Rise of the Dark-Lord Part 1
アルファ編です 次は完成し次第投下します
そして、10,000ptを突破、現時点で10,396ptに到達していることをご報告します。
20,000ptで書籍化という話が本当とすると、折り返しまで来たことになります。
読者の皆様には感謝が止まりません。どうぞ、これからも本作を宜しくお願い致します!
それは、光の神々や精霊達、そしてその加護を受けた人間やエルフには感じられない。しかし、確かに力を増していた。
トロルどもの岩の皮膚はより分厚くゴツゴツとし、オークたちの皮膚は鮮やかに、牙はより迫り出した。
魔王に歪められた彼の被造物たちは魔王が去った後 一夜にして統制と彼が供給する魔力を失い四散。
その後 世代を重ね、弱体化し続けながら 光の加護を受けた者たちに追われ、狩られ、殺され続けていた。
しかし、その闇に蠢く者たちの苦難の時代、光に属するものにとっては栄光の時代も変貌を迎えつつある。
黑き牙の砦とその魔脈は再興していた。
時は亡国のゴブリン王 アルファが潜伏していた巣を剣と魔法の世界に転移した鎌倉武士 白石矢三郎経久に討ち滅ぼされた凡そ三週間後である。
光と闇、相反し、理解し合うことなど出来るはずもない、異世界の知的生命体を二分する二勢力の均衡が今、破られようとしていた。
…唯想定外なことに、光にも闇にもまつろわずこの世界の理の外に身を置く奇妙な青い鎧の男もこの世界には居るのだが。
魔王城に新たなる主が現れ、それに伴って魔王城の古の魔脈が復活、この数週間で世界中の魔脈から強い闇の魔力が撒き散らされ始めた。
それを大気に感じ取ったオークたち、ゴブリンたち、トロルたち… 魔王軍の主力であった彼らの様々な種族や部族は各地で力を増し、やがてはアングルドゥアに兵を送り、或いは族長が自ら赴いてきた。
急激な人口増加に伴い、強化・増築された黑の砦では大量のゴブリン・オーク・トロルたちが大いに笑い、食い、殺し合って地面を揺らす。
一方で、その活気づいた騒々しい砦に一箇所だけ異様に静かな場所があった。
髑髏や骨が意匠された、縦だけでワイバーン一頭分はある巨大な玉座に座するはゴブリンの魔王。
その玉座の隣に異常に大柄な赤毛のオークが、魔王城と言う魔力噴出地で生まれ、その魔力を取り込んで三メートルにまで異常成長したアルファの副官、ガーシュが立っていた。
そしてその場所の壁沿いには平均二メートルの筋骨隆々なノース族のオークが規格化された衛兵の鎧を着、各々バラバラの武器を構えて整列している。
そんな魔王と副官、衛兵たちと、太古の魔族の愛した漆黒の美意識の結晶である荘厳な広間…
…には似つかわしくない、粗暴な姿の者たちが魔王の直線上にいた。
「魔王ォ!俺らはドワーフから奪った山の中から出てきたンだがよォ!
魔王がゴブリンなんて聞いてねーぜ!?ゴブリンなんて連中はよォ、ちっこくて、弱い!」
唾を飛ばして地鳴りのような低い声で吼えるのは、岩のような肌に棍棒担いだテンプレートのような相貌の、身の丈四メートルにもなるオログだ。(そして大して触れる必要のない彼の取り巻きオークらもいる)
オログとは、トロルとオークの交配種のうち、生半可な剣は通さないトロルの皮膚と熊以上の筋力、人間と同レベルであるオークの知能を受け継いだ個体の総称である。
…生来の強靭さと狡猾さでオークたちの中でも一目も二目も置かれるその種族の中から魔王の座に挑戦する者が現れるのは当然のことであった…のだが。
「またか?」
そう面倒くさげなのは頬杖をついたゴブリンの魔王 アルファ、
…鎌倉武士 白石矢三郎経久との数奇な運命を持つ男の一人である。
彼が飽き飽きするのも無理もない。というのは、この緑の皮膚の風変わりな魔王はここ一時間だけでも、
北人国の山奥からわざわざボロ船で渡ってきた田舎オークの首領、
『オデ』『メシ』以外喋れない巨大な洞穴トロル、
クロスボウの名手を名乗るオーク盗賊団の首領、
族長の到着を知らせる伝令役として来た狩人族の若者…
代表例として挙げた以外にも多くの挑戦者をこの一時間だけで捌きまくり、魔狼の餌を増やしていた。
過去の魔王を知らない現世代の魔族たちにとって、魔王のイメージとは最強の『絶対者』であり、新魔王アルファ、一般的にはひ弱なゴブリンである彼がその地位を保つには大波の如く寄せきたるオークやトロルたちに武威を示し続けねばならなかった。
魔王とは黒いマントを羽織って玉座で沈黙しているカッチョイイもの。
…そう漠然とイメージしていたアルファだが、今の自分は一日の殆どは玉座に座らず 黒マントを脱いだ上裸で、咆哮を上げながらの決闘に費やしていた。
…彼は己はなんと魔王感がない魔王なのだと心の中で少ししょぼくれていた。
「…なんだどぉ? この俺様との決闘を『またか?』だァ!? …こンのチビ野郎!叩っ殺じでやる!とっとと下りで来い!」
キチンとした魔王になろうと志すアルファのめんどくさげな雰囲気を敏感に察知したオログはそれを侮辱と受け取ってブチ切れ、作りが荒い木の棍棒を怒りに任せて竜巻が如く振り回す。
彼の仲間が吹っ飛んだが、自身に気にする素振りは無い。
「魔王様、面倒ならば俺が殺りますが?」
副官、ガーシュが魔王に問う。
「構わん、手を出すな 武威は示さねばならん」
ゴブリンの魔王 アルファは黒いマントをバサリと脱ぎ捨て、緑色の皮膚とその下で軋む筋肉を魔力濃度の高い大広間に晒け出す。
ーーー この砦に満ち満ちた強力な魔力の主たる彼の肉体は王国を失った際に受けた深手と栄養不良の隠遁生活で弱まっていたそれから一気に全盛期近くのそれにまで復活を遂げ、体内の魔力活性の結果、皮膚は鮮やかな緑になっていた。
「二分もかからぬさ」
ゴブリンの魔王が金属片を埋め込んだ上半身に黒い鋼の棍棒を担いでハーフトロルの前に進み出るが早いか、そのオログが棍棒を魔王の頭に力一杯振り下ろす!
次の瞬間、アルファの鋼の棍棒がオログの棍棒を粉砕していた。
砕いた相手の棍の感触に違和感を覚えながら魔王は大振りなオログの振りを潜り抜け、振り向きざまに相手の頭蓋骨を粉砕しようとした。
その刹那、
相手の棍棒がハリボテであり、中に魔石が入っていた…否 魔石を埋め込まれた魔術師の杖が隠されていた、事実 今魔術陣が大気中に浮かび始めている、
そう視認するや否や、アルファは脊髄反射的に射線から飛び退いていた。
それでも間に合わず、横腹を死呪文で灼かれる
…が、至近距離から文字通り光速で飛んでくる死魔術を見切り、大きな負傷、そして死を免れたのは流石、『 ワイバーン殺しのゴブリン王 』歴戦の実力である。
この世界の戦士というものは往々に魔法や魔術をナメるが、アルファは自分の王国を高位の冒険者という強敵に滅ぼされた時 魔法の類の恐ろしさを嫌という程思い知った。
『強敵』という言葉に己が魔王になるキッカケを作った青い鎧の男が脳裏でチラつく。 彼は知らないが、その青い鎧の男は先程彼の腹を掠ったものより数段上の即死魔法をものともせずに攻撃してきた相手を殺した男でもある。
ーーー あの男に比べれば、魔術を使う巨鬼など大したことは無い!
「フン、一発目は躱しやがったか、運のいい野郎だ!
…俺について教えてやろう!
俺は第三位階の死呪文を使う黒塚生まれの黒魔術師!お前に死の炎をくれてやる!」
体勢を立て直した脳筋オログ改め黒魔術オログが流暢に啖呵を切る。
このハーフトロル、脳筋キャラを作っていたらしい。鎌倉武士ならば上位種にしかできない芸当だ。
トロル由来のおっかない脳筋な外見と熊以上の剛力を持ち、そこに高位のオーク黒魔術である死の呪文を遣う知性と己の外見を罠に即死攻撃をカマしてくるオークの狡猾さを併せ持つ厄介なオログであった。
しかし、あの男、己と同じ匂いを持つ青い鎧の男、
「殺し、殺し、殺し、更に殺し、殺し、殺しに殺し、楽しみ、飽き、楽しみ、まだまだ血と臓物を噴き出させ、骸を踏みつけるのを楽しみ足りない癖に何処か醒めていて、殺しを只の手段として冷静に効果的に用いる者」
そうアルファが評した男、『青い獣』に比べれば容易い相手だ、と更に嗤った。
「小賢しい真似を…叩き潰してくれるわ」
アルファはそう吐き捨て、死呪文で灼かれ、黒化し始めた皮膚の一部をブヂッと千切って侵食を止め、棍棒を構え直す。
「ハッ、棍棒なんぞが魔術に敵うわけ…グハァ!」
突然オログが血を吐いて地響きと共に黒い床に倒れ伏した。その背中には、アルファのものに形がよく似た棍棒が深く突き刺さっている。
「この俺が魔王とやらのツラを拝みに来たってェのに、邪魔だ」
そう低い声が、魔王城の闇中に轟いた。
矢三郎のライバルとなる男の軍団成立過程をサラリとお届けします。
まあ、武士団と魔王軍では大分差がありますが。
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あと、そろそろ増えてきた登場人物紹介もしたいところなので、
何かしらの質問がありましたら、人物紹介に併記してQ&Aという形で併記しようかなと思っています。
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