相性は抜群であったのだ。


 それはビジネスのみならず、外見においてもであった。


  その野蛮凶相極まる芯が強そうな顔立ち、強烈な殺意溢れる強い意志を湛えるその眼光、説明不要に魅力的であるその筋肉質な引き締まった体躯…


 鎌倉武士はドワーフ基準では美男子であったのである。


 ここが前述の価値観の相違である。


 実際、矢三郎は醜男ではない。 二十一世紀の我々基準で言うところのイケメンではないが、逞しい肉体と人間的魅力に満ち溢れた快活ない・い・男・ではある。


 …あるのだが、強面マッシヴな鎌倉武士をイケメンタイプのい・い・男・と問題なく認識できるのは流石ドワーフと言うところか二十一世紀日本人や異世界の人間 エルフ ハーフリングなどでは到底無理である。


 またドワーフ系美男子 矢三郎としてもがっちり胴長短足で多毛な人物の多かった白石のミウチたちや尊敬している恐ろしく剛毛な祖父を思い出す髭ヅラでがっしりしたドワーフたちは親近感を持てる相手であった。


 かくしてドワーフから美男子判定を頂いた鎌倉武士 矢三郎は異世界にてむさくるしい義父さんとその一族による武器の安定供給路と頑丈な子供を産めそうなグラマラスな嫁さん3号を手に入れたのである。




矢三郎の嫁取り、三度目です。 三人目です。 ドワーフです。コメント欄でちょくちょく正解の読者さんたちがいらっしゃいましたネ おめでとうございます!


前々からドワーフと鎌倉武士は色々と相性が良いのではと思っていました。 ゴツさとか。気性とか。


そして何と!三番目の妻 話の中で名前が出ておりません! …名前も聞かずに嫁にするのはどうなのか矢三郎、嫁三号もそれでいいのか…? そういえば二番目の奥さんも「代官殿」呼びで名前認識してないな… 何というか矢三郎、鎌倉武士ッ…

そんなふうに思いながら執筆していました。


挿絵(By みてみん) 


嫁さん3号のイメージ(手製) ここで発覚 名前はソマリ かなりガッチリした体型の女人です。背が低くても幼女体型ではなかった。出る所は出ている。鎌倉武士的には心身共に強い女性が良いのです たおやかな深窓の令嬢などクソ喰らえと男衾三郎さんも言ってます。


待て次回!


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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、もみあげが伸びてるみたいな感じかぁ うまいこと処理したなぁ。
[一言] >言質取ったるぞ義父殿 ここまで読んで思ったこと。この作品のオークやドワーフってワリとトールキン原作寄りだから、ヒゲが生えて男と見分けのつかない娘の可能性もあるんじゃね? ……さすがにそれは…
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