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飲み会と、恋バナと、鎌倉武士の死生観

矢三郎がある人物について語ります。前回の盗賊団団滅した日の夜のお話。

 


 かっかっか、大将首が褒賞であったこの酒樽も、その賊らの頭目を討ち取りたるこの矢三郎のものよ。お主らにも少しは呑ませてやるぞ!安心せい!


 …む? 応、あばではないか。お主もこちらへ来い。皆で呑んでおるぞ。『ぱーてぃ』の者らだけでなく、村の衆や『 ぼうけんしゃ 』どもも居る。


 芋畑(いもばた)むらおさ、禿頭(はげがしら)うぉるとふ、馬飼(うまかい)何某やら、色々来ておるぞ。


 そう怖がるな、こやつらはお主を捕って食ったりはせぬ。…ならばこっち来い、俺の隣へ座れ。


 さあ、食え食え 子供はたくさん食わねばならぬ。肉が山ほどあるぞ。芋も食え。


 …む?呑まぬのか?

 ああ、お主 『ぎるどしょくどお』で直ぐに潰れておったものな、そのちんまい身体では酒が回るのも早かろう


 …しかし、若いうちから酒に慣れ、己が手網を引くることを覚えるも肝要ぞ?


 酔わせ潰し首を取るは、初代日向様からこの矢三郎にまで続く白石家の伝統。他家の者らが用いて来ぬとも限らぬ。


 白石に限らずとも、神代まで遡らば須佐之男(スサノオ)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治、日本武尊(ヤマトタケル)熊襲(クマソ)征伐、もっと時が下っても酒呑童子(しゅてんどうじ)の故事もある。


 む?詳しく聞きたいじゃと?俺は聞きかじっただけ故、治承・寿永の乱が語りを少々と、源為朝(ためとも)公が物語しか詳しく覚えておらぬ故 それは能わぬ。


 すわ、お主ら今宵は鎮西(ちんぜい)八郎(はちろう)の話を聞きに来たのであったな!何じゃ、お主らも忘れておったのか!


 うむうむ、白石のおなごどもと違うて弱々しく気性も弱いそなたらのおなごには分からなんだようだが、お主らには鎮西八郎殿の魅力がようく分かったようじゃな。 お、この芋美味いのう。但し塩をもっと付けよ。


 …我が一族の日向次郎殿も『ほげんの乱』の折、為朝公に付き従って京に上がり 討死されたと聞き及んでおる。


『なぜ事細かにヤマタノオロチやら為朝殿の話を覚えておるのか?』じゃと?


 それは夜毎(よごと)に妻に何度も何度も聞いた故よ。


 …うおッ!なんじゃ貴様ら! 酒の席とはいえ無礼が過ぎるぞ!ぬおりゃあぁ! (む、パーティ長(アゼルハート)吹っ飛んでしもうたな。まあ良いか。)


 何じゃ お主ら口々に喚き散らしおってからに!せめて一人づつ話さんかッ!


 キコンシャとは何じゃ、妻を娶っておること?当たり前じゃ!俺を何歳だと思うておる!


 ええい、お主らいい加減座らぬか!斬るぞ!



   …うむ、それで良い。



 我が妻について聞きたいと?なんの面白みもない話ぞ?…まあ良かろう。話してやる故、もっと酒を持って参れ。


 ーーーーー


 十六の夏であったか、いざ旅人でも切らんと街道に出らば、着の身のままに顔も隠さず街道沿いを彷徨(さまよ)い歩いておる女がおったので、引っ捉えて馬の背に乗せ、屋敷に連れ帰って妻にしてやったのだ。


 何処ぞの貴族の家からの家出女であったようでな、教養こそあれどどこか垢抜けぬ、殺を嫌い、和を好む変わった女じゃった。


 恋物語を好むおなごでな、口酸っぱく源氏物語なるを聞かせて来おったが、つまらなんだのでよく覚えておらん。全然聞かなんだら怒鳴られたので、源氏物語なのに源氏が出てこぬのがおかしいと怒鳴り返してくれたわ。


 一方で軍記物語もこと細かによう覚えておってな。 …うむ、気性はぼんやりした女であったが、地頭が良く字を書くことも能うたのだ。…あれは己が好むことは詳しゅう覚えておった。



 む、そうじゃ、丁度えるふの娘に似ておる女と言わばお主らにも分かり安かろうな。



 鎮西八郎様(ちんぜいはちろうさま)悪源太(あくげんた)鎌倉殿(かまくらどの)九郎判官(義経公)が話を巧みに話しおってな、


「 琵琶法師が如きに武士の生き様語る女子、白石にとって大きな益となろう、大切にせい。但し惚れすぎるな無かれ。女を見つけたら問答無用に犯すことを忘れるな」


 と、じじ様にも陰ながらに良き妻を持ったと褒められた。親父殿も妻の語りに夢中になっておられたな。びわ法師が何かは知らぬ。白石の土地には来ぬ故な。


 また郎党や屋敷の女衆、我が妹らにも好かれておった。


 今 妻が何をしておるか?


 二昨年の夏 病を得て腹の子と共に死んだわ。


 …ごめんなさい? 何故謝るのだ。人は皆死ぬ。妻が死んだことでお前達が謝る理由がどこにあるというのだ。


 妻は死んだ。腹の子も死んだ。それだけの事よ。



若干シリアスになってしまいましたが、異世界で様々な身分の村人や冒険者たちに名字を与えたり、飲みニケーションして交流を深めて武士団をより強固なものにする割と子供には優しい矢三郎と、彼が生まれた世界で過去愛した女性のこと、それを過去のことと割り切るのが当然である鎌倉武士的な死生観について上手く描けたエピソードだと思います。


ちなみに、矢三郎に「妻に似ている」と評された天然エルフ娘はとっとと酔いつぶれて寝ています。

…間の悪い女ですな。


次話では、矢三郎のライバルとなる男について描こうと思います!


ご感想を気軽に書いて頂ければ作者にとってのニトロブーストになります!


あと、そろそろ増えてきた登場人物紹介もしたいところなので、

何かしらの質問がありましたら、人物紹介に併記してQ&Aという形で併記しようかなと思っています。


気軽にご質問などお寄せください。



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