第二十六話 いざ二号 《前編》
投稿が滞って申し訳ありません 次話は二日以内に投稿する予定です!
感想返しなんかは少し遅れるかもしれませんので悪しからず
「は〜、どれだけぶりだよこの街…」
遠くの城壁に向かってそう独り言ちたボロボロの鎖帷子に申し訳程度鉄板を繋ぎ留めた粗末な冒険者風の若い男、臆病そうだがある程度の風格はある。
そこそこ経験があるパーティリーダーと言ったところだろうか。
「何だかんだであの村に一ヶ月居ましたからね」
「多分、腕吹き飛ばされかけたホルトーのヤツもそろそろ良くなってるよ」
「街で早く山夷の酒を飲みたいのう 交易のある大きな町でしか手に入らぬし」
「相変わらず酒好きですね イヅマさん」
「お主も相当じゃろうに」
リーダー格と思しきボロボロ鎧の男の後ろで雑談を交わす個性的なパーティメンバーたち… ここまでならばごく普通の田舎の冒険者パーティだろう。
「ううむ、やはり やーくの街が壁は立派よのう!我が邸の周りにも勘様な石壁を築きたいものぞ」
「ヒャハハハハ! あの屋敷を砦にでもする気ですかい お頭ァ?」
「お頭と呼ぶなと二度も言うたであろう、この盗賊上がりめが! …手打ちにするまでも無し!…クロスケ、餌だ!喰え!」
「うぎゃああぁああ!!!!!」
「マジか、ハンスが魔狼さんに喰われたぞ 」
「あーあ、だからお頭呼びはやめとけっつったのに…」
…音と声で背中側にて何が現在進行しているか察して一切振り返らない彼らこと『赤角』パーティー自身は全くもって至極普通の辺境冒険者パーティなのだ。
無論、後方にワラワラと控える仲間が食われても「マジか」 「あーあ」で済ませてしまうほどに順調に郎党ナイズが進む元冒険者な同行者 五十人弱及び数十秒前まで生きていたソレを骨ごとバリボリ喰らう魔狼、
…そして何よりその魔狼に跨った赤い大弓を持った男、メンツを潰されることと自身の命令や忠告に背く者には即座に死をもって報いる平均的な鎌倉武士さえ後ろに居なければ彼らは本当にごく普通の田舎冒険者パーティなのだ。
しかし彼らは異世界武士団においての家子のポジションに納まってしまっている。もう逃げられない。抜けられない。
そんな不確かな今後への不安と強烈なリーダーシップを誇る矢三郎が導く不安定で刺激的な未来への期待半々ぐらい精神状態で前方の城壁を注視する彼らを放置し、矢三郎はどんどん計略を進める。
「狩人衆がおさ!」
「へいさ」
「手筈は整っておるか?」
「当然であり申す」
「左様か …よし!」
矢三郎は腰から太刀を抜き放ち、がおおと吼えた。 後方の世紀末的面構えの武士団員たちは姿勢を正して静まり返り、武士団員たちにも気づかれぬよう森の各所に潜んだ土着の天然忍び集団こと『狩人衆』も沈黙を継続して主に注視し、魔狼も武士団員の死体を食うのを止め、背中の主人の言葉を聞き取ろうとする。
野蛮なる武士団棟梁は静寂の中、ゆっくりと太陽への供物が如く太刀の切っ先を空に突き上げると、鎌倉武士的としか言い様がない大声で語る。
「者ども、待ちわびた時はすぐそこぞォオォ! その方ら 『ぼうけんしゃ』は最早顎で使われる『ほげんの乱』前が武士の如き飼い犬ではない!
…この白石矢三郎経久貴様らに『武者ノ世』をくれてやる! 俺こそがその方らにとっての鎮西八郎、清盛入道、九郎判官義経、鎌倉殿引っ括めた源平武者全て也!
さあ、俺について参れ!!!!! 来ぬ者には死ぞ!!!!!」
「おおおおおお!!!!!!」
矢三郎の激で噴出したある種ヤケクソな熱量を発する五十名ほどの元冒険者、現武士団員どもと、静かな熱気を発する忍び集団、そして唯一鎌倉武士的熱気に呑み込まれていない『赤角』パーティメンバーは死んだ魚のような、しかしどこか熱に浮かされたような目で誰ともなく異口同音に呟く。
「腹括ろう ここまで来たら、マジで死ぬまで付いてくしかない」
ーーーーー
大陸西部地方都市 ヤーク街守居館 応接室
「カンテゼーレ子爵!これはどういうことですかッ!」
「街守代様ッ ど、どうかお許しをっ!」
鎌倉武士による過剰ストレスでハゲてきた『赤い鬣』冒険者ギルド ギルドマスター マリウス・カンテゼーレ子爵が床にツルッツルの額を擦り付ける。元伊達男の姿は見る影もない。
「冒険者百四十人の失踪!それに伴う一ヶ月近い討伐依頼の滞り…!
この責は取るつもりですかッ!冒険者を制御できないギルドマスターなど何の役にも立ちません!
冒険者が魔物や盗賊を退治しドブまで攫うことはヤークと国に税を納める民への義務!」
「…なら民営ギルドに頼らずに自衛ぐらい自分たちでやりやがれ!!!!!!
全部こっちに丸投げしやがってこのクソアマがァ!!!
盗賊モドキに軍事面丸投げとか傍から見たら狂っとるわ!」
…なんて怒鳴りたい気持ちを押し殺してそんな素振り表に一切見せず泣き土下座をかます腹黒ギルマスであった。
「…それで?消えた冒険者百四十人はどうなったと言うのです!」
一方の短気な女貴人はハゲ始めギルマスの土下座に毒気を抜かれたのか若干冷静になって上擦った声で問い質す。
彼女の態度には経験不足が如実に現れている。これでは敢なく老獪なクソタヌキの如きギルマス カンテゼーレ子爵に丸め込まれてしまうだろう。
…このメンタル逞しいギルマスが真に心の底から恐れるのは鎌倉武士だけなのだ。
「…さ、先触れの使者より聞き及ぶところにおりますと、シライシ=ヤサブロウという銀板階級冒険者の元にその男が殺した者以外は全て居るとのことで…」
「その名…噂の異邦の蛮人貴族ですか?」
恐る恐ると言った様子を見事に演じ切る名役者ギルマスの言葉に女貴人が鋭く反応する。
「は、はあ… 貴族かは知りませんが野蛮極まる異邦人であることは確かです
…そ、その冒険者めらの首領、シライシ=ヤサブロウめが領主代様にお会いしたいと申しておるのですが…」
「お断りですわ!そのような野蛮極まる男に会ってたまるものですか!」
バギャァアァアアアン!!!!!!!!
口にするのも汚らわしいという風情で会話を早々に切り上げかけた彼女とこれから如何にして好条件を引き出そうと頭を働かせ始めかけたギルマスの前に、本来ならこの世界にいるはずのない存在が良木の扉を蹴破って現れた。
「ええい、話が長いッ!
我こそは治承・寿永の乱に名を馳せた日向太郎光影が後裔 白石矢三郎経久! やーくが街の代官殿に会うべく、しぇるば村より参上仕った!」
驚異的な筋力によって樫材の扉を粉砕して応接室に乱入したるは、如何にも蛮族然とした木の棍棒を担いだ「野蛮」を絵に書いたような黒髪黒目の男 、名乗りの通り由緒正しい鎌倉武士、
白石矢三郎経久であった。
「ひいいぃいいッ!!!!!」
先程までの腹黒い名演は何処へやら、マジでビビるギルマスの悲鳴とそれをかき消す怒号が室内に響く。
「貴様ァァ!ここが領主代様が応接室と知っての狼藉かァアァア!!!!!」
「喧しいぃあぁあぁあ!!!!!」
本当に哀れにも死んでも関わらない方がいい侵入者に斬りかかってしまった気の毒な衛兵は剥き出しの顔面を雑魚殺しの棍棒でボゲンとぶん殴られ、折れた歯を空中に撒き散らしながらブッ倒れる。
やはり兜は大事だ。
残り二人の衛兵も動く間を一切与えられずに棍棒打撃と鎌倉武士キックのコンボで応接室をバキャアドガンと破壊しながら無力化され、手早く短刀で喉元を裂かれて昇天した。王都より派遣されたエリート正規兵といえども質実剛健・実戦至上主義者の極みたる鎌倉武士の相手には到底ならなかったのだ。
ついでにカーテンに潜んでいた曲者も血で汚れた短刀を投擲され頚動脈を貫かれ、死んだ。
主だった敵をすべて討ち取った今、いざ首を獲らんとしたもののこの鎌倉武士は「あの鉄の衣を纏うた亀ども相手に太刀など要らぬ、軽装で翻弄して殴り殺す!」との理由で大鎧を纏わず 太刀を持ってきていない。
…ので首が捥げない。非常事態だ。
そこで床に転がった死体の手から研ぎをサボったロングソードを奪ってギシギシと首の骨を軋ませて三人の首をへし切り取りとる。
首×3を捥ぎ終わった小具足姿 (篭手と大鎧の一部である脇楯、脛当とモジャ毛っぽい靴 貫のみの軽装) の矢三郎は頬の返り血を拭いつつ、狂気と暴力に満ちた眼光で生かしておいた者たちの方へ振り返る。
「久方ぶりじゃな、ギルド長殿!禿げたか! して代官殿は…
…ほほう代官殿は、おなごか!」
「何ですかその目は!女で悪いとでも言うのですか!」
自身の性別に気づくや否や即座に舐めるような目付きで腰つきや胸や身長を鑑定し始めた野蛮の極み武士に反駁して気骨ある異世界美女は叫ぶ。(普通の異世界女なら盛大にチビって腰を抜かすだろう 怖いし)
しかし鎌倉武士にとっては美女かどうかよりも良い子を産めるカラダをしているかと、武家の妻を務められる気性かどうかが重要なのである。例えば男衾三郎さんなんか、もの凄い奥さんを娶った。
自身の非難をガン無視で肉体鑑定に熱中する野蛮人に街守代は更に更に声を張り上げる。
「答えなさい!女で悪いのですか!私はあなたみたいな野蛮人よりよっぽど品も教養も家がr」
「女子で悪い? 何故ぞ?」
女代官はズバッと躊躇い無く答えたもののふに開いた口を閉じるのも忘れている。矢三郎という男は疑問を疑問としてしか言わないあたりタチが悪い。
自分と異世界人の価値観の相違に気づかないし、気づく気もサラサラないのだ。鎌倉武士は鎌倉武士の価値観でしか生きるつもりは無い。
「代官殿… 女子は手強う御座るぞ、我ら男は一度怒れば殺す!
…そうでなければ忘れてそれきりで御座るが、
女子は、決して、忘れぬ
俺も我が妻には別の女を抱こうとした時、赤星の女将軍には戦で、幾度も幾度も苦しめられたというもの!」
そう恐ろしい顔で力説した後、まあどちらももう死んでおり申すが、と笑いながら言う矢三郎に色々と圧倒される女代官であった。異世界中世貴族的には女性に散々苦しめられたなど自身の弱味にしか聞こえないことをあっけらかんと言うあたりに特に圧倒された。
意外なことに鎌倉時代 否、日本という国では明治維新後に西洋的価値観が入ってくる迄 イメージより遥かに女性の地位は高い。
鎌倉時代の地頭の娘には相続権も財産私有権も一応あったし、『尼将軍』こと北条政子ほどになると夫である初代将軍頼朝の愛人 亀の前の家を父の舅 牧宗近 ( つまり政子の父時政の後妻 牧の方の父親であり、政子の祖父ではない。 分かり辛いが時政は老いて尚も年下妻を娶るほどにお盛んだったのだ。因みにこの夫婦の間には四人の子供が産まれているが、長子が生まれた時 時政の年齢は50超えている ) に襲撃・屋敷を破壊させ、亀の前は鎌倉から逃亡、更地になった彼女の屋敷から化粧道具などを掘り出し頼朝の前に陳列させたりしたそうである。
そしてその後も頼朝が実行犯の宗近だけを呼び出して当時としては最大限の辱めである髷切り落としを実行し、それでキレた義父の時政が家出するなどなど延々堂々と頼朝と痴話喧嘩を繰り広げている。あと彼女、他の妾と生まれた庶子も追放させたりしている。
海外の視点からも鎌倉時代の彼女らの気性の烈しさは保証されている。使節として来た女真族をして、『倭人の婦人もはなはだ気性が烈しく、犯すべからず』である。
そして時代が下っても日本の女は強いし怖い。
戦国時代 秀吉の浮気にほとほと手を焼いた正妻寧々があの第六天魔王信長に夫の浮気の酷さを直談判し、
「 お土産ありがとう 品物の数々、筆では表現出来ないほど素晴らしかったので直ぐに渡せるお返しが思いつかなかったほどだ。なので、貴女が今度来た時に何かお返ししようと思う。
それはさておき、貴女は前会った時より十のものが二十になるほど綺麗になっている。
そんな貴女のような妻を持ちながら藤吉郎の奴はなんぞグズグズ言っとるようだが言語道断、けしからんことだ。どこをどう探し回ったところであのハゲネズミめが貴女のような女性を見つけられるはずがない。
貴女もこれより先は、武家の妻らしく陽気に振る舞い、どっしり構えてあまりやきもちなど妬き過ぎぬよう務めなさい。言いたいことがあったら最後まで言わずある程度セーブして言うように。
あと、この手紙は羽柴にも見せてやりなさい。
のぶ 」
…と言った内容の天下布武の朱印が押された手紙をあの信長から送られたことがあった。つまり、私信ではなく正真正銘織田家公式文書であると言う意味である。
…作者は部下の夫婦喧嘩に公式文書を送るのはどうなのかと言うのは正直思うが、部下の家庭内の不和は織田家中の弱体化にも繋がるのだろう多分。それほどまでに正妻の存在は大きいのである。
第六天魔王に旦那の浮気の相談をした寧々様以外にも、勇猛で鳴らした七本槍の福島正則は浮気がバレて嫉妬した正妻に城の中から外まで薙刀で追い回されて平謝り、鎌倉時代の武士のあり方を残した九州の武将の妻たちは西国無双の嫁さん誾千代や島津の奥方たち筆頭にだいたい怖い。
…日本の女は怖いのである。最凶女子ばかりであった時代の男、矢三郎は身を持って知っている。あと作者も知っている。
閑話休題。
「…さて代官殿、街守殿は何処か? 話が致しとう御座る その為にここに来たのだ」
「父は病身にて、貴方のような下賎の者に会わせることはできませんわ!」
「…下賎と言うたか」
「…あ」
「…下賎と言うたか…!」
頭に血が上ってとんでもないことを口走ってしまったことに気づき顔を青色一号並に青くする女街守代だがもう遅い。彼女とて貴族の端くれ、貴族にとって家名こそが最も重要なものだとは重々理解している。
なのに身分の定かではない相手に「下賎」と吐き捨ててしまったのだ。異世界貴族としては決闘を挑む理由に十分であり、また、家名を背負っている鎌倉武士としてもこの場で彼女を斬り捨てても十二分に賞賛される発言だ。
「…白石を、日向太郎様よりしかと家名続く我が白石家を下賎と言うたかぁあぁあああ!!!!!!!」
怒髪天を突く阿修羅が如き形相で棍棒を握り直しズンズンと距離を詰めてくる鎌倉武士に恐れ戦慄き身体を引いた街守代だが、その脳裏に「自分も貴族である」というプライドと意地が去来する。
負けてたまるか、貴族の生死と一族の今後を分けるのは意地の張り合いなのだ。
「くっ、死なば諸共!
我が名はカティア・フォン・ヤーク! 唯一神と我が父祖たちの名に於いて貴方に決闘を申し込みます! 」
覚悟を決めた異世界美女は腰からレイピアを腰から引き抜き、構える。
一方 矢三郎は目を細める。
作法も何もあったものでは無い荒っぽい名乗りと一方的な一騎討ちの宣告、マジギレした矢三郎を畏れぬ胆力…
矢三郎は最初の妻やペルのようなおっとりのんびりした女が好きだ。しかし、このような気性の荒く猛々しい、祖父や最初の妻から物語で聞いた鎌倉殿が妻 北条政子か如き女も、これはこれで…
「良いッ!」
「な、なんだいきなり!戦え!」
突然「良いッ!」と叫んだ野蛮人相手に構えたレイピアの穂先をヒュンと華麗に振って闘いを促すも矢三郎から殺気はすっかり消え去り、その代わりにグハハゲハハと不気味に笑いながら無造作に歩み寄ってくる。
「ぐっははははは…」
「な、な、なんだ貴様!」
「ぬん!」
その例え生え抜きの異世界武人であろうと武器と腕ではなく顔と表情を警戒してしまうほどに強烈な顔面と一見無造作な歩みに騙されて素早く手首を掴まれ捻られ レイピアを投げ捨てられてしまった。 武人としての経験差だ。
「くっ、なんと卑劣な!卑k」
代官カティアは最後まで罵言を言わせてもらえなかった。鎌倉武士に頭をぶん殴られていたからだ。顔じゃなかっただけ優しい。
「……な! なにをす」
「策略は勇気に優る! …そして勝利は敗北に優る!どんな場合もじゃッ!
あと土地関係の訴訟は相手を一族郎党皆殺してからだ! かように大きな街を治むる者の代官ならば覚えておけ!」
「…覚えておけ? 私を殺さないのか?何故そんなことを教える!?」
「殺すものか阿呆 この白石矢三郎経久が何が為ここまで来たと思うておる?」
「お主を妻にする為よ」
ヒロインとくっついた一話後に政治的意図があるとはいえ2号さんを作ろうとする主人公
これが鎌倉武士クオリティ
感想の一つ一つが作者のニトロブーストです 一言二言でもいいので乾燥を頂けると幸いです!




