第二十七話 いざ二号《後編》
まず、12/2時点でブックマーク4,208件 総合評価12,416pt を達成したことをご報告致します! これも読者の皆様のお陰です! 今後とも『鎌倉武士は異世界へ』を宜しく御願い致します。
…さあさあ お待ちかねの二十七話、矢三郎の嫁取り後編です いやぁ、難産でした 気位の高い女の人を蛮族した鎌倉武士に流血を伴わず口説き落とさせるのはギャルゲー上級者にも難しいのではないでしょうか?
皆さんなら出来ますか?私には無理でした。血がドバドバです(笑)
それでは、どうぞ!
「わ…私を妻に!?」
「左様! 代官殿が女子と聞いて直ぐに決めたわ!
新参たる我が白石武士団が大手を振って彼の地を治むるには全ての土豪や地頭を束ねる権ある家と血縁を結ぶが最良也! …とどのつまり、俺がそなたを妻にすることぞ!」
異世界西方の辺境都市 ヤーク街守代官、艶やかな栗色の髪と気が強そうに寸分違わず整った顔だちの麗人貴族 カティア・フォン・ヤークは武士団、土豪、地頭など知らない単語が連呼される中でも何とかこの野蛮人が熱烈に且つ決定事項として自分を妻と求めていることを辛うじて察した。
「ふ…巫山戯るな! 誰がおま…貴殿と け、け、結婚など! ヤーク街守家としての理に合わぬ!」
( ほほう? 即ち言葉を返せば理に合わば我が妻になるということか 可愛らしい女よ)
矢三郎はカティアの言葉を可愛らしい(?)勘違いと共に受け取り、彼女が嫁に来なければどうなるかを力説し始める。
「代官殿は『ぼうけんしゃ』どもは要らぬと申されておるのか? あれなる者どもより聞けばやーくの街は賊狩りや『もんすたぁ』の征討を全て冒険者に丸投げしておるとか」
そこまで一息で続けた矢三郎は小休止のようにニヤリと蛮族笑いし、続ける。
「最早 それでは立ち行かなくなり申したぞ」
鎌倉武士のセリフに、気絶しかけていたヤークの冒険者ギルド『赤い鬣』ギルドマスター カンテゼーレ子爵がハッと意識を取り戻す。
この男、白石矢三郎が自分から銀板階級を毟り取ったばかりか全てを奪っていくつもりであると気づいたからだ。
「今やぼうけんしゃ共全てはこの矢三郎経久が郎党也!
最早彼奴らはその方ら貴族の使い勝手良い犬ではない! …彼奴らは武士じゃ!
己が考えで己が主を決め、己が為に生き、己が一所を守る為に死ぬる生き物となったのだ!
…そして奴ばらは俺を主に選んだ 他の誰にも従わぬ… …隙を見せれば喉笛掻き切ってくるであろうがな」
「それはつまり、冒険者の反乱ということか!? 」
…… 冒険者の反乱、それは異世界人にとって全くの盲点であった。
どのような盲点であったか、何故盲点であったかを少し説明しよう。
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矢三郎この騒ぎを起こすまで、異世界では冒険者が冒険者ギルドから抜け、一人の頭目の下で統率された武装集団と化すなど有り得ぬことであった。
まず前提として、異世界辺境ド田舎で冒険者なんて碌でもない仕事をやるのはお天道様の下を歩けぬ訳アリ者や、その中でも格別我が強くて集団行動に向かないので盗賊にもなれない、そんなに強くもない者たちである。
そうでない者はそもそも冒険者にならないし、仮に才能があって訳ナシの辺境出身冒険者はとっとと都会に出て出世頭となり、故郷のことなど忘れてしまう。
よって辺境での『冒険者』業とは、『冒険』という恐ろしく大雑把で融通が効く職名と同じく大雑把な仕事内容と異世界転移してきたばかりの奴すらなれるユルユルの審査基準によって何者にも成れぬゴロツキに公的な身分を保証する救世主なのだ。
…まあ、受け皿になるという体の良い名目で死傷者が出まくる盗賊対策・魔物征伐人員を国が訓練にコストを賭けた兵士たちではなく日陰者のワケアリを使い潰すのだから真っ当な救世主という訳でもないが。
それでも、それでも、日陰者で農民にも職人にも商人にも何にもなれない者達にとっては救いなのだ。国としても犯罪者予備軍を有効活用・大量処分出来る最善策…
暴力夫とその妻、或いはメンヘラカップルのような悪い共依存であった。
兵士の代わりを務める冒険者が増える度に各国の軍事力は弱り、国々を束ねるかつての『大帝国』のような大国が生まれる土壌はどんどん無くなり 小規模な戦が延々と続く…
これまではそうであった。
しかし偶然か或いは必然か時を同じくして 大陸西方のド田舎で我らが青い鎧の鎌倉武士が武士団を興し、大陸北西部では忘れ去られた古の魔王城にて異色の魔王 『ゴブリンの魔王』アルファが力を蓄え、また第三勢力として西方の島国に突如海を渡って現れた北人の大異教徒軍が組織的な侵略活動を開始…
彼ら、年齢 価値観 目標 目的 こそバラバラなれど、何れも確固たる意思と実力を持った者たちによって異世界暗黒時代は現時点では明暗どちらか不明な、どちらにしても大きな変化を迎えようとしていたのである。
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「それはつまり、冒険者の反乱ということか!?」
「 知らぬ ぼうけんしゃは貰った とにかく奴らを衛士やらなんやらとして欲しくば嫁に来い」
…さて、舞台はカティア街守代と冒険者ギルドギルマスが会談中に鎌倉武士が乱入して護衛三人と曲者一人を殺害の後 そっ首を刎ねた部屋、四人分の死体が転がり四人分の血が飛び散ったスプラッタな街守応接室に戻る。
件の鎌倉武士は武器持った人間が揃えば反乱とか裏切りとか当たり前だろ 何をそんなに驚いてんだと思いつつも、異世界においてはこれまでなかったヘヴィな出来事である冒険者の反乱を街守と冒険者ギルドマスターに告げた。
が、矢三郎はさらにヘヴィな事実をも事も無げに告げたのである。
「…あ、ぼうけんしゃだけではないぞ しぇるばの村の村人めらも我が武士団に順うておる 己が身を守る術を知らなんだあの赤子共も多少は見えるモノになってきたわ」
「な…農民に武装を!? それは途轍もない重罪ッ!」
詳細は割愛するが、異世界の旧『大帝国』支配圏内では農民の武装は御法度である。異民族同化とかで色々あったのだ。そんなタブーを鎌倉武士は土足で踏み潰して悠々と通過していった。
「もう、何で!!! 非常識!!!野蛮人!!!」
「…む、お主 何か拙者の悪口しておるであろう 代官殿! 」
「気づくの遅い!!!」
貴族でありながら彼女視点では訳の分からんマイペースな野蛮人相手に終始ツッコミに回っているカティア。 これが所謂夫婦漫才である。会話内容とそこら中に血飛沫がこびり付いて死体やいつの間にか気絶したギルマスが転がる周囲の様相は殺伐としているが気にしてはいけない。
「…ああ、なんて事… これはもう冒険者ギルドだけの問題では… 我がヤーク伯爵家はお取り潰しに…」
この野蛮な男に舐められて堪るものか、私も家名を背負っているのだと張っていた気が一気に抜け、フラッと倒れかけた細柳のような女の腰を受け留めたるは武骨な太い腕、そしてその先に生えたやはりゴツゴツと武骨な指が女の腰を弄る。
「うむうむ、中々に良い子を産めそうなしっかりした尻をしておるわ どれ、前はどんなものか」
「きゃあああっ!!!!!!!イヤーーーーー!!!!!!!」
予想だにせぬ鎌倉武士の狼藉にすっ飛んでいた魂が瞬時に戻った直後、絹を裂く悲鳴が街守の館に響き渡った。
二号さん誕生
嫁さん一号として長命な後継者を産んでくれるであろうエルフの娘、嫁さん二号として異世界武士団のシェルバ村統治権を保証する一帯のドンたる貴族家の娘を娶り、内政要員身内にGETする意外と堅実な鎌倉武士の家族計画。あとくノ一ともいい感じ(?)
今回は冒険者制度についても説明出来たので良かったです。
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